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セレスタ 帰還編
救出劇の裏側で 3
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騎士団がレグルス郊外で怪しげな馬車を見つけたのはそれから半刻程のこと。
一見するとただの馬車だったが、御者が不自然に目を逸らしたのをユーグは見逃さなかった。
(赤い光はこいつらだ)
警邏で培った勘がそう言っている。
手振りで止まるように指示すると御者が馬車の中に向かって何かを叫ぶ。
緊迫した空気が辺りに漂い始めた。
「…!」
飛んできたナイフを剣で弾く。
いきなり攻撃してきたことに騎士団の者は臨戦態勢を取る。
「気を付けろ! まだ中にいるかもしれない!」
馬車の大きさを考えれば4、5人いてもおかしくはない。
離れて待機していた同僚も異変を感じて集まってきた。
馬車で逃げることは諦めたのか御者が隠し持っていたナイフを手に取り投げつけてくる。
ユーグたちは御者を捕らえるために投擲されるナイフを避けながら距離を詰めていく。
「いくつ隠し持ってるんだコイツ!」
マックスが御者の男に悪態を吐く。マックスの乗っている馬の鼻先を霞めてナイフがこちらに向かってきた。
避けられない軌道のナイフを弾いて馬を引く。
包囲は完成している。男が逃げられることはない。
この場に姿を見せてはいないが近衛騎士も近くから様子を見ている。
(だらしない所は見せられないだろう!)
部署が違っても同じ騎士の前で無様な姿は晒せない。
男たちを逃がし近衛の力を借りるなんてあってはならない事だ。
目線で馬車の後方を包囲している同僚に指示を出す。
ユーグの視線を受けた同僚が手で合図をする。
(中にいるのは一人だけか)
このまま出てこないなら戦闘できるのは御者の男だけという可能性もある。考える一瞬の間に馬車の扉がわずかに開いた。
馬車から降りてきた男が武器を振るう前にユーグが投げた短剣が男に届く。
「ぐぁ!」
肩に突き刺さった短剣に男が武器を取り落す。
その隙を逃さずに同僚が男の元に向かう。
「…っ! くそっ!」
仲間を捕らえられた御者が窮地に叫ぶ。
どうにか逃げようと視線を巡らせるが、それを許すレグルス守備隊ではなかった。
ほどなく捕らえられた男たちは彼らが乗ってきた馬車をそのまま使って護送される。
男たちを乗せたところで近衛騎士のディルクがユーグの元にやってくる。
「見事なお手並みだった」
軽く礼をして確認する。騎士団に向かって攻撃してきた馬車には所属を表すようなものが何も描かれてない。
「奴らが何処の人間かわかりますか?」
「知らないが想像はついている」
含みがあることを隠さず答えるディルク。
「それは…」
「想像がついてるから聞いてきたんだろう?」
聞かれて言葉に詰まる。
探りを入れる程度には男の素性に予想が付く。
しかしそれは一騎士でしかないユーグなどには隠されると思っていた。
戸惑いに返事を返せないでいるとディルクがふっと笑う。
「どうせすぐに素性は知れる」
言われた言葉を頭の中で繰り返す。
続けて囁くように落とされた言葉に息を呑んだ。
「だからレグルス守備騎士団が必要なんだ」
振り仰いだユーグの目に映ったのは笑みを消し去った近衛騎士の姿だった。
一見するとただの馬車だったが、御者が不自然に目を逸らしたのをユーグは見逃さなかった。
(赤い光はこいつらだ)
警邏で培った勘がそう言っている。
手振りで止まるように指示すると御者が馬車の中に向かって何かを叫ぶ。
緊迫した空気が辺りに漂い始めた。
「…!」
飛んできたナイフを剣で弾く。
いきなり攻撃してきたことに騎士団の者は臨戦態勢を取る。
「気を付けろ! まだ中にいるかもしれない!」
馬車の大きさを考えれば4、5人いてもおかしくはない。
離れて待機していた同僚も異変を感じて集まってきた。
馬車で逃げることは諦めたのか御者が隠し持っていたナイフを手に取り投げつけてくる。
ユーグたちは御者を捕らえるために投擲されるナイフを避けながら距離を詰めていく。
「いくつ隠し持ってるんだコイツ!」
マックスが御者の男に悪態を吐く。マックスの乗っている馬の鼻先を霞めてナイフがこちらに向かってきた。
避けられない軌道のナイフを弾いて馬を引く。
包囲は完成している。男が逃げられることはない。
この場に姿を見せてはいないが近衛騎士も近くから様子を見ている。
(だらしない所は見せられないだろう!)
部署が違っても同じ騎士の前で無様な姿は晒せない。
男たちを逃がし近衛の力を借りるなんてあってはならない事だ。
目線で馬車の後方を包囲している同僚に指示を出す。
ユーグの視線を受けた同僚が手で合図をする。
(中にいるのは一人だけか)
このまま出てこないなら戦闘できるのは御者の男だけという可能性もある。考える一瞬の間に馬車の扉がわずかに開いた。
馬車から降りてきた男が武器を振るう前にユーグが投げた短剣が男に届く。
「ぐぁ!」
肩に突き刺さった短剣に男が武器を取り落す。
その隙を逃さずに同僚が男の元に向かう。
「…っ! くそっ!」
仲間を捕らえられた御者が窮地に叫ぶ。
どうにか逃げようと視線を巡らせるが、それを許すレグルス守備隊ではなかった。
ほどなく捕らえられた男たちは彼らが乗ってきた馬車をそのまま使って護送される。
男たちを乗せたところで近衛騎士のディルクがユーグの元にやってくる。
「見事なお手並みだった」
軽く礼をして確認する。騎士団に向かって攻撃してきた馬車には所属を表すようなものが何も描かれてない。
「奴らが何処の人間かわかりますか?」
「知らないが想像はついている」
含みがあることを隠さず答えるディルク。
「それは…」
「想像がついてるから聞いてきたんだろう?」
聞かれて言葉に詰まる。
探りを入れる程度には男の素性に予想が付く。
しかしそれは一騎士でしかないユーグなどには隠されると思っていた。
戸惑いに返事を返せないでいるとディルクがふっと笑う。
「どうせすぐに素性は知れる」
言われた言葉を頭の中で繰り返す。
続けて囁くように落とされた言葉に息を呑んだ。
「だからレグルス守備騎士団が必要なんだ」
振り仰いだユーグの目に映ったのは笑みを消し去った近衛騎士の姿だった。
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