双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 帰還編

レグルスの街で 3

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 レグルスの街を外壁に沿って歩く。
 にぎやかなのは大通りを中心とした内側なので、外側はわりと静かだった。
 時折すれ違う以外は人を見ない。
 おかげでこの状態も見咎められずに済んだ。
「ヴォルフ?」
「何だ?」
 さっきまで目を合わせなかったヴォルフがマリナの目を捉えている。
 距離が近くて緊張で息が苦しい。
「離れてくれる?」
 努めて落ち着いた声を出そうとしたのに失敗して声が震える。
「…っ」
 緊張しているのはマリナのはずなのにヴォルフの方がが息を詰めた。
 繋がれていた手はまるで拘束するように壁に押し付けられていて、否応なしに鼓動が激しくなる。
「無理だ」
 短い返答は否を返すものだった。
 間にある緊張が一段と高まったのを感じる。
「どうして?」
 ただ手を離して身を起こすだけなのに。
 わかっているのに気がつかない振りをする。
 危険信号が頭の中に鳴り響く。
 このままでいたら…。
 警鐘を鳴らす脳裏に直接響かせるようにヴォルフが耳元で囁いた。
「わかってるだろう?」
 更に距離が縮まる。
 あと少しで触れ合いそうなほどに近く、相手の瞳にお互いが映っているのがわかる。
「今すぐお前に触れたい」
 はっきりと口にするのはマリナに心構えをさせるためなのか、それとも…。
 息を吸おうと薄く開いたくちびるにヴォルフのくちびるが重なった。
 震える心のままに魔力が暴れそうになる。
 何度か繰り返した行為なのに、平静でなんていられない。
 自身の中で荒れ狂う奔流を制御しながら口づけを受け入れる。
 瞳を開けるとヴォルフと目が合う。
 熱を孕んだ瞳が自分を見ている。そう感じると焼け焦げそうなほど胸が熱くなる。
「…っ!」
 溢れたのは魔力ではなくて涙だった。
「マリナ?」
 零れた涙に驚いたのかヴォルフが唇を離す。
「どうし…」
 言葉が終わる前に自分からヴォルフを引き寄せて腕の中に収まる。
 驚きに息を吸ったのが密着した胸からわかった。
「苦しい…」
 そう吐露するとヴォルフが焦った様子が伝わる。
「大丈夫か?」
「うん…。 ちょっと落ち着くまでこうしていて」
 胸が高鳴り過ぎて苦しい。
 逞しい胸板に額を押し付けると上から息を呑む音が聞こえた。
 もしかしたら酷いことをしているのかもしれない。
 少しよぎった思いは忘れて自分を落ち着かせることに集中する。
 絡んだ手の強さはそのままなのに自分から身を寄せていると穏やかな気持ちになっていく。
 やがてヴォルフがマリナの背中を撫で始めると暴れていた鼓動は静かになっていった。
 ようやく落ち着いて顔を上げるとヴォルフと目が合う。
 ヴォルフの瞳に宿っていた熱も一見しては消えていた。
 あんな熱情がさっぱり消えた瞳に疑心を抱く。
「すまないな、驚かせたみたいで」
 笑みを浮かべて謝るヴォルフは穏やかに見える。
 何処かに想いが燻っているんじゃないかと瞳の中を探すけれどマリナにそれを悟らせることはなかった。
 首を振って大丈夫だと示す。
 涙の痕が残っていたのかヴォルフの指が目じりを撫でる。
 くすぐったさを我慢しているとヴォルフの目がふっと柔らかくなった。
「行くぞ」
 手を取られて歩き出す。
 さっきよりゆっくりした歩みは歩いていること自体を楽しんでいるみたいで、まるでデートみたいだと、馬鹿な考えが頭を掠めた。
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