双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 帰還編

視察 5

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 工房の周りを確認したので、ついでに他の地区も見ていくことにした。
 南西から北西、北東を順に回っていく。
 マリナはともかく侯爵は少し目立っている。
 とはいえ酔狂で迷い込む貴族もいるらしく、怪しいとは思われてないようなので気にしない。
「ほう、こちらは個人商店が多いんだな」
 貴族や観光客が集まるのは大通り沿いか南側なのでこちらは地元の人向けの日用品を売っているお店ばかりだ。
 侯爵は興味深そうに眺めていく。
 北東の畑では出ている葉っぱを見て何の野菜か当てるという勝負になった。
 当然マリナの勝ちだ。
 完成品の料理しか見たことないだろうに、何で勝負するかな。
「この辺りは一軒家が多いな」
「そうですね、鶏を飼っている家がありますよ」
 専業とするには規模が小さいので家族がそれぞれ分担しているのかな。
 多分他の仕事をしながら副業として育てているんだろう。
 庭の一角でにぎやかに鳴く鶏。
 北西は何棟か連なった長屋や数階建ての共同住宅が多かった。
 少し移動しただけなのに印象が全く違う。
 畑が点在し、小さな一軒家が並ぶ光景はどこかマリナの故郷に似ていた。
 南西は工房や商店を兼ねた住宅も多かった。探しに行った工房も住居兼工房として使用しているようだ。
 外周をぐるっと回って大きな通りに出る。
「少し買い物をしてもかまいませんか?」
「ああ! 存分にどうぞ」
 力を籠めて言われたので思わず笑う。
「そんなにたくさんは買いません」
 探索が終わったので侯爵に許可を取って街で買い物をする。
 レグルス名物の菓子も変えたのでさっさと戻ることにした。
「買う物はそれだけでいいのかな?」
「ええ、とりあえずは十分です」
 欲しい物があればまた買いに出てくればいいので、今はこれだけでいい。
 屋敷に戻ると居間には戻ってきた騎士たちと王子、ヴォルフが真剣な顔つきで黙っていた。
 マリナたちが入ってくる直前まで何かを話していた雰囲気だ。
 近衛の一人がちらっと侯爵を見る。
 その視線で侯爵には聞かれたくない話だったと判断した。
「侯爵様、案内をありがとうございました。
 夕食の支度が出来ましたら、こちらの使用人の方か私たちの誰かがお迎えに上がります」
 街の端から端まで歩いたので侯爵も少しは疲れただろうと思う。
「そうか、では少し部屋で休むとしようかな。
 こちらこそ楽しい時間をありがとう。 滞在中に機会があればまたご一緒しましょう」
 侯爵も休むと言って退出する。
 雰囲気を察して何も言わずに下がってくれたのだろう。
 普段の態度が気安くて高位貴族らしくないけれどこういった気遣いは流石だった。
 それにしてもテーブルを囲む近衛騎士たちの空気が重い。
(怒ってる?)
 激しいものではないようだけど、何か怒っているらしかった。
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