双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 帰還編

休憩中の雑談

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100話記念の番外編です。
こんなに長く続けられるとは思ってませんでした!
見てくださったみなさんに感謝しています。
―――――――――――――――――――――――――――――


「ヴォルフとマリナが暮らしていた世界というのはどういった所だったんだ?」
 執務の合間の休憩時間に、王子がそんなことを聞いてくる。
 どう、と言われても一言で表すのは難しい。
 ヴォルフとマリナがそれぞれ説明した異世界の話に王子は興味を持ったみたいだ。
「そうですね、こちらと同じくいくつもの大陸と国があり、国によってかなり風習や政治体系が違っているようでしたね」
 数か月しか暮らしていなかったのでそれほど多くのことは知らない。
「私たちが暮らしていた国はとても平和だったようで、夜も灯りが多く大通り以外にも一定の間隔で灯りが灯されていて、子供から若い女性までごく普通に一人で出歩いていました」
 セレスタの王都も国の規模の割にとても治安が良い。比べるのは難しいけれどセレスタと同程度かそれ以上だと思っていた。
「聞いた話ではかなり栄えていたようだけど、小さな島国だったんだろう?」
 小さいから平和だった、というのは乱暴な意見だ。それに…。
「小さいといってもセレスタの半分に近い大きさですよ?
 確かに地図に載っていた他の大国に比べたら国土は小さいですが、それよりもっと小さい国はいくらでもありましたからね」
 テレビでも小さい島国という表現は一度だけ聞いたことがあるけれど、マリナの常識に照らし合わせると小さいとは言わない。
「小さいというのが自身を控えめに現した謙遜なのか、自分のサイズを理解していないからなのかはわかりません。
 ただ、島国なので他国に行かなければ自身の大きさなど意識しないのかもしれませんね」
「なるほど。 まあ私も国の大きさなど、書類で上がってくること以外は多く知らないけどね」
「王子は外に出ている方ですよ」
 視察も年に数回は行っているし、それ以外でも必要があればマリナたちを従えて外に出ることがある。
 例えば災害など。緊急の外出なんてあまりあって欲しくないけれど、災害はいつも突然だ。
 それでもここ数年は落ち着いていて王子が陣頭指揮を執るような大規模災害は起こっていない。
「商店もこちらとは随分違うようだね」
「そうですね。 食材も豊富でしたが、何より加工された食品の豊富さに驚きましたね」
 スーパーの惣菜、コンビニのお弁当の他にも菓子や冷凍食品など、手を入れなくても食べられる物が本当に多かった。
 ねえ、とヴォルフに視線を向けるとヴォルフも頷く。
「そうですね。 種類も多く、味も申し分ない物でした」
「そういえば、色々な食材を一か所で売っているのも変わっているところでしたね」
 セレスタでは野菜なら野菜、肉なら肉とお店で売る物は決まっている。
 何点か同じ分類に入る品を扱うお店はあるけれど、基本的には肉屋は肉だけだし、魚屋には魚しか置いてない。
 加工食品であるソーセージやチーズなどを一緒に置くところもあるけれど、そちらは少数派だ。
 とくに魚などは痛みが早いので少量を毎日仕入れることになる。
 スーパーのように大量の食材を置いておくのは無理だろう。
 異世界の冷蔵庫とは少し違うが保管庫ならこちらの世界にもある。
 冷やして長持ちさせるのではなく状態を保つ魔法が仕掛けられた保管庫は、魔道具としては結構値段が張る物だ。
 王宮には当然備え付けられてあるが、一般庶民で魔道具の保管庫を手にするのはそれなりの大店でないと難しい。
 結果的に氷で冷やすという、シンプルな方法を取るのが一般的だった。
「後は、そうですねぇ…」
 驚いたことはいくつもあるけれど、どれから説明しようかと迷う。
 そこで黙っていたヴォルフが口を開いた。
「俺はテレビという物に驚きましたね」
「てれび?」
「映像を映す娯楽用の魔道具と思っていただければ近いと思います」
 娯楽用と言い切るにはニュースとかもやっていたので違う気もするけれど、マリナたちはほぼバラエティしか見なかった。
「映像で見る娯楽?」
 王子が首を傾げる。
 セレスタでは映像を記録する魔道具は重要な会議を記録したり、犯罪の証拠を撮ったりということに使っている。
 娯楽と言われて戸惑うのも無理はない。
「劇を録画したものや歌を記録したものなど色々ありました」
 あえて娯楽面に限って話したマリナにヴォルフが一つ付け足す。
「明日の天気を予想して伝えたりもしていました」
「そうか、随分色々な使い方が出来るんだな」
 感嘆したように王子が言う。
「まあ、セレスタで娯楽に記録の魔道具が使われるようになるのはまだまだ先のことでしょう」
 あれはとても高度な魔術が組み込まれている。
 他国にはまだ流通していないくらい貴重な代物なので、個人所有なんてとんでもない。
 素材も途轍もなく高いので今のところ、全て国の所有だ。
 技術を盗ませないという意味でもそうしている。
「しかし劇か、少し心惹かれるね」
「呼び寄せればいいのでは?」
 王宮に呼び寄せればいいと思ったのだけれど、違うと言う。
「時間の合間に好きな場面だけ見たい時があるだろう、本でも何でも。
 記録なら誰に憚ることもなく好きなだけ繰り返せると思ったのだ」
 成程。
 わざわざ呼び寄せて一場面だけ演じろなんて言えるわけがない。
「そうですね…。 劇なら場面を切り取るのが難しそうですが、歌なら左程難しくなさそうです」
 記録する時間が短いなら魔道具自体も小さく出来るかもしれなかった。
「出来るのか!?」
 王子が目を輝かせる。期待を裏切るようで申し訳ない。
「王宮の魔術師官が良しと言えばですけれど、聞いてみますか?」
「いや…、いい」
 あまり大事にしたくない王子は一瞬だけ躊躇って否定する。
 王子からの依頼とあれば張り切って作るだろうに。
 誰に贈るんだと詮索されたくない心の内がよくわかった。
 丁度お茶も終わったのでおかわりがいるか聞くともういいと答える。
 劇や音楽など別段興味のない主が何故そんなことを言い出したのか、その理由も知っているがマリナは何も言わずに茶器を片付けた。
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