118 / 368
セレスタ 帰還編
救出劇の裏側で 3
しおりを挟む
騎士団がレグルス郊外で怪しげな馬車を見つけたのはそれから半刻程のこと。
一見するとただの馬車だったが、御者が不自然に目を逸らしたのをユーグは見逃さなかった。
(赤い光はこいつらだ)
警邏で培った勘がそう言っている。
手振りで止まるように指示すると御者が馬車の中に向かって何かを叫ぶ。
緊迫した空気が辺りに漂い始めた。
「…!」
飛んできたナイフを剣で弾く。
いきなり攻撃してきたことに騎士団の者は臨戦態勢を取る。
「気を付けろ! まだ中にいるかもしれない!」
馬車の大きさを考えれば4、5人いてもおかしくはない。
離れて待機していた同僚も異変を感じて集まってきた。
馬車で逃げることは諦めたのか御者が隠し持っていたナイフを手に取り投げつけてくる。
ユーグたちは御者を捕らえるために投擲されるナイフを避けながら距離を詰めていく。
「いくつ隠し持ってるんだコイツ!」
マックスが御者の男に悪態を吐く。マックスの乗っている馬の鼻先を霞めてナイフがこちらに向かってきた。
避けられない軌道のナイフを弾いて馬を引く。
包囲は完成している。男が逃げられることはない。
この場に姿を見せてはいないが近衛騎士も近くから様子を見ている。
(だらしない所は見せられないだろう!)
部署が違っても同じ騎士の前で無様な姿は晒せない。
男たちを逃がし近衛の力を借りるなんてあってはならない事だ。
目線で馬車の後方を包囲している同僚に指示を出す。
ユーグの視線を受けた同僚が手で合図をする。
(中にいるのは一人だけか)
このまま出てこないなら戦闘できるのは御者の男だけという可能性もある。考える一瞬の間に馬車の扉がわずかに開いた。
馬車から降りてきた男が武器を振るう前にユーグが投げた短剣が男に届く。
「ぐぁ!」
肩に突き刺さった短剣に男が武器を取り落す。
その隙を逃さずに同僚が男の元に向かう。
「…っ! くそっ!」
仲間を捕らえられた御者が窮地に叫ぶ。
どうにか逃げようと視線を巡らせるが、それを許すレグルス守備隊ではなかった。
ほどなく捕らえられた男たちは彼らが乗ってきた馬車をそのまま使って護送される。
男たちを乗せたところで近衛騎士のディルクがユーグの元にやってくる。
「見事なお手並みだった」
軽く礼をして確認する。騎士団に向かって攻撃してきた馬車には所属を表すようなものが何も描かれてない。
「奴らが何処の人間かわかりますか?」
「知らないが想像はついている」
含みがあることを隠さず答えるディルク。
「それは…」
「想像がついてるから聞いてきたんだろう?」
聞かれて言葉に詰まる。
探りを入れる程度には男の素性に予想が付く。
しかしそれは一騎士でしかないユーグなどには隠されると思っていた。
戸惑いに返事を返せないでいるとディルクがふっと笑う。
「どうせすぐに素性は知れる」
言われた言葉を頭の中で繰り返す。
続けて囁くように落とされた言葉に息を呑んだ。
「だからレグルス守備騎士団が必要なんだ」
振り仰いだユーグの目に映ったのは笑みを消し去った近衛騎士の姿だった。
一見するとただの馬車だったが、御者が不自然に目を逸らしたのをユーグは見逃さなかった。
(赤い光はこいつらだ)
警邏で培った勘がそう言っている。
手振りで止まるように指示すると御者が馬車の中に向かって何かを叫ぶ。
緊迫した空気が辺りに漂い始めた。
「…!」
飛んできたナイフを剣で弾く。
いきなり攻撃してきたことに騎士団の者は臨戦態勢を取る。
「気を付けろ! まだ中にいるかもしれない!」
馬車の大きさを考えれば4、5人いてもおかしくはない。
離れて待機していた同僚も異変を感じて集まってきた。
馬車で逃げることは諦めたのか御者が隠し持っていたナイフを手に取り投げつけてくる。
ユーグたちは御者を捕らえるために投擲されるナイフを避けながら距離を詰めていく。
「いくつ隠し持ってるんだコイツ!」
マックスが御者の男に悪態を吐く。マックスの乗っている馬の鼻先を霞めてナイフがこちらに向かってきた。
避けられない軌道のナイフを弾いて馬を引く。
包囲は完成している。男が逃げられることはない。
この場に姿を見せてはいないが近衛騎士も近くから様子を見ている。
(だらしない所は見せられないだろう!)
部署が違っても同じ騎士の前で無様な姿は晒せない。
男たちを逃がし近衛の力を借りるなんてあってはならない事だ。
目線で馬車の後方を包囲している同僚に指示を出す。
ユーグの視線を受けた同僚が手で合図をする。
(中にいるのは一人だけか)
このまま出てこないなら戦闘できるのは御者の男だけという可能性もある。考える一瞬の間に馬車の扉がわずかに開いた。
馬車から降りてきた男が武器を振るう前にユーグが投げた短剣が男に届く。
「ぐぁ!」
肩に突き刺さった短剣に男が武器を取り落す。
その隙を逃さずに同僚が男の元に向かう。
「…っ! くそっ!」
仲間を捕らえられた御者が窮地に叫ぶ。
どうにか逃げようと視線を巡らせるが、それを許すレグルス守備隊ではなかった。
ほどなく捕らえられた男たちは彼らが乗ってきた馬車をそのまま使って護送される。
男たちを乗せたところで近衛騎士のディルクがユーグの元にやってくる。
「見事なお手並みだった」
軽く礼をして確認する。騎士団に向かって攻撃してきた馬車には所属を表すようなものが何も描かれてない。
「奴らが何処の人間かわかりますか?」
「知らないが想像はついている」
含みがあることを隠さず答えるディルク。
「それは…」
「想像がついてるから聞いてきたんだろう?」
聞かれて言葉に詰まる。
探りを入れる程度には男の素性に予想が付く。
しかしそれは一騎士でしかないユーグなどには隠されると思っていた。
戸惑いに返事を返せないでいるとディルクがふっと笑う。
「どうせすぐに素性は知れる」
言われた言葉を頭の中で繰り返す。
続けて囁くように落とされた言葉に息を呑んだ。
「だからレグルス守備騎士団が必要なんだ」
振り仰いだユーグの目に映ったのは笑みを消し去った近衛騎士の姿だった。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる