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セレスタ 帰還編
救出 1
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陽が黄色くなり始めたころ、男達が焦り始めた。
「おい、遅くないか?」
一人が落ち着きなく歩き回る。
もう一人は座ったまま仲間を宥めていた。
「少し遅れてるだけだろ? 落ち着け」
そう言う男も焦れているようで、声には言うほど落ち着きがない。
「くそっ!」
男が物を蹴飛ばす。倒れた家具の音にもう一人の男も苛立ちを深める。
「落ち着けって! 多少遅れたところで手順は変わらない」
「だからってな…!」
机を叩いて言い合いが始まる。何度となく繰り返されたやり取り。
さっきから言い合いが増えていた。
今からここを出ても国境に辿り着く頃には夜になるだろう。
明るいうちに国境を超えるつもりだった男たちにとって予想外の事態になり、かなりイラついてきているようだ。
焦る男たちの声を聞いてマリナには笑みが浮かぶ。
一階から聞こえる音に怯えたのか技師のおしゃべりも静まっていた。
窓枠の下に凭れかけて座っているのでどんな顔をしているのかはわからない。
じっとしていてくれるなら好都合だった。
今いる位置なら男たちが上がって来ても守りやすい。
魔力を広げて辺りを探る。
後少し…。
その時を待つのは実に楽しい。
陽は更に色を変え、黄色から赤になってきている。
廃屋の中は灯りが不足しているため、二階は早くも暗くなり始めていた。
「おい、二階はどうする?」
男たちは携帯用の灯りを二階にも持ってくるか技師の方を連れてくるか相談している。
出来れば技師は隔離していてほしい。
男が階段を上って行く音が聞こえる。技師がその音にか男の魔力の気配にか身体を震わせた。
「大丈夫ですよ、大人しくしていれば今は何もしないでしょう」
窓から離れるよう促して屋根に身を隠す。
二階に上がってきた男は一言も発せず、また階段を下りて行った。
階段を降り切った音を聞いて窓の前に戻る。
男は灯りを置いていったのではなく食料を持ってきただけのようだ。
技師は置かれたパンやチーズの欠片などをもそもそと食べる。
一度マリナの方を見たけれど、気にせず食べるように伝えた。
一階に戻った男が仲間に技師の様子を報告する。
「ヤツは大人しくしてるよ、この分なら夜になっても逃げないかもな」
「馬鹿言え、暗くなったら逃げるために大人しくしてるのかもしれないだろう? 油断するなよ」
「わかってる! それにしても何でこんなに遅いんだ!?」
怒鳴るように言葉をぶつけ合う男たちは、確実に焦りを深めている。
不測の事態を作り出し、男たちを焦らせてマリナはその時を待っていた。
騎士たちは犯罪者を逃がさない。
頭を下げて技術を学びに来るならともかく、技術を持つ者に危害を加えて連れ去ろうなんて…、とても許されないことだ。
セレスタで犯罪行為をしたことを後悔してもらおう。
マリナの笑みが一際深くなった時、完全に日が沈んだ。
「おい、遅くないか?」
一人が落ち着きなく歩き回る。
もう一人は座ったまま仲間を宥めていた。
「少し遅れてるだけだろ? 落ち着け」
そう言う男も焦れているようで、声には言うほど落ち着きがない。
「くそっ!」
男が物を蹴飛ばす。倒れた家具の音にもう一人の男も苛立ちを深める。
「落ち着けって! 多少遅れたところで手順は変わらない」
「だからってな…!」
机を叩いて言い合いが始まる。何度となく繰り返されたやり取り。
さっきから言い合いが増えていた。
今からここを出ても国境に辿り着く頃には夜になるだろう。
明るいうちに国境を超えるつもりだった男たちにとって予想外の事態になり、かなりイラついてきているようだ。
焦る男たちの声を聞いてマリナには笑みが浮かぶ。
一階から聞こえる音に怯えたのか技師のおしゃべりも静まっていた。
窓枠の下に凭れかけて座っているのでどんな顔をしているのかはわからない。
じっとしていてくれるなら好都合だった。
今いる位置なら男たちが上がって来ても守りやすい。
魔力を広げて辺りを探る。
後少し…。
その時を待つのは実に楽しい。
陽は更に色を変え、黄色から赤になってきている。
廃屋の中は灯りが不足しているため、二階は早くも暗くなり始めていた。
「おい、二階はどうする?」
男たちは携帯用の灯りを二階にも持ってくるか技師の方を連れてくるか相談している。
出来れば技師は隔離していてほしい。
男が階段を上って行く音が聞こえる。技師がその音にか男の魔力の気配にか身体を震わせた。
「大丈夫ですよ、大人しくしていれば今は何もしないでしょう」
窓から離れるよう促して屋根に身を隠す。
二階に上がってきた男は一言も発せず、また階段を下りて行った。
階段を降り切った音を聞いて窓の前に戻る。
男は灯りを置いていったのではなく食料を持ってきただけのようだ。
技師は置かれたパンやチーズの欠片などをもそもそと食べる。
一度マリナの方を見たけれど、気にせず食べるように伝えた。
一階に戻った男が仲間に技師の様子を報告する。
「ヤツは大人しくしてるよ、この分なら夜になっても逃げないかもな」
「馬鹿言え、暗くなったら逃げるために大人しくしてるのかもしれないだろう? 油断するなよ」
「わかってる! それにしても何でこんなに遅いんだ!?」
怒鳴るように言葉をぶつけ合う男たちは、確実に焦りを深めている。
不測の事態を作り出し、男たちを焦らせてマリナはその時を待っていた。
騎士たちは犯罪者を逃がさない。
頭を下げて技術を学びに来るならともかく、技術を持つ者に危害を加えて連れ去ろうなんて…、とても許されないことだ。
セレスタで犯罪行為をしたことを後悔してもらおう。
マリナの笑みが一際深くなった時、完全に日が沈んだ。
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