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セレスタ 帰還編
救出劇の裏側で 2
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同様のことに気付いた近衛の面々は渋い顔で地図を見ていた。
マールアは大国というプライドのせいか時折セレスタに対して示威行動をして国王や内務卿の眉を顰めさせている。
大陸一は自分たちだと認めさせたいのだろう。
国土がマールアより小さいのに周辺国から宗主のように扱われるセレスタが気に食わないのだとセレスタ側は判断している。
奴らが絡んでいるならヴォルフや近衛騎士たちが表立って動くと国際問題になる危険があった。
犯人たちはただの犯罪者として捕える必要がある。
それにはレグルスの騎士団の協力が不可欠だった。
伯爵家の者がレグルスの騎士が訪ねてきたと伝えに来る。
居間に通すように命じると程なく2人の人物がやってきた。
「失礼いたします、レグルス守備騎士団、ユーグ・ヴェルナッハと申します!」
「同じくマックス・クライスターと申します」
やってきた騎士たちは王子の前とあってか僅かな緊張を顔に乗せながらも綺麗な敬礼を見せる。
「入ってくれ」
今の中心にあるテーブルに二人を招き地図を見せる。席は空いていたが二人は座ることを固辞して地図を覗き込む。
「爆発のあった工房がここ、魔力の残滓は北に向かって流れていたんだな?」
地図の一点を指しながら確認する。
二人は頷いて指を滑らしながら答えていく。
「はい、そして街を出てこの地点で消えています」
街道の別れ道に辿り着く前に魔力は消え、それ以上どこに行ったか不明だと言う。
「ここで消えたのであれば街道の他にもいくつか道がありますが、小さな村に続く道なのでそちらに向かったとは考えられません」
「こっちに行く道には何があるんだ?」
村に続く道の手前に小道がある。道は途中で地図から消えているが、実際にはどこかへ通じている可能性もある。
「そちらには家が一軒あるだけです。 元は村人が済んでいましたが、今は誰も住んでいません」
廃屋となっていると説明されて近衛たちは関心を失う。
廃屋などに逃げ込んだところで意味がないので、もっと遠くへ逃げるだろうと彼らは考えている。
自分もそう思う、それなのにその廃屋が気にかかって仕方なかった。
「この廃屋はどのくらいの大きさだ?」
ヴォルフの問いに戸惑いながらマックスが答える。
「ごく普通の農家だったので左程大きくは…」
ユーグが具体的な大きさを説明しようとした時、王子から強い光が放たれた。
「な…!」
誰もが驚きに包まれている中、冷静だったのは当の王子とヴォルフだった。
「みんな落ち着いて良い、これはマリナが残していった魔道具の反応だから」
そう言って小さな魔道具を机に置く。
魔道具は光を発しているだけでそれ以外の反応は無い。
マリナ本人も位置を補足するための魔道具だと言っていたから、他の機能はないんだろうと思っていた。
そんな予想を裏切るような反応を見せ始めた。
翠玉のような色の光が魔道具から放射状に放たれている。
その光が唐突に形を変えた。
「これは…!」
光が線を描き、形を作っていく。
空中に現れたのは机に広げられた物と同じ…、レグルス近郊の地図だった。
驚愕に場が静まり返る。
何だこれ、と誰かが呟いた声が響く。
描かれた地図の一点が青く光り出す。
それはヴォルフが気にしていた廃屋の場所と一致している。
「これは…。 此処にマリナがいるのか…?」
ジークが呟く。
何も語らない地図を見つめてそれぞれが想像を巡らせる。
「だとしたら何でこんな所に」
レグルスからそれほど離れていない場所に隠れるメリットが思いつかない。
戸惑い気味にユーグが確認させましょうかと言った瞬間、光の地図が更なる反応を見せる。
ソルガイアに続く街道の上に赤い光が現れる。明滅する光は胸騒ぎを覚えさせる禍々しさだったが、それだけではなく嫌な予感をヴォルフたちに与えた。
「ユーグ、マックス、レグルスの騎士団でこの赤い光に向かってくれないか?」
有無を言わせぬ顔でジークが二人に頼む。
ハルトが自分もついて行くと手を上げ、王子がそれに頷く。
「すまない、急を要すると考えられる事態だ。 我々もすぐに向かうが、先行してこの赤い光だと考えられるものを止めてほしい」
「かしこまりました、すぐに向かいます」
レグルスの騎士たちは否を言わずに即座に行動に移した。
ユーグとマックスに続いてハルトを含む何人かが外に出ていく。
二人が部屋を出たところで光に変化が現れた。
「…!!」
赤い光を指すように線が空中に引かれ、その先には赤い剣の紋章。
マールアの国旗にも使われるその紋章に居並ぶ全員の表情が変わる。
「あって欲しくない方になったな」
沈黙を破るように王子が言葉を発した。声には重々しい響きがあり、憂慮する心の内が見えるようだった。
マールアは大国というプライドのせいか時折セレスタに対して示威行動をして国王や内務卿の眉を顰めさせている。
大陸一は自分たちだと認めさせたいのだろう。
国土がマールアより小さいのに周辺国から宗主のように扱われるセレスタが気に食わないのだとセレスタ側は判断している。
奴らが絡んでいるならヴォルフや近衛騎士たちが表立って動くと国際問題になる危険があった。
犯人たちはただの犯罪者として捕える必要がある。
それにはレグルスの騎士団の協力が不可欠だった。
伯爵家の者がレグルスの騎士が訪ねてきたと伝えに来る。
居間に通すように命じると程なく2人の人物がやってきた。
「失礼いたします、レグルス守備騎士団、ユーグ・ヴェルナッハと申します!」
「同じくマックス・クライスターと申します」
やってきた騎士たちは王子の前とあってか僅かな緊張を顔に乗せながらも綺麗な敬礼を見せる。
「入ってくれ」
今の中心にあるテーブルに二人を招き地図を見せる。席は空いていたが二人は座ることを固辞して地図を覗き込む。
「爆発のあった工房がここ、魔力の残滓は北に向かって流れていたんだな?」
地図の一点を指しながら確認する。
二人は頷いて指を滑らしながら答えていく。
「はい、そして街を出てこの地点で消えています」
街道の別れ道に辿り着く前に魔力は消え、それ以上どこに行ったか不明だと言う。
「ここで消えたのであれば街道の他にもいくつか道がありますが、小さな村に続く道なのでそちらに向かったとは考えられません」
「こっちに行く道には何があるんだ?」
村に続く道の手前に小道がある。道は途中で地図から消えているが、実際にはどこかへ通じている可能性もある。
「そちらには家が一軒あるだけです。 元は村人が済んでいましたが、今は誰も住んでいません」
廃屋となっていると説明されて近衛たちは関心を失う。
廃屋などに逃げ込んだところで意味がないので、もっと遠くへ逃げるだろうと彼らは考えている。
自分もそう思う、それなのにその廃屋が気にかかって仕方なかった。
「この廃屋はどのくらいの大きさだ?」
ヴォルフの問いに戸惑いながらマックスが答える。
「ごく普通の農家だったので左程大きくは…」
ユーグが具体的な大きさを説明しようとした時、王子から強い光が放たれた。
「な…!」
誰もが驚きに包まれている中、冷静だったのは当の王子とヴォルフだった。
「みんな落ち着いて良い、これはマリナが残していった魔道具の反応だから」
そう言って小さな魔道具を机に置く。
魔道具は光を発しているだけでそれ以外の反応は無い。
マリナ本人も位置を補足するための魔道具だと言っていたから、他の機能はないんだろうと思っていた。
そんな予想を裏切るような反応を見せ始めた。
翠玉のような色の光が魔道具から放射状に放たれている。
その光が唐突に形を変えた。
「これは…!」
光が線を描き、形を作っていく。
空中に現れたのは机に広げられた物と同じ…、レグルス近郊の地図だった。
驚愕に場が静まり返る。
何だこれ、と誰かが呟いた声が響く。
描かれた地図の一点が青く光り出す。
それはヴォルフが気にしていた廃屋の場所と一致している。
「これは…。 此処にマリナがいるのか…?」
ジークが呟く。
何も語らない地図を見つめてそれぞれが想像を巡らせる。
「だとしたら何でこんな所に」
レグルスからそれほど離れていない場所に隠れるメリットが思いつかない。
戸惑い気味にユーグが確認させましょうかと言った瞬間、光の地図が更なる反応を見せる。
ソルガイアに続く街道の上に赤い光が現れる。明滅する光は胸騒ぎを覚えさせる禍々しさだったが、それだけではなく嫌な予感をヴォルフたちに与えた。
「ユーグ、マックス、レグルスの騎士団でこの赤い光に向かってくれないか?」
有無を言わせぬ顔でジークが二人に頼む。
ハルトが自分もついて行くと手を上げ、王子がそれに頷く。
「すまない、急を要すると考えられる事態だ。 我々もすぐに向かうが、先行してこの赤い光だと考えられるものを止めてほしい」
「かしこまりました、すぐに向かいます」
レグルスの騎士たちは否を言わずに即座に行動に移した。
ユーグとマックスに続いてハルトを含む何人かが外に出ていく。
二人が部屋を出たところで光に変化が現れた。
「…!!」
赤い光を指すように線が空中に引かれ、その先には赤い剣の紋章。
マールアの国旗にも使われるその紋章に居並ぶ全員の表情が変わる。
「あって欲しくない方になったな」
沈黙を破るように王子が言葉を発した。声には重々しい響きがあり、憂慮する心の内が見えるようだった。
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