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セレスタ 帰還編
レグルスの街で 1
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翌日。
マリナとヴォルフはレグルスの街を散策していた。
王子とは別行動で。
双翼が王子の側にいないでどうするのかと何度も自問する。
強制的に同行者から外されたことも尾を引いていた。
理由はわかってるけど納得できるかといったら別の問題で。
思わずため息を吐くとヴォルフが視線を向けてきた。
「まだ気にしてるのか?」
「ヴォルフは気にしてないの?」
王宮内ならともかくこんな街中で二人とも王子の護衛から離れているというのは落ち着かない。
ジークさんたちに説明もしてもらったので必要なのはわかったけれど、せめて王子が屋敷で休んでいる時間にしてくれたらよかったのに。
「こうしていて良いのかという思いはあるが…、俺は何も言えないな」
自分が色々と怠ったせいだから、と呟くヴォルフは珍しいことに落ち込んでいるようだった。
「それを言ったら普段の行いのせいとも言えるわね」
王都に戻ってからでも良いと言ったら、どうせ休みなんて取れないだろうと言われてしまったのだ。
確かに王宮に戻ったらマリナはうっかり作ってしまった魔道具の報告と説明と検証をしなければならないので、しばらくは時間が空かない。
後回しにするなら私事だと思っているのを見透かされている。
喜びよりも先に申し訳なさが立った。
今日のマリナは白に青で差色の入ったワンピースを着ている。高級品を扱うお店にも入れるような仕立てで、良家のお嬢様と偽っても違和感がない程度に似合っていると自分でも思った。
こんな格好をしてヴォルフと二人で歩くのは少し落ち着かない。
帽子屋のガラスに映る姿に足を止めそうになる。
「マリナ、どうした?」
「何でもないっ!」
一瞬浮かんだ考えを慌てて消す。
恋人同士で買い物に来たみたい、なんて。
事実なのに、幻を見てるみたいに現実感がなかった。
目的はドレスに合う装飾品なので取りあえず目についた大きなお店に入って女性店員にいくつかアクセサリーを見せてもらう。
「こちらは今年の流行となっている物ですね。 今年は明るい黄色が好まれています」
見せてくれたのは大粒の石で出来た首飾り。通常は透明の石だけどこれは黄色く稀少な物だと店員が説明してくれる。
「あとはこちらの黄翠晶を鏤めた物ですとか、お嬢様には暗めになりますがこういった黄褐色の物も人気があります」
薄緑色の小さな石を多く使ったネックレスと光が当たると暗い黄色に輝くイヤリングも勧められる。
「これとこれかな」
最初に見せられた黄色の首飾りと次に見せてもらった薄緑色の物が気に入った。手持ちのドレスにも合わせやすそう。
「そうだな、似合いそうだ」
ヴォルフも肯いてくれた。ドレスを見ていないのでマリナに似合うかだけで答えたみたいだ。
他にも合わせるイヤリングや髪飾りなどを見せてもらう。
「指輪はいらないでしょう」
「しかし手袋をしているときに着けることもあるだろう」
「それなら腕輪の方がいいんじゃない?」
あれこれ言いながら選んでいくヴォルフとマリナを見ながら店員が時々アドバイスをする。
的確な助言のおかげでそれほど時間はかからないで全て選び終えた。
「これはすべて送ってもらえるか」
持って帰る手間を厭う人が多いので店員も疑問を持たずに肯く。
「では、王宮まで持って来たらこれを見せてくれ」
運ぶ場所が王宮と言われた時は辛うじて平静を保っていた店員も、通行証として渡された紋章を見て絶句した。
店員の動揺を余所にヴォルフは淡々と話を進めていき、店を出る。
「ずいぶん驚いていたわね、あの店員」
「外で買い物なんてほとんどしないからな。 するときは大体手持ちの金で買える物しか買わないし」
確かに。そもそも王宮の外にあまり出ないので買い物の機会もないし、ヴォルフはあまり物欲がない。
「でも私が同じことやったら多分信じてもらえないわね」
詐欺じゃないかと疑われそうな気がする。
ヴォルフがまじまじとマリナを見る。視線の強さに身じろぎするとはっと気づいたように視線を逸らす。
「そんなこともないと言いたいが、お前を見て脅威だと思う人間はあまりいないだろうな」
「なんで脅威って話になるの?」
「か弱そうな子供にしか見えない、今日みたいな恰好をしていると余計に」
ヴォルフがゆっくりと手を差し出す。
首を傾げるとわずかに視線を逸らしながら俺から離れるなと囁く。
真っ直ぐマリナを見ないヴォルフに戸惑いながら手を重ねた。
マリナとヴォルフはレグルスの街を散策していた。
王子とは別行動で。
双翼が王子の側にいないでどうするのかと何度も自問する。
強制的に同行者から外されたことも尾を引いていた。
理由はわかってるけど納得できるかといったら別の問題で。
思わずため息を吐くとヴォルフが視線を向けてきた。
「まだ気にしてるのか?」
「ヴォルフは気にしてないの?」
王宮内ならともかくこんな街中で二人とも王子の護衛から離れているというのは落ち着かない。
ジークさんたちに説明もしてもらったので必要なのはわかったけれど、せめて王子が屋敷で休んでいる時間にしてくれたらよかったのに。
「こうしていて良いのかという思いはあるが…、俺は何も言えないな」
自分が色々と怠ったせいだから、と呟くヴォルフは珍しいことに落ち込んでいるようだった。
「それを言ったら普段の行いのせいとも言えるわね」
王都に戻ってからでも良いと言ったら、どうせ休みなんて取れないだろうと言われてしまったのだ。
確かに王宮に戻ったらマリナはうっかり作ってしまった魔道具の報告と説明と検証をしなければならないので、しばらくは時間が空かない。
後回しにするなら私事だと思っているのを見透かされている。
喜びよりも先に申し訳なさが立った。
今日のマリナは白に青で差色の入ったワンピースを着ている。高級品を扱うお店にも入れるような仕立てで、良家のお嬢様と偽っても違和感がない程度に似合っていると自分でも思った。
こんな格好をしてヴォルフと二人で歩くのは少し落ち着かない。
帽子屋のガラスに映る姿に足を止めそうになる。
「マリナ、どうした?」
「何でもないっ!」
一瞬浮かんだ考えを慌てて消す。
恋人同士で買い物に来たみたい、なんて。
事実なのに、幻を見てるみたいに現実感がなかった。
目的はドレスに合う装飾品なので取りあえず目についた大きなお店に入って女性店員にいくつかアクセサリーを見せてもらう。
「こちらは今年の流行となっている物ですね。 今年は明るい黄色が好まれています」
見せてくれたのは大粒の石で出来た首飾り。通常は透明の石だけどこれは黄色く稀少な物だと店員が説明してくれる。
「あとはこちらの黄翠晶を鏤めた物ですとか、お嬢様には暗めになりますがこういった黄褐色の物も人気があります」
薄緑色の小さな石を多く使ったネックレスと光が当たると暗い黄色に輝くイヤリングも勧められる。
「これとこれかな」
最初に見せられた黄色の首飾りと次に見せてもらった薄緑色の物が気に入った。手持ちのドレスにも合わせやすそう。
「そうだな、似合いそうだ」
ヴォルフも肯いてくれた。ドレスを見ていないのでマリナに似合うかだけで答えたみたいだ。
他にも合わせるイヤリングや髪飾りなどを見せてもらう。
「指輪はいらないでしょう」
「しかし手袋をしているときに着けることもあるだろう」
「それなら腕輪の方がいいんじゃない?」
あれこれ言いながら選んでいくヴォルフとマリナを見ながら店員が時々アドバイスをする。
的確な助言のおかげでそれほど時間はかからないで全て選び終えた。
「これはすべて送ってもらえるか」
持って帰る手間を厭う人が多いので店員も疑問を持たずに肯く。
「では、王宮まで持って来たらこれを見せてくれ」
運ぶ場所が王宮と言われた時は辛うじて平静を保っていた店員も、通行証として渡された紋章を見て絶句した。
店員の動揺を余所にヴォルフは淡々と話を進めていき、店を出る。
「ずいぶん驚いていたわね、あの店員」
「外で買い物なんてほとんどしないからな。 するときは大体手持ちの金で買える物しか買わないし」
確かに。そもそも王宮の外にあまり出ないので買い物の機会もないし、ヴォルフはあまり物欲がない。
「でも私が同じことやったら多分信じてもらえないわね」
詐欺じゃないかと疑われそうな気がする。
ヴォルフがまじまじとマリナを見る。視線の強さに身じろぎするとはっと気づいたように視線を逸らす。
「そんなこともないと言いたいが、お前を見て脅威だと思う人間はあまりいないだろうな」
「なんで脅威って話になるの?」
「か弱そうな子供にしか見えない、今日みたいな恰好をしていると余計に」
ヴォルフがゆっくりと手を差し出す。
首を傾げるとわずかに視線を逸らしながら俺から離れるなと囁く。
真っ直ぐマリナを見ないヴォルフに戸惑いながら手を重ねた。
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