101 / 368
セレスタ 帰還編
休憩中の雑談
しおりを挟む
100話記念の番外編です。
こんなに長く続けられるとは思ってませんでした!
見てくださったみなさんに感謝しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ヴォルフとマリナが暮らしていた世界というのはどういった所だったんだ?」
執務の合間の休憩時間に、王子がそんなことを聞いてくる。
どう、と言われても一言で表すのは難しい。
ヴォルフとマリナがそれぞれ説明した異世界の話に王子は興味を持ったみたいだ。
「そうですね、こちらと同じくいくつもの大陸と国があり、国によってかなり風習や政治体系が違っているようでしたね」
数か月しか暮らしていなかったのでそれほど多くのことは知らない。
「私たちが暮らしていた国はとても平和だったようで、夜も灯りが多く大通り以外にも一定の間隔で灯りが灯されていて、子供から若い女性までごく普通に一人で出歩いていました」
セレスタの王都も国の規模の割にとても治安が良い。比べるのは難しいけれどセレスタと同程度かそれ以上だと思っていた。
「聞いた話ではかなり栄えていたようだけど、小さな島国だったんだろう?」
小さいから平和だった、というのは乱暴な意見だ。それに…。
「小さいといってもセレスタの半分に近い大きさですよ?
確かに地図に載っていた他の大国に比べたら国土は小さいですが、それよりもっと小さい国はいくらでもありましたからね」
テレビでも小さい島国という表現は一度だけ聞いたことがあるけれど、マリナの常識に照らし合わせると小さいとは言わない。
「小さいというのが自身を控えめに現した謙遜なのか、自分のサイズを理解していないからなのかはわかりません。
ただ、島国なので他国に行かなければ自身の大きさなど意識しないのかもしれませんね」
「なるほど。 まあ私も国の大きさなど、書類で上がってくること以外は多く知らないけどね」
「王子は外に出ている方ですよ」
視察も年に数回は行っているし、それ以外でも必要があればマリナたちを従えて外に出ることがある。
例えば災害など。緊急の外出なんてあまりあって欲しくないけれど、災害はいつも突然だ。
それでもここ数年は落ち着いていて王子が陣頭指揮を執るような大規模災害は起こっていない。
「商店もこちらとは随分違うようだね」
「そうですね。 食材も豊富でしたが、何より加工された食品の豊富さに驚きましたね」
スーパーの惣菜、コンビニのお弁当の他にも菓子や冷凍食品など、手を入れなくても食べられる物が本当に多かった。
ねえ、とヴォルフに視線を向けるとヴォルフも頷く。
「そうですね。 種類も多く、味も申し分ない物でした」
「そういえば、色々な食材を一か所で売っているのも変わっているところでしたね」
セレスタでは野菜なら野菜、肉なら肉とお店で売る物は決まっている。
何点か同じ分類に入る品を扱うお店はあるけれど、基本的には肉屋は肉だけだし、魚屋には魚しか置いてない。
加工食品であるソーセージやチーズなどを一緒に置くところもあるけれど、そちらは少数派だ。
とくに魚などは痛みが早いので少量を毎日仕入れることになる。
スーパーのように大量の食材を置いておくのは無理だろう。
異世界の冷蔵庫とは少し違うが保管庫ならこちらの世界にもある。
冷やして長持ちさせるのではなく状態を保つ魔法が仕掛けられた保管庫は、魔道具としては結構値段が張る物だ。
王宮には当然備え付けられてあるが、一般庶民で魔道具の保管庫を手にするのはそれなりの大店でないと難しい。
結果的に氷で冷やすという、シンプルな方法を取るのが一般的だった。
「後は、そうですねぇ…」
驚いたことはいくつもあるけれど、どれから説明しようかと迷う。
そこで黙っていたヴォルフが口を開いた。
「俺はテレビという物に驚きましたね」
「てれび?」
「映像を映す娯楽用の魔道具と思っていただければ近いと思います」
娯楽用と言い切るにはニュースとかもやっていたので違う気もするけれど、マリナたちはほぼバラエティしか見なかった。
「映像で見る娯楽?」
王子が首を傾げる。
セレスタでは映像を記録する魔道具は重要な会議を記録したり、犯罪の証拠を撮ったりということに使っている。
娯楽と言われて戸惑うのも無理はない。
「劇を録画したものや歌を記録したものなど色々ありました」
あえて娯楽面に限って話したマリナにヴォルフが一つ付け足す。
「明日の天気を予想して伝えたりもしていました」
「そうか、随分色々な使い方が出来るんだな」
感嘆したように王子が言う。
「まあ、セレスタで娯楽に記録の魔道具が使われるようになるのはまだまだ先のことでしょう」
あれはとても高度な魔術が組み込まれている。
他国にはまだ流通していないくらい貴重な代物なので、個人所有なんてとんでもない。
素材も途轍もなく高いので今のところ、全て国の所有だ。
技術を盗ませないという意味でもそうしている。
「しかし劇か、少し心惹かれるね」
「呼び寄せればいいのでは?」
王宮に呼び寄せればいいと思ったのだけれど、違うと言う。
「時間の合間に好きな場面だけ見たい時があるだろう、本でも何でも。
記録なら誰に憚ることもなく好きなだけ繰り返せると思ったのだ」
成程。
わざわざ呼び寄せて一場面だけ演じろなんて言えるわけがない。
「そうですね…。 劇なら場面を切り取るのが難しそうですが、歌なら左程難しくなさそうです」
記録する時間が短いなら魔道具自体も小さく出来るかもしれなかった。
「出来るのか!?」
王子が目を輝かせる。期待を裏切るようで申し訳ない。
「王宮の魔術師官が良しと言えばですけれど、聞いてみますか?」
「いや…、いい」
あまり大事にしたくない王子は一瞬だけ躊躇って否定する。
王子からの依頼とあれば張り切って作るだろうに。
誰に贈るんだと詮索されたくない心の内がよくわかった。
丁度お茶も終わったのでおかわりがいるか聞くともういいと答える。
劇や音楽など別段興味のない主が何故そんなことを言い出したのか、その理由も知っているがマリナは何も言わずに茶器を片付けた。
こんなに長く続けられるとは思ってませんでした!
見てくださったみなさんに感謝しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ヴォルフとマリナが暮らしていた世界というのはどういった所だったんだ?」
執務の合間の休憩時間に、王子がそんなことを聞いてくる。
どう、と言われても一言で表すのは難しい。
ヴォルフとマリナがそれぞれ説明した異世界の話に王子は興味を持ったみたいだ。
「そうですね、こちらと同じくいくつもの大陸と国があり、国によってかなり風習や政治体系が違っているようでしたね」
数か月しか暮らしていなかったのでそれほど多くのことは知らない。
「私たちが暮らしていた国はとても平和だったようで、夜も灯りが多く大通り以外にも一定の間隔で灯りが灯されていて、子供から若い女性までごく普通に一人で出歩いていました」
セレスタの王都も国の規模の割にとても治安が良い。比べるのは難しいけれどセレスタと同程度かそれ以上だと思っていた。
「聞いた話ではかなり栄えていたようだけど、小さな島国だったんだろう?」
小さいから平和だった、というのは乱暴な意見だ。それに…。
「小さいといってもセレスタの半分に近い大きさですよ?
確かに地図に載っていた他の大国に比べたら国土は小さいですが、それよりもっと小さい国はいくらでもありましたからね」
テレビでも小さい島国という表現は一度だけ聞いたことがあるけれど、マリナの常識に照らし合わせると小さいとは言わない。
「小さいというのが自身を控えめに現した謙遜なのか、自分のサイズを理解していないからなのかはわかりません。
ただ、島国なので他国に行かなければ自身の大きさなど意識しないのかもしれませんね」
「なるほど。 まあ私も国の大きさなど、書類で上がってくること以外は多く知らないけどね」
「王子は外に出ている方ですよ」
視察も年に数回は行っているし、それ以外でも必要があればマリナたちを従えて外に出ることがある。
例えば災害など。緊急の外出なんてあまりあって欲しくないけれど、災害はいつも突然だ。
それでもここ数年は落ち着いていて王子が陣頭指揮を執るような大規模災害は起こっていない。
「商店もこちらとは随分違うようだね」
「そうですね。 食材も豊富でしたが、何より加工された食品の豊富さに驚きましたね」
スーパーの惣菜、コンビニのお弁当の他にも菓子や冷凍食品など、手を入れなくても食べられる物が本当に多かった。
ねえ、とヴォルフに視線を向けるとヴォルフも頷く。
「そうですね。 種類も多く、味も申し分ない物でした」
「そういえば、色々な食材を一か所で売っているのも変わっているところでしたね」
セレスタでは野菜なら野菜、肉なら肉とお店で売る物は決まっている。
何点か同じ分類に入る品を扱うお店はあるけれど、基本的には肉屋は肉だけだし、魚屋には魚しか置いてない。
加工食品であるソーセージやチーズなどを一緒に置くところもあるけれど、そちらは少数派だ。
とくに魚などは痛みが早いので少量を毎日仕入れることになる。
スーパーのように大量の食材を置いておくのは無理だろう。
異世界の冷蔵庫とは少し違うが保管庫ならこちらの世界にもある。
冷やして長持ちさせるのではなく状態を保つ魔法が仕掛けられた保管庫は、魔道具としては結構値段が張る物だ。
王宮には当然備え付けられてあるが、一般庶民で魔道具の保管庫を手にするのはそれなりの大店でないと難しい。
結果的に氷で冷やすという、シンプルな方法を取るのが一般的だった。
「後は、そうですねぇ…」
驚いたことはいくつもあるけれど、どれから説明しようかと迷う。
そこで黙っていたヴォルフが口を開いた。
「俺はテレビという物に驚きましたね」
「てれび?」
「映像を映す娯楽用の魔道具と思っていただければ近いと思います」
娯楽用と言い切るにはニュースとかもやっていたので違う気もするけれど、マリナたちはほぼバラエティしか見なかった。
「映像で見る娯楽?」
王子が首を傾げる。
セレスタでは映像を記録する魔道具は重要な会議を記録したり、犯罪の証拠を撮ったりということに使っている。
娯楽と言われて戸惑うのも無理はない。
「劇を録画したものや歌を記録したものなど色々ありました」
あえて娯楽面に限って話したマリナにヴォルフが一つ付け足す。
「明日の天気を予想して伝えたりもしていました」
「そうか、随分色々な使い方が出来るんだな」
感嘆したように王子が言う。
「まあ、セレスタで娯楽に記録の魔道具が使われるようになるのはまだまだ先のことでしょう」
あれはとても高度な魔術が組み込まれている。
他国にはまだ流通していないくらい貴重な代物なので、個人所有なんてとんでもない。
素材も途轍もなく高いので今のところ、全て国の所有だ。
技術を盗ませないという意味でもそうしている。
「しかし劇か、少し心惹かれるね」
「呼び寄せればいいのでは?」
王宮に呼び寄せればいいと思ったのだけれど、違うと言う。
「時間の合間に好きな場面だけ見たい時があるだろう、本でも何でも。
記録なら誰に憚ることもなく好きなだけ繰り返せると思ったのだ」
成程。
わざわざ呼び寄せて一場面だけ演じろなんて言えるわけがない。
「そうですね…。 劇なら場面を切り取るのが難しそうですが、歌なら左程難しくなさそうです」
記録する時間が短いなら魔道具自体も小さく出来るかもしれなかった。
「出来るのか!?」
王子が目を輝かせる。期待を裏切るようで申し訳ない。
「王宮の魔術師官が良しと言えばですけれど、聞いてみますか?」
「いや…、いい」
あまり大事にしたくない王子は一瞬だけ躊躇って否定する。
王子からの依頼とあれば張り切って作るだろうに。
誰に贈るんだと詮索されたくない心の内がよくわかった。
丁度お茶も終わったのでおかわりがいるか聞くともういいと答える。
劇や音楽など別段興味のない主が何故そんなことを言い出したのか、その理由も知っているがマリナは何も言わずに茶器を片付けた。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。

今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる