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セレスタ 帰還編
レグルスの街で 2
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「ヴォルフ?」
どうしたの、という言葉は口内で消える。
様子が変過ぎて声を掛けるのも躊躇われた。
重ねた手を引かれてヴォルフを追いかける。
固く引き結んだ横顔からは何を考えてるのか読み取れない。
さっきまで柔らかい表情でマリナを見ていたのに、いきなりどうしたんだろう。
何か話そうにもこの辺りはヴォルフの気を引けそうな店もなかった。
エスコートと言うには性急すぎる動きに戸惑いばかりが立つ。
辛うじてついて行ける速さだけど、ヒールのある靴でついて行くのは少し辛い。
「ちょっと待っ…」
石畳にヒールが引っかかった振りでよろめくと、息を呑んで足を止める。
ヴォルフの腕に手を付く。体重を掛けてもマリナが身体を支えるくらいではびくともしない。
わざとらしいと自分でも思ったけれどヴォルフは気が付かないで謝る。
気づかないなんて本当に動揺しているみたい。
「すまない…」
「大丈夫、だけど少しどこかで休みましょうか」
喉も乾いたし、と理由を付けるとヴォルフの様子が少し落ち着いた。
手近にあった店に入って店員に注文を伝える。
待っている間ヴォルフを観察していたけれど、やっぱりいつもと様子が違う。
「以外と早く用事が終わったわね」
「ああ、そうだな」
話しかけても短い返事しかしない。
それ自体はいつもとそう変わらないのだけれど、決定的に違うことがある。
視線が、合わない。
いつも真っ直ぐに目を見るヴォルフがさっきからマリナの目を見なかった。
何もした覚えがないのだけれど、知らない間に怒らせるようなことでもしたのかと記憶を浚う。
考えてもそれらしき記憶はない。
それに、ヴォルフからは怒りを感じなかった。
(怒るほどではないけど、不快に感じることをしたとか?)
よくわからない。ヴォルフは嫌なことがあったらわりとはっきりと言うので、こうして視線を逸らして曖昧な態度を取ること自体あまりないことだった。
運ばれた果汁を飲みながら適当に話題を振る。
ヴォルフは珈琲を飲んでいたけれど、味わっているようには見えない。
「ねえ」
「ん?」
呼びかけにも返事はする。聞いてないわけではないようだけど。
「この後はどうする?」
まだ日は高い。この時間に帰ったら適当に選んできたんじゃないかと心配されそうだ。
特にミヒャエルさんとかジークさんが。
近衛のみんなは意外と過保護なのかと最近は思う。
これまでの6年間で一度もそんなことは思ったことなかったのに。
不思議なことだと思っているとヴォルフがカップを置いた。
「困ったな」
率直な台詞にマリナも苦笑を浮かべる。
「そうよねえ、普段私たちって何してたかしら」
王宮にいるときは仕事や訓練で時間が過ぎていった。
余暇はそれぞれ自分の興味の向くことを好きにしていたから、こうして一緒に過ごしなさいと言われても少し困る。
「せっかくだからレグルス観光でもする?」
それ以外何も考え付かない。
観光といっても有名な場所なんて知らない。
他国から入ってくる品が多く見られるのが特色といえば特色だ。
けれど興味の向くままに魔道具の店や武具を扱う店に行ったりなんてしたら、空気の読めないヤツと言われるのが目に見えていた。
買い物はさっきしたし、することが終わってしたいことが思いつかない。
いっそ暗くなるまで公園でぼんやりするのもいいかもと、若干投げやりに思った。
どうしたの、という言葉は口内で消える。
様子が変過ぎて声を掛けるのも躊躇われた。
重ねた手を引かれてヴォルフを追いかける。
固く引き結んだ横顔からは何を考えてるのか読み取れない。
さっきまで柔らかい表情でマリナを見ていたのに、いきなりどうしたんだろう。
何か話そうにもこの辺りはヴォルフの気を引けそうな店もなかった。
エスコートと言うには性急すぎる動きに戸惑いばかりが立つ。
辛うじてついて行ける速さだけど、ヒールのある靴でついて行くのは少し辛い。
「ちょっと待っ…」
石畳にヒールが引っかかった振りでよろめくと、息を呑んで足を止める。
ヴォルフの腕に手を付く。体重を掛けてもマリナが身体を支えるくらいではびくともしない。
わざとらしいと自分でも思ったけれどヴォルフは気が付かないで謝る。
気づかないなんて本当に動揺しているみたい。
「すまない…」
「大丈夫、だけど少しどこかで休みましょうか」
喉も乾いたし、と理由を付けるとヴォルフの様子が少し落ち着いた。
手近にあった店に入って店員に注文を伝える。
待っている間ヴォルフを観察していたけれど、やっぱりいつもと様子が違う。
「以外と早く用事が終わったわね」
「ああ、そうだな」
話しかけても短い返事しかしない。
それ自体はいつもとそう変わらないのだけれど、決定的に違うことがある。
視線が、合わない。
いつも真っ直ぐに目を見るヴォルフがさっきからマリナの目を見なかった。
何もした覚えがないのだけれど、知らない間に怒らせるようなことでもしたのかと記憶を浚う。
考えてもそれらしき記憶はない。
それに、ヴォルフからは怒りを感じなかった。
(怒るほどではないけど、不快に感じることをしたとか?)
よくわからない。ヴォルフは嫌なことがあったらわりとはっきりと言うので、こうして視線を逸らして曖昧な態度を取ること自体あまりないことだった。
運ばれた果汁を飲みながら適当に話題を振る。
ヴォルフは珈琲を飲んでいたけれど、味わっているようには見えない。
「ねえ」
「ん?」
呼びかけにも返事はする。聞いてないわけではないようだけど。
「この後はどうする?」
まだ日は高い。この時間に帰ったら適当に選んできたんじゃないかと心配されそうだ。
特にミヒャエルさんとかジークさんが。
近衛のみんなは意外と過保護なのかと最近は思う。
これまでの6年間で一度もそんなことは思ったことなかったのに。
不思議なことだと思っているとヴォルフがカップを置いた。
「困ったな」
率直な台詞にマリナも苦笑を浮かべる。
「そうよねえ、普段私たちって何してたかしら」
王宮にいるときは仕事や訓練で時間が過ぎていった。
余暇はそれぞれ自分の興味の向くことを好きにしていたから、こうして一緒に過ごしなさいと言われても少し困る。
「せっかくだからレグルス観光でもする?」
それ以外何も考え付かない。
観光といっても有名な場所なんて知らない。
他国から入ってくる品が多く見られるのが特色といえば特色だ。
けれど興味の向くままに魔道具の店や武具を扱う店に行ったりなんてしたら、空気の読めないヤツと言われるのが目に見えていた。
買い物はさっきしたし、することが終わってしたいことが思いつかない。
いっそ暗くなるまで公園でぼんやりするのもいいかもと、若干投げやりに思った。
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