双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 帰還編

視察 4

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 侯爵と大通りから一本入った通りを歩く。
 小さな商店が連なっていて見ていて楽しい。
「この街によく来られるとのことでしたが、いつもはどちらにいらっしゃるのですか?」
「そうだな、向こうの通りの酒場とかよく行くよ」
「酒場に行くんですか?」
 向こうの通りにある酒場って庶民が行くお店なんだけど…、初対面でわかってたけど変わってる。
「ああ、さっきあった伯爵と共にね」
 やっぱり知り合いだったんだ。その割に何も言わなかったけれど。
「突然、しかも王子の視察に付いて来てしまったからね。 驚かせてしまったよ」
 今度は私のおごりだな、と快活に笑う。
「伯爵様も一緒に行かれるとはますます驚きです」
 侯爵だけなら、まあ、わからなくもない。
「はっはっは、奴とは昔からの付き合いでね。
 若い頃からよく来ていたんだ」
 学生時代からの長い付き合いだと言う。
 そんなに長く友人関係を続けているなら、伯爵も意外と変わった人なのかもしれないと失礼なことを考える。
 侯爵の昔話を聞きながら路地を歩いて行く。
 小さな商店が並ぶ通りを抜けると、その先には職人の工房が立ち並ぶ区画があり、居住区は更にその奥にあった。
 街を一つの円で描くと北門から南門までを通る大通りがあり、南北の丁度真ん中にある広場から東西に大き目の道が交差する。
 そこから更に道が縦横に走っている。円周の上をを歩いて行けば必ず大通りのどれかに当たるので、迷っても帰れないということにはならなそうだ。
 南門の辺りは商業地区として賑わい、南東に掛けて貴族の屋敷と高級店が多い。
 反対に西に行くほど庶民的な店が増え、職人の工房や、平民の居住区が多く存在していた。
 北門の方は南西をさらに大衆的にした感じで、居住区の中に個人でやっている小さな商店がぽつぽつとあり、北東の区画には小さいながらも畑があったりする。
 大通り沿いには貴族御用達の店からちょっと背伸びすれば一般庶民でも入れるお店まで色々あるため、貴族から平民まで多くの人で賑わい活気があった。
 マリナたちが今歩いているのは南西の一角。
 職人の工房が数多く軒を連ねている。
 金属を叩く音やかたかたと機を折る音などがあちらこちらから聞こえた。
 木工職人が木の表面を削り滑らかにしていく作業を横目に見ながら角を曲がる。
「足に全く迷いがないですな。 私でもこの辺りはあまり来ないので、立ち止まって確認しないと迷ってしまいます」
 出る前に地図は確認してきたし、マリナは別に方向音痴ではない。
「レグルスの街は迷っても歩き続ければ外周か大通りに出るので、間違えたらまた戻ればいいと思っているだけですよ」
 袋小路に迷い込みそうな所ならもう少し慎重に歩く。
「やれやれ、私の案内など必要なかったかな」
「いいえ、侯爵様のお話は興味深く楽しく聞かせていただきましたし」
 よく来ていると言うだけあって侯爵は街に詳しかった。
 レグルス名物と言っていたお菓子もわかったので帰りに買っていく。
 誰かが買っていて被ったら師匠のお土産にするから無駄にはならない。
 机にお菓子を溜めてないでちゃんと食事を摂った方がいいとは思うけれど、師匠も大人なので自分で気をつけるだろう。
 あんまり言って藪蛇になっても嫌だし。
 目的の工房は看板も出していなかったので一見してはわからない。
 けれどマリナは工房内で動く魔力を感知してここが目的の工房だと目星を付けた。
 見当が付いたので足を止めずに通り過ぎる。
 そのまま周りをぐるっと歩いて道や周辺にある店や工房を確認していく。
 一通り見回ったら外周に向かって歩き出す。
 侯爵は何も文句を言わずに黙って付いてきた。
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