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セレスタ 弟さんの結婚式編
遊びに?
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侯爵家に着くとこの前と同じく歓迎された。
侯爵の態度がそのまま屋敷の人の歓待ぶりとなって発揮されている。
歓迎され過ぎて戸惑うくらいだ。
「マリナさん、待っていたよ。 アデーレも久しぶりだね、元気そうで何よりだ」
道中は仲良くやっていたみたいだね、と笑う。
アデーレ様と会ったのは侯爵の仕組んだことだったらしい。
通りで、偶然にしてはタイミングが良いはずだ。
「侯爵様、お気遣いありがとうございました。
アデーレ様とお話し出来てとても楽しかったです」
にっこり笑っていると侯爵も笑い返す。
「それは良かった。 彼女は父親譲りに色々な手管に長けているから、勉強になるだろう?」
「まあ、お父様は少し深読みが得意なだけですのよ?」
「そのくらいだったら可愛いものだが、私も散々やり込められたよ」
おかげで役に立っているがね、と朗らかに笑う侯爵の後ろからアレクさんとクリスさんが出てきた。
「遠いところをありがとうございます」
「お越しをお待ちしておりましたわ」
アレクさんはヴォルフとあまり似ていない。栗色の髪と同じ色の瞳はふたりのお母様譲りでどちらかといえば細身だ。
クリスさんは亜麻色の髪に薄い緑の瞳をしている。儚げにも見える繊細な容姿はふたりのロマンスを元にした恋愛小説が書かれるのも頷ける。
聞いたときは驚いたけど本当におふたりの話を元にした小説が人気になっているという。
身分違いの純愛として少女たちの憧れの的らしい。
おふたりと会うのは二度目。
クリス様はいずれ兄嫁になるマリナの呼び方に困ったらしく初めて会ったときはお義姉様…?と呼ばれた。
もちろん全力で遠慮したけど。
気も早いし、クリス様の方が年上なのだし、違和感が酷くて…。
それぞれさん付けで呼ぶことで納得した。
「アレクも久しぶりね、おめでとう」
「ありがとうございます。 こちらがクリスティーナです」
アデーレ様もアレクさんやクリスさんとあいさつを済ませている。
幸せに笑う花嫁花婿と家族。
つられてマリナやアデーレ様にも自然に笑顔が浮かんでいた。
マリナは前回も宛がわれた部屋に案内された。
侯爵家の家人が荷解きをしてくれるので特にすることもない。
「マリナ、暇をしてるならこっちに来い」
呼ばれてヴォルフの部屋に行く。
この前は来なかったので初めて入る。
ヴォルフの部屋は無駄な物がほとんどない
王宮の部屋もそうだけど、それは貸し与えられているものだからかと思っていた。
この部屋を見る限りではそうじゃないみたい。
それでも王宮の部屋より物が多い。
式の準備で忙しい屋敷内でお客さんの立場のマリナとヴォルフは暇を持て余していた。
ソファに座ったヴォルフの隣に腰を下ろす。
「アレクさんもクリスさんもとっても幸せそうで良かったわ」
一時期は自分のせいで危うかったと思うと申し訳ない。
侯爵も何も言わないけれど、ヴォルフが消えた時は気を揉んだだろう。
「ああ、俺もほっとした」
こんなお祝い事に参加するのは初めてだ。
屋敷全体が幸せに包まれて浮き立っていた。
「マリナ、ありがとう」
お礼を言われてヴォルフを見る。
「俺をセレスタに戻してくれて、それからセレスタに戻ってくれて」
目を見開く。ヴォルフは常にない穏やかな顔をしていた。
ヴォルフの顔を見られなくて目を逸らす。
「止めてよ、原因は私よ」
何を言われてもいいけれど、お礼だけは受け入れられない。
自分の罪過なのは理解している。
マリナの表情が強張ったのを見てヴォルフが頬に手を伸ばす。
「…! ちょっと、何するのよ!!」
頬をみょん、と引っ張られた。
「おもしろいな、柔らかくて」
マリナが怒ってもヴォルフは手を離さずにふにふに触り続ける。
痛くはないけれど、いきなり何なの!?
「止めなさいよ! もう!!」
顔を背けてもヴォルフの方がリーチが長いので逃げられない。
ふざけているようにも見えないし、意味がわからないんだけど!?
「マリナ」
ヴォルフの声が真剣みを帯びる。
両手でマリナの頬を挟み視線を合わせる。何時になく真剣な瞳は怒っているみたいに見えた。
「それを言うならお前を傷付け続けてきた俺はどう償えばいい」
思いもよらない台詞に目を瞠る。
「お前に剣を向けて追放した王子は?」
「…!」
黒い瞳がマリナを射抜く。
「俺が異世界に飛ばされたのはお前の罪過ではないし、俺を変化させたのも元はと言えば俺の言葉が原因だろう?」
確かにヴォルフが異世界に飛ばされたのは偶然だと思うけれど、大元の原因はマリナにある。
ヴォルフの瞳が鋭さを増す。
「お前はいつまで終わった事を背負うつもりだ」
ヴォルフの言に頭を殴られたような衝撃を受けた。
「終わったこと…?」
「そうだろう、俺もお前も戻って来て王子も今まで通り…。
いや、今まで以上に俺たちを信頼してくれている。
異世界に行ったことは混乱を招いたかもしれないがそれ以上に良い結果をもたらした」
「そ、れはそうだけど」
日本に行くまでは考えられなかった関係を築けているとマリナも思う。
王子ともヴォルフとも、深く信頼で結ばれているのを感じている。
「お前だけが間違えたわけじゃない。 俺も王子も間違えていた。
多くをお前一人に背負わせていたことはどう申し開きもできない」
言われることが頭の中でぐるぐる回る。
ヴォルフの目がふっと笑んだ。
「考え過ぎなのはお前の良い所でもあるんだが、悪い所でもあるな」
右手が頬から離れマリナの頭を撫でる。
左手は変わらず頬を撫でている。なんだろう宥められてるような慰められてるような変な感じ。
言われたことを反芻する。素直に言葉を呑み込むことはまだできない。
でも全部を自分のせいみたいに言ったのが間違っているというのはなんとか理解できた。
「よし、明日は出かけるか」
「?」
突然の提案に目を瞬く。
「たまには子供らしく何も考えないで楽しむことを覚えろ」
「ヴォルフだってあんまり遊びに行ったりしてなかったでしょう」
覚えてる限りずっと王宮で訓練に明け暮れていたのに。
そう言うと鼻で笑われた。失礼な。
「俺はお前の過去をよく知らないけどな…。
思い出してみろ、遊びに行く目的でどこかに行ったことはあったのか?」
「ない、けど…」
村にいた頃から思い出しても記憶に無い。
「だろう?」
言われてみたらその通りだけど。
「でも…」
「どうせ式まですることもないしな。
屋敷内をうろうろしてるより出かけてた方がいいだろう」
屋敷を離れていいのかと言おうと思ったら先回りして答えられた。
決まりだと頭を撫でられる。
明日は動きやすい格好にしろと言われたけど…、どこに行くつもりなの?
侯爵の態度がそのまま屋敷の人の歓待ぶりとなって発揮されている。
歓迎され過ぎて戸惑うくらいだ。
「マリナさん、待っていたよ。 アデーレも久しぶりだね、元気そうで何よりだ」
道中は仲良くやっていたみたいだね、と笑う。
アデーレ様と会ったのは侯爵の仕組んだことだったらしい。
通りで、偶然にしてはタイミングが良いはずだ。
「侯爵様、お気遣いありがとうございました。
アデーレ様とお話し出来てとても楽しかったです」
にっこり笑っていると侯爵も笑い返す。
「それは良かった。 彼女は父親譲りに色々な手管に長けているから、勉強になるだろう?」
「まあ、お父様は少し深読みが得意なだけですのよ?」
「そのくらいだったら可愛いものだが、私も散々やり込められたよ」
おかげで役に立っているがね、と朗らかに笑う侯爵の後ろからアレクさんとクリスさんが出てきた。
「遠いところをありがとうございます」
「お越しをお待ちしておりましたわ」
アレクさんはヴォルフとあまり似ていない。栗色の髪と同じ色の瞳はふたりのお母様譲りでどちらかといえば細身だ。
クリスさんは亜麻色の髪に薄い緑の瞳をしている。儚げにも見える繊細な容姿はふたりのロマンスを元にした恋愛小説が書かれるのも頷ける。
聞いたときは驚いたけど本当におふたりの話を元にした小説が人気になっているという。
身分違いの純愛として少女たちの憧れの的らしい。
おふたりと会うのは二度目。
クリス様はいずれ兄嫁になるマリナの呼び方に困ったらしく初めて会ったときはお義姉様…?と呼ばれた。
もちろん全力で遠慮したけど。
気も早いし、クリス様の方が年上なのだし、違和感が酷くて…。
それぞれさん付けで呼ぶことで納得した。
「アレクも久しぶりね、おめでとう」
「ありがとうございます。 こちらがクリスティーナです」
アデーレ様もアレクさんやクリスさんとあいさつを済ませている。
幸せに笑う花嫁花婿と家族。
つられてマリナやアデーレ様にも自然に笑顔が浮かんでいた。
マリナは前回も宛がわれた部屋に案内された。
侯爵家の家人が荷解きをしてくれるので特にすることもない。
「マリナ、暇をしてるならこっちに来い」
呼ばれてヴォルフの部屋に行く。
この前は来なかったので初めて入る。
ヴォルフの部屋は無駄な物がほとんどない
王宮の部屋もそうだけど、それは貸し与えられているものだからかと思っていた。
この部屋を見る限りではそうじゃないみたい。
それでも王宮の部屋より物が多い。
式の準備で忙しい屋敷内でお客さんの立場のマリナとヴォルフは暇を持て余していた。
ソファに座ったヴォルフの隣に腰を下ろす。
「アレクさんもクリスさんもとっても幸せそうで良かったわ」
一時期は自分のせいで危うかったと思うと申し訳ない。
侯爵も何も言わないけれど、ヴォルフが消えた時は気を揉んだだろう。
「ああ、俺もほっとした」
こんなお祝い事に参加するのは初めてだ。
屋敷全体が幸せに包まれて浮き立っていた。
「マリナ、ありがとう」
お礼を言われてヴォルフを見る。
「俺をセレスタに戻してくれて、それからセレスタに戻ってくれて」
目を見開く。ヴォルフは常にない穏やかな顔をしていた。
ヴォルフの顔を見られなくて目を逸らす。
「止めてよ、原因は私よ」
何を言われてもいいけれど、お礼だけは受け入れられない。
自分の罪過なのは理解している。
マリナの表情が強張ったのを見てヴォルフが頬に手を伸ばす。
「…! ちょっと、何するのよ!!」
頬をみょん、と引っ張られた。
「おもしろいな、柔らかくて」
マリナが怒ってもヴォルフは手を離さずにふにふに触り続ける。
痛くはないけれど、いきなり何なの!?
「止めなさいよ! もう!!」
顔を背けてもヴォルフの方がリーチが長いので逃げられない。
ふざけているようにも見えないし、意味がわからないんだけど!?
「マリナ」
ヴォルフの声が真剣みを帯びる。
両手でマリナの頬を挟み視線を合わせる。何時になく真剣な瞳は怒っているみたいに見えた。
「それを言うならお前を傷付け続けてきた俺はどう償えばいい」
思いもよらない台詞に目を瞠る。
「お前に剣を向けて追放した王子は?」
「…!」
黒い瞳がマリナを射抜く。
「俺が異世界に飛ばされたのはお前の罪過ではないし、俺を変化させたのも元はと言えば俺の言葉が原因だろう?」
確かにヴォルフが異世界に飛ばされたのは偶然だと思うけれど、大元の原因はマリナにある。
ヴォルフの瞳が鋭さを増す。
「お前はいつまで終わった事を背負うつもりだ」
ヴォルフの言に頭を殴られたような衝撃を受けた。
「終わったこと…?」
「そうだろう、俺もお前も戻って来て王子も今まで通り…。
いや、今まで以上に俺たちを信頼してくれている。
異世界に行ったことは混乱を招いたかもしれないがそれ以上に良い結果をもたらした」
「そ、れはそうだけど」
日本に行くまでは考えられなかった関係を築けているとマリナも思う。
王子ともヴォルフとも、深く信頼で結ばれているのを感じている。
「お前だけが間違えたわけじゃない。 俺も王子も間違えていた。
多くをお前一人に背負わせていたことはどう申し開きもできない」
言われることが頭の中でぐるぐる回る。
ヴォルフの目がふっと笑んだ。
「考え過ぎなのはお前の良い所でもあるんだが、悪い所でもあるな」
右手が頬から離れマリナの頭を撫でる。
左手は変わらず頬を撫でている。なんだろう宥められてるような慰められてるような変な感じ。
言われたことを反芻する。素直に言葉を呑み込むことはまだできない。
でも全部を自分のせいみたいに言ったのが間違っているというのはなんとか理解できた。
「よし、明日は出かけるか」
「?」
突然の提案に目を瞬く。
「たまには子供らしく何も考えないで楽しむことを覚えろ」
「ヴォルフだってあんまり遊びに行ったりしてなかったでしょう」
覚えてる限りずっと王宮で訓練に明け暮れていたのに。
そう言うと鼻で笑われた。失礼な。
「俺はお前の過去をよく知らないけどな…。
思い出してみろ、遊びに行く目的でどこかに行ったことはあったのか?」
「ない、けど…」
村にいた頃から思い出しても記憶に無い。
「だろう?」
言われてみたらその通りだけど。
「でも…」
「どうせ式まですることもないしな。
屋敷内をうろうろしてるより出かけてた方がいいだろう」
屋敷を離れていいのかと言おうと思ったら先回りして答えられた。
決まりだと頭を撫でられる。
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