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セレスタ 弟さんの結婚式編
恋敵、ではなく
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夕刻になる前に侯爵家に着く。
こうしてアデーレ様と話せるのもあと少しということ。
そろそろいいだろうと思って核心に迫ってみる。
「私たちが一緒に馬車から降りたら侯爵家の方は驚くでしょうか?」
「あの家の人は驚かないわね。 驚くとしたら招待客くらいかしら」
アデーレ様ももう十分だと判断したのか先程までとは違う笑みを浮かべた。
「そうですか。 一緒に街を歩いたりでもしたら、更に衝撃を与えられるんでしょうけれどね」
侯爵に挨拶に行く前に街に行くのは失礼なので、まずは侯爵家に向かわないといけない。
昔からヴォルフと仲が良くて侯爵家にもよく遊びに来ていたご令嬢と、ヴォルフの婚約者が同じ馬車に乗って来たというのは、何も知らない者からしたら驚きの光景だろう。
マリナが気に入らない人はヴォルフとの婚約を快く思わない。
揃って家族の結婚式に出席するというのは内々の話ではないと広めることになる。
王宮では噂になっていたけれど、地方にいる貴族たちには伝わっていないことも考えられるし、伝わっても信じていないかもしれない。
結婚式への出席を以て正式に婚約者として認められていると示すことができる。
アデーレ様の同行はその一助といったところでしょう。
近しい人はみんなマリナを認めてますよ、といった無言の肯定だ。
嫉妬させるような話題を振っていたのはマリナがどんな人間か知りたかったから。そうマリナは思っていた。
「貴女は本当に察しがいいわね…。 ヴォルフとは大違い」
アデーレ様の言い様に苦笑する。
「ヴォルフはあれでいいんですよ」
真っ直ぐなのがヴォルフの良い所だ。
マリナのように人の裏を予想してあれこれ考えるなんて似合わない。
自分にも他人にも正直で、偽らない、愚直とも言える性質。
そんなヴォルフにどれだけ救われたか知れない。
「でもホントに嫉妬しなかった? 全く?」
アデーレ様は私に免疫をつけようとしたんでしょうか。
「楽しかったですよ?」
ヴォルフにも小さい頃があったんだなー、と思った。
「こんなに嫉妬してくれないとつまらないわ。
せっかく結婚をすることも考えてたって暴露したのに」
不服そうな顔をするアデーレ様。
「油断しちゃだめよ? 祝いの席だろうと場を弁えないでヴォルフに近寄ろうとする子はいるんだから!」
「やっぱりですか…」
想像はしてたけど。もしかしたら王宮の夜会よりも、令嬢たちが傍に近寄りやすいのかもしれない。
「マリナちゃんは年齢からも見た目からも侮られやすいと思うから心配だわ」
いつの間にかちゃん付けになっている。
不思議と嫌じゃなかった。
「立場的にも、ですね」
シャルロッテたちと話した時にも思ったけれど双翼がどの程度の立場なのか、理解していない人も多いと思う。
王宮の序列に詳しくなければそれも仕方ないのかもしれない。
一歩王宮の外に出たからといって無くなるほど弱い権威でもないのだけれど。
「それもあるわね。
流石にマリナちゃんが双翼だって知らない人はいいないと思うけれど、実際にマリナちゃんを見て脅威だと思う人はあまりいないと思うわ」
幼馴染みだからか、言葉選びがヴォルフと一緒でびっくりする。
「なんで脅威って話になるんですか…」
「怖そう、って思えないから手を出しやすいんじゃないかしら」
あ、ヴォルフと違って理由を説明してくれた。
「それはそれで好都合ですよ」
得意気に貶めようとしてくる人間をへこませるのも楽しいものです、そう言うとアデーレ様が声を出して笑う。
「ふふっ…、気が合いそうね?」
私もそういうの大好きなの、と笑むアデーレ様。
外見も相まって迫力がある。
「私はあまり実践経験がないので、ご教授いただけるとうれしいです」
「いいわよ? 恋人に近づいてくる虫の払い方から欲望を隠さない蛇の潰し方まで、きっちり教えてあげる」
へび?疑問が顔に出ていた。アデーレ様がしつこく言い寄ってこようとする男性を指すのだと教えてくれた。
そんな隠語があったなんて、まだまだ知らないことは多い。
これからも王子やヴォルフの側にいようと思ったら無駄な知識なんて何一つない。
アデーレ様のような知己を得たのはとても心強かった。
こうしてアデーレ様と話せるのもあと少しということ。
そろそろいいだろうと思って核心に迫ってみる。
「私たちが一緒に馬車から降りたら侯爵家の方は驚くでしょうか?」
「あの家の人は驚かないわね。 驚くとしたら招待客くらいかしら」
アデーレ様ももう十分だと判断したのか先程までとは違う笑みを浮かべた。
「そうですか。 一緒に街を歩いたりでもしたら、更に衝撃を与えられるんでしょうけれどね」
侯爵に挨拶に行く前に街に行くのは失礼なので、まずは侯爵家に向かわないといけない。
昔からヴォルフと仲が良くて侯爵家にもよく遊びに来ていたご令嬢と、ヴォルフの婚約者が同じ馬車に乗って来たというのは、何も知らない者からしたら驚きの光景だろう。
マリナが気に入らない人はヴォルフとの婚約を快く思わない。
揃って家族の結婚式に出席するというのは内々の話ではないと広めることになる。
王宮では噂になっていたけれど、地方にいる貴族たちには伝わっていないことも考えられるし、伝わっても信じていないかもしれない。
結婚式への出席を以て正式に婚約者として認められていると示すことができる。
アデーレ様の同行はその一助といったところでしょう。
近しい人はみんなマリナを認めてますよ、といった無言の肯定だ。
嫉妬させるような話題を振っていたのはマリナがどんな人間か知りたかったから。そうマリナは思っていた。
「貴女は本当に察しがいいわね…。 ヴォルフとは大違い」
アデーレ様の言い様に苦笑する。
「ヴォルフはあれでいいんですよ」
真っ直ぐなのがヴォルフの良い所だ。
マリナのように人の裏を予想してあれこれ考えるなんて似合わない。
自分にも他人にも正直で、偽らない、愚直とも言える性質。
そんなヴォルフにどれだけ救われたか知れない。
「でもホントに嫉妬しなかった? 全く?」
アデーレ様は私に免疫をつけようとしたんでしょうか。
「楽しかったですよ?」
ヴォルフにも小さい頃があったんだなー、と思った。
「こんなに嫉妬してくれないとつまらないわ。
せっかく結婚をすることも考えてたって暴露したのに」
不服そうな顔をするアデーレ様。
「油断しちゃだめよ? 祝いの席だろうと場を弁えないでヴォルフに近寄ろうとする子はいるんだから!」
「やっぱりですか…」
想像はしてたけど。もしかしたら王宮の夜会よりも、令嬢たちが傍に近寄りやすいのかもしれない。
「マリナちゃんは年齢からも見た目からも侮られやすいと思うから心配だわ」
いつの間にかちゃん付けになっている。
不思議と嫌じゃなかった。
「立場的にも、ですね」
シャルロッテたちと話した時にも思ったけれど双翼がどの程度の立場なのか、理解していない人も多いと思う。
王宮の序列に詳しくなければそれも仕方ないのかもしれない。
一歩王宮の外に出たからといって無くなるほど弱い権威でもないのだけれど。
「それもあるわね。
流石にマリナちゃんが双翼だって知らない人はいいないと思うけれど、実際にマリナちゃんを見て脅威だと思う人はあまりいないと思うわ」
幼馴染みだからか、言葉選びがヴォルフと一緒でびっくりする。
「なんで脅威って話になるんですか…」
「怖そう、って思えないから手を出しやすいんじゃないかしら」
あ、ヴォルフと違って理由を説明してくれた。
「それはそれで好都合ですよ」
得意気に貶めようとしてくる人間をへこませるのも楽しいものです、そう言うとアデーレ様が声を出して笑う。
「ふふっ…、気が合いそうね?」
私もそういうの大好きなの、と笑むアデーレ様。
外見も相まって迫力がある。
「私はあまり実践経験がないので、ご教授いただけるとうれしいです」
「いいわよ? 恋人に近づいてくる虫の払い方から欲望を隠さない蛇の潰し方まで、きっちり教えてあげる」
へび?疑問が顔に出ていた。アデーレ様がしつこく言い寄ってこようとする男性を指すのだと教えてくれた。
そんな隠語があったなんて、まだまだ知らないことは多い。
これからも王子やヴォルフの側にいようと思ったら無駄な知識なんて何一つない。
アデーレ様のような知己を得たのはとても心強かった。
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