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セレスタ 弟さんの結婚式編
馬車に揺られて
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ヴォルフの弟さんの結婚式まで一週間。
マリナとヴォルフは休暇を貰って侯爵家に向かっていた。
結婚式はまず二人だけで教会で誓った後、侯爵家で披露宴をして、その後伯爵家でも披露宴をするという流れになっている。
マリナたちが出席するのは侯爵家の披露宴のみ。
伯爵家での披露宴は伯爵家の身内が中心になって行われるので侯爵もヴォルフも出ない。当然マリナも出席しないで王都に帰ることになっている。
一日で着ける距離ではないので(地上から行けば)宿を取りながらの行程になる。
侯爵の親しい貴族の屋敷に泊めてもらう方法もあったけれど断った。
気を使うのと、宿屋の泊まり方を知るいい機会だとおもったので。
言った時は笑われたけど。だって知らないままでいるのは嫌なんだもの。
マリナの我が儘をヴォルフも了承してくれた。ヴォルフも気を使うのは嫌だったんだろう。
馬車を人に任せて馬で行けたらよかったのだけれど、そうもいかない。
式で使う荷物が多数積まれているので他人任せにはできなかった。
景色を見ているのは楽しいけれど、馬車の小さい窓でなければもっといいのに。
流れる景色を視界に収めながら馬車の壁に凭れかけた。
このところの寝不足が祟ったようで少し頭がぼうっとする。
眠るほどでもないので本でも読みたいけれど、下を向いていたら酔いそうなので止めた。
「だるそうだな」
「そんなこともないけれど…」
だるいというほどではない。ちょっとだけぼんやりしているだけだ。
「着くまでまだあるんだから少し寝てろ」
ぐいっと肩を引かれてヴォルフの胸に額をぶつける。
抗議しようと上げた視線が至近距離で見下ろすヴォルフ瞳を捉えた。
「…!」
愛しさを隠さない瞳で見つめられて言葉を失う。
普段と違う格好をしていることも、仕事中でないのを意識させて胸の熱が高まっていく。
当然ながら結婚式に向かうのは私事なのでヴォルフは騎士服ではなく私服を着ていた。
見慣れた衣装でないというだけでなんでここまで動揺してしまうのか。
離れようと手を付いた身体の感触にびっくりして手を離す。
「マリナ?」
かっちりした騎士の制服とは違い、シャツの下の鍛えられた身体の感触がはっきりとわかった。
驚きに固まったマリナをヴォルフが抱き寄せる。
抱き寄せようと伸ばされた手の感触はいつもと同じなのに、肩に触れる腕と胸板の感触に顔が熱くなっていく。
「ちょっと、離れて…!」
慌てて離れようと暴れる。
慣れたと思ったのに今は駄目だった。
「どうした?」
ヴォルフがマリナの顔を覗き込む。
多分、顔は真っ赤になっている。
「…!」
瞳が合い、今度息を呑んだのはヴォルフの方だった。
手が離れたので身を起こして窓の側まで逃げる。
「どうしたんだ、急に?」
ヴォルフも困惑している。どう答えていいのか迷った。
「何か、いつもと違ったから…」
曖昧な表現で正直に答える。
わからないならその方がいいと思ったけれど、ヴォルフには伝わった。
「それをいうならお前もだ」
私?
言われて自分の格好を見下ろす。
マリナも魔術師のローブではなく普通のワンピースを着ている。
秋とはいえ、まだ寒くなるほどではないので袖は長いが生地は薄い。
「お前も普段より柔らかそうだ」
何が!?という言葉は口中で止めた。碌な返事が返ってこない気がする。
お互いにいつもと違う服装に戸惑っているだけよね?
ヴォルフのは違った気がするけど意識したらいけない。
「似合ってる」
さらりと言って髪を梳く。
「珍しいね」
照れるより驚いた。
あんまりそういうこと言わないのに。
「いつも思ってるが、中々口にはな…」
照れ臭そうに視線を逸らす。
わずかに頬が染まっている。
珍しい表情にまじまじと観察してしまう。
(か、可愛い…)
じいっと見つめているとヴォルフが顔を背ける。
「こっち向いて」
袖を引っ張るけれど頑としてこっちを見ない。
こっちを向かせようと伸ばした手はヴォルフに押さえられる。
(む)
そんなに頑なに拒まれると見たくなってしまう。
前に回り込もうとしたとき、馬車が揺れた。
「っ!」
不安定な姿勢だったので揺れに耐えられず後ろに倒れる。
「マリナ!」
頭を打つ前にヴォルフの手がマリナの腕を引く。
気が付いたら頭を抱き込まれていた。
マリナを抱きかかえて自分も頭を打ったりしない反射神経がすごい。
マリナも反射神経は悪くないけれどヴォルフのようには動けないと思う。
「はしゃぎすぎだ」
真面目な顔で注意された。
「ごめん…」
素直に謝って席に戻る。
自覚はなかったけれど結構浮かれているのかもしれなかった。
マリナとヴォルフは休暇を貰って侯爵家に向かっていた。
結婚式はまず二人だけで教会で誓った後、侯爵家で披露宴をして、その後伯爵家でも披露宴をするという流れになっている。
マリナたちが出席するのは侯爵家の披露宴のみ。
伯爵家での披露宴は伯爵家の身内が中心になって行われるので侯爵もヴォルフも出ない。当然マリナも出席しないで王都に帰ることになっている。
一日で着ける距離ではないので(地上から行けば)宿を取りながらの行程になる。
侯爵の親しい貴族の屋敷に泊めてもらう方法もあったけれど断った。
気を使うのと、宿屋の泊まり方を知るいい機会だとおもったので。
言った時は笑われたけど。だって知らないままでいるのは嫌なんだもの。
マリナの我が儘をヴォルフも了承してくれた。ヴォルフも気を使うのは嫌だったんだろう。
馬車を人に任せて馬で行けたらよかったのだけれど、そうもいかない。
式で使う荷物が多数積まれているので他人任せにはできなかった。
景色を見ているのは楽しいけれど、馬車の小さい窓でなければもっといいのに。
流れる景色を視界に収めながら馬車の壁に凭れかけた。
このところの寝不足が祟ったようで少し頭がぼうっとする。
眠るほどでもないので本でも読みたいけれど、下を向いていたら酔いそうなので止めた。
「だるそうだな」
「そんなこともないけれど…」
だるいというほどではない。ちょっとだけぼんやりしているだけだ。
「着くまでまだあるんだから少し寝てろ」
ぐいっと肩を引かれてヴォルフの胸に額をぶつける。
抗議しようと上げた視線が至近距離で見下ろすヴォルフ瞳を捉えた。
「…!」
愛しさを隠さない瞳で見つめられて言葉を失う。
普段と違う格好をしていることも、仕事中でないのを意識させて胸の熱が高まっていく。
当然ながら結婚式に向かうのは私事なのでヴォルフは騎士服ではなく私服を着ていた。
見慣れた衣装でないというだけでなんでここまで動揺してしまうのか。
離れようと手を付いた身体の感触にびっくりして手を離す。
「マリナ?」
かっちりした騎士の制服とは違い、シャツの下の鍛えられた身体の感触がはっきりとわかった。
驚きに固まったマリナをヴォルフが抱き寄せる。
抱き寄せようと伸ばされた手の感触はいつもと同じなのに、肩に触れる腕と胸板の感触に顔が熱くなっていく。
「ちょっと、離れて…!」
慌てて離れようと暴れる。
慣れたと思ったのに今は駄目だった。
「どうした?」
ヴォルフがマリナの顔を覗き込む。
多分、顔は真っ赤になっている。
「…!」
瞳が合い、今度息を呑んだのはヴォルフの方だった。
手が離れたので身を起こして窓の側まで逃げる。
「どうしたんだ、急に?」
ヴォルフも困惑している。どう答えていいのか迷った。
「何か、いつもと違ったから…」
曖昧な表現で正直に答える。
わからないならその方がいいと思ったけれど、ヴォルフには伝わった。
「それをいうならお前もだ」
私?
言われて自分の格好を見下ろす。
マリナも魔術師のローブではなく普通のワンピースを着ている。
秋とはいえ、まだ寒くなるほどではないので袖は長いが生地は薄い。
「お前も普段より柔らかそうだ」
何が!?という言葉は口中で止めた。碌な返事が返ってこない気がする。
お互いにいつもと違う服装に戸惑っているだけよね?
ヴォルフのは違った気がするけど意識したらいけない。
「似合ってる」
さらりと言って髪を梳く。
「珍しいね」
照れるより驚いた。
あんまりそういうこと言わないのに。
「いつも思ってるが、中々口にはな…」
照れ臭そうに視線を逸らす。
わずかに頬が染まっている。
珍しい表情にまじまじと観察してしまう。
(か、可愛い…)
じいっと見つめているとヴォルフが顔を背ける。
「こっち向いて」
袖を引っ張るけれど頑としてこっちを見ない。
こっちを向かせようと伸ばした手はヴォルフに押さえられる。
(む)
そんなに頑なに拒まれると見たくなってしまう。
前に回り込もうとしたとき、馬車が揺れた。
「っ!」
不安定な姿勢だったので揺れに耐えられず後ろに倒れる。
「マリナ!」
頭を打つ前にヴォルフの手がマリナの腕を引く。
気が付いたら頭を抱き込まれていた。
マリナを抱きかかえて自分も頭を打ったりしない反射神経がすごい。
マリナも反射神経は悪くないけれどヴォルフのようには動けないと思う。
「はしゃぎすぎだ」
真面目な顔で注意された。
「ごめん…」
素直に謝って席に戻る。
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