双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

文字の大きさ
上 下
144 / 368
セレスタ 弟さんの結婚式編

馬車に揺られて

しおりを挟む
 ヴォルフの弟さんの結婚式まで一週間。
 マリナとヴォルフは休暇を貰って侯爵家に向かっていた。
 結婚式はまず二人だけで教会で誓った後、侯爵家で披露宴をして、その後伯爵家でも披露宴をするという流れになっている。
 マリナたちが出席するのは侯爵家の披露宴のみ。
 伯爵家での披露宴は伯爵家の身内が中心になって行われるので侯爵もヴォルフも出ない。当然マリナも出席しないで王都に帰ることになっている。
 一日で着ける距離ではないので(地上から行けば)宿を取りながらの行程になる。
 侯爵の親しい貴族の屋敷に泊めてもらう方法もあったけれど断った。
 気を使うのと、宿屋の泊まり方を知るいい機会だとおもったので。
 言った時は笑われたけど。だって知らないままでいるのは嫌なんだもの。
 マリナの我が儘をヴォルフも了承してくれた。ヴォルフも気を使うのは嫌だったんだろう。
 馬車を人に任せて馬で行けたらよかったのだけれど、そうもいかない。
 式で使う荷物が多数積まれているので他人任せにはできなかった。
 景色を見ているのは楽しいけれど、馬車の小さい窓でなければもっといいのに。
 流れる景色を視界に収めながら馬車の壁に凭れかけた。
 このところの寝不足が祟ったようで少し頭がぼうっとする。
 眠るほどでもないので本でも読みたいけれど、下を向いていたら酔いそうなので止めた。
「だるそうだな」
「そんなこともないけれど…」
 だるいというほどではない。ちょっとだけぼんやりしているだけだ。
「着くまでまだあるんだから少し寝てろ」
 ぐいっと肩を引かれてヴォルフの胸に額をぶつける。
 抗議しようと上げた視線が至近距離で見下ろすヴォルフ瞳を捉えた。
「…!」
 愛しさを隠さない瞳で見つめられて言葉を失う。
 普段と違う格好をしていることも、仕事中でないのを意識させて胸の熱が高まっていく。
 当然ながら結婚式に向かうのは私事なのでヴォルフは騎士服ではなく私服を着ていた。
 見慣れた衣装でないというだけでなんでここまで動揺してしまうのか。
 離れようと手を付いた身体の感触にびっくりして手を離す。
「マリナ?」
 かっちりした騎士の制服とは違い、シャツの下の鍛えられた身体の感触がはっきりとわかった。
 驚きに固まったマリナをヴォルフが抱き寄せる。
 抱き寄せようと伸ばされた手の感触はいつもと同じなのに、肩に触れる腕と胸板の感触に顔が熱くなっていく。
「ちょっと、離れて…!」
 慌てて離れようと暴れる。
 慣れたと思ったのに今は駄目だった。
「どうした?」
 ヴォルフがマリナの顔を覗き込む。
 多分、顔は真っ赤になっている。
「…!」
 瞳が合い、今度息を呑んだのはヴォルフの方だった。
 手が離れたので身を起こして窓の側まで逃げる。
「どうしたんだ、急に?」
 ヴォルフも困惑している。どう答えていいのか迷った。
「何か、いつもと違ったから…」
 曖昧な表現で正直に答える。
 わからないならその方がいいと思ったけれど、ヴォルフには伝わった。
「それをいうならお前もだ」
 私?
 言われて自分の格好を見下ろす。
 マリナも魔術師のローブではなく普通のワンピースを着ている。
 秋とはいえ、まだ寒くなるほどではないので袖は長いが生地は薄い。
「お前も普段より柔らかそうだ」
 何が!?という言葉は口中で止めた。碌な返事が返ってこない気がする。
 お互いにいつもと違う服装に戸惑っているだけよね?
 ヴォルフのは違った気がするけど意識したらいけない。
「似合ってる」
 さらりと言って髪を梳く。
「珍しいね」
 照れるより驚いた。
 あんまりそういうこと言わないのに。
「いつも思ってるが、中々口にはな…」
 照れ臭そうに視線を逸らす。
 わずかに頬が染まっている。
 珍しい表情にまじまじと観察してしまう。
(か、可愛い…)
 じいっと見つめているとヴォルフが顔を背ける。
「こっち向いて」
 袖を引っ張るけれど頑としてこっちを見ない。
 こっちを向かせようと伸ばした手はヴォルフに押さえられる。
(む)
 そんなに頑なに拒まれると見たくなってしまう。
 前に回り込もうとしたとき、馬車が揺れた。
「っ!」
 不安定な姿勢だったので揺れに耐えられず後ろに倒れる。
「マリナ!」
 頭を打つ前にヴォルフの手がマリナの腕を引く。
 気が付いたら頭を抱き込まれていた。
 マリナを抱きかかえて自分も頭を打ったりしない反射神経がすごい。
 マリナも反射神経は悪くないけれどヴォルフのようには動けないと思う。
「はしゃぎすぎだ」
 真面目な顔で注意された。
「ごめん…」
 素直に謝って席に戻る。
 自覚はなかったけれど結構浮かれているのかもしれなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...