双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 弟さんの結婚式編

式の日 1

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 屋敷と庭を繋ぐ階段の端から空を眺める。
 美しい秋晴れが広がってこの日を祝福しているみたいだった。
「待ち遠しいですね、アデーレ様」
 隣にいたアデーレ様にワクワクする気持ちを伝えてみる。
「気が早いわよ、マリナちゃん」
 アデーレ様の言うとおりまだ招待客もまばらだった。
 主役の出番はまだまだ先。
 気持ちはわかるけど、と言ってくれる。
 アデーレ様は鮮やかな赤いのドレスを着ていた。
 編み込んだ髪に小さな白い花が散っている。
「アデーレ様のドレスも綺麗ですね、花は本物ですか?」
「本物と飾りと両方あるわ」
 じっと見ても違いがよくわからない。とても精巧な装飾だった。
「マリナちゃんも可愛いわよ。 それはヴォルフから贈られた物かしら」
「わかりますか?」
 ネックレスに触れる。レグルスの街で選んだそれは違和感なくドレスに似合っている。
「婚約者と一緒に家族の結婚式出るのに、それ以外を身に着けさせるなんてあり得ないでしょう」
「…」
 ジークさんたちに感謝する。余計な火種を撒く所だった。
「今年の流行りでしょう? うらやましいわ」
 後ろの台詞はボソッと呟かれたけどすぐ近くだったので聞こえてしまう。
 マリナはマリナで羨ましい。アデーレ様みたいな艶やかで大人っぽいドレスは似合わない。
 そのまま着たら間違いなく失笑を買うと思う。
 自分のドレスを見下ろす。
 淡い緑のドレスはひらひらと軽い生地を重ねて作られたもので、動くと揺れる裾が愛らしい印象を与える。
 今年作った中で一番気に入ったドレスだ。
 しかしマリナより二つ三つ下の令嬢が着ても違和感のないドレスでもあり、複雑な気分になる。
(ふぅ…)
「化粧次第で大人っぽくなることは簡単だけど反対は難しいのよ?
 私がこの目つきを変えるためにどれだけ無駄な努力をしたか…!」
 溜息にもならない吐息を聞き止めてアデーレ様が目をつり上げる。
 元からつり上り気味の目が更に迫力を増す。
「やっぱり一度は自分と違うものに憧れるものなんですね」
「当たり前よ。 自分が完璧な存在だと勘違いできるのは一時だけだもの。
 後は嫉妬や羨望をどう変化させていけるかよ」
 自分から見て憧れや尊敬を抱く人から聞くと言葉が重みを増す。
「まあそんな話は置いておいて、ヴォルフはどこに行ったの?」
「さっきどこかのご令嬢に掴まってましたけど」
 二人組の令嬢が話しかけていた。マリナは離れた所にいたので割り込むのもどうかと思って放置してきた。
「相変わらず逃げるのが下手ね。 王宮ではどうしてたの?」
「基本的に王子の側にいるので、余程身の程知らずか礼儀知らずでなければ近寄って来ませんよ」
 側に寄るだけでも一定以上の身分でないと難しい。
 近寄れても護衛をしているヴォルフに話しかけるようなことも普通は出来ない。高位の方ならなおさら。
 そんなことをしたら家に泥を塗ることになる。
 そこまでするならヴォルフに限らず近衛騎士の誰かを狙う方が楽だ。
 近衛騎士は既婚者の方が多いけれど未婚の人もいる。
 今日は防波堤になる人がいないから大変かも。
 ヴォルフに近づける貴重な機会だと思っている令嬢は多いと思う。
「気をつけないと後で怖いわよ?」
「そうですね」
 ヴォルフに素気無くされたご令嬢が絡んでくるかもしれない。
 ちょっとした嫌味くらいなら付き合う必要があるかな。
 多少の面倒さを感じるけれど、今日は機嫌が良い。
 侯爵家で騒ぎを起こすのも得策ではないので大人しくしてよう。
 結婚式の席で大きな問題を起こす人間はいないだろう、そう思っていたマリナはまだ甘かった。
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