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セレスタ 帰還編
父親来襲 2
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人数分のお茶を入れてテーブルに置く。
王子から見て左のソファに侯爵が、右のソファにマリナとヴォルフが座る。
お茶を一口飲んだところでマリナは口を開いた。
「まず侯爵、ヴォルフの婚約者とは私のことです」
誤解のしようがないようにはっきりと告げる。
突然の告白に侯爵は口を開けて驚いていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。 君は…」
そういえば名乗っていなかったと思い直して自己紹介をする。
「双翼の名を賜っております、マリナと申します」
それだけでマリナが何者かは知れる。侯爵はどうしてか驚愕の顔でマリナを見ていた。
侯爵の驚愕が収まるまでマリナたちは無言でお茶を飲む。
王子は諦めの顔でお茶菓子を口に運んでいた。
「本当なのか…、ヴォルフ?」
「ああ」
信じられないのか侯爵がヴォルフに確かめる。
返ってきた答えに侯爵が頭を抱えた。
「信じられない…」
小さな呟きが聞こえて部屋の空気が重くなる。
ヴォルフが口を開こうとした瞬間、侯爵が勢いよく頭を上げた。
「双翼の魔術師といったら、王子の政務の補佐や相談も受けるという才媛じゃないか!
そんな子がお前と婚約なんて…、嘘だろう!?」
予想外の方向に驚きが向かっている。
(王子の執務に口を出す小賢しい娘とかは言われたことあるけど)
言い方が変わるとここまで印象が違うものなんだな、と何故か感心した。
(まあ、表現が変わってもやってることは一緒なんだけど)
侯爵は目を丸くしてマリナを見ている。ヴォルフとよく似た顔で表情がくるくる変わる。
なんで息子はこんなに無愛想になったんだろう。
別にヴォルフに不満があるわけじゃないけど。
純粋に不思議だった。
観察していると侯爵が険しい顔になる。
「まさかお前、不埒な手段で彼女が婚約を断れないようにしたんじゃ…」
「それは私への侮辱と受け取ってよろしいんでしょうか?」
微笑みというには物騒な笑顔を向ける。
笑顔で圧力をかけると侯爵が慌てて謝罪した。
「いや、申し訳ない! あまりのことに信じられなくてつい!」
つい、でとんでもない疑いをかけられたヴォルフも穏やかではない顔をしている。
「魔力を封じられでもしない限りヴォルフに後れをとることはありません」
実際訓練でも魔術を使ってならそれなりに相手が出来る。勝つことは容易ではないけれど。
そしてマリナの魔力を封じられる術者なんていない。
異世界に飛ばされたときは特殊な聖剣だったし、王子を攻撃して逃げる訳にもいかなかったからだ。
何重かの意味で不名誉な疑いは即座に潰した。
「なら、本当に自らの意思でヴォルフの妻になろうと?」
「ええ」
本来ならこれは照れる問いな気がするけれど、先程からの会話の流れのせいでとてもそんな雰囲気にはなれない。
「…!」
突然侯爵が席を立ってマリナの方へ歩いてくる。
そして。
「ありがとう!!」
力一杯握手された。
「良かった! これで不安が消えた!!」
全力で喜びを表す侯爵に誰もついて行けてない。
「ではマリナさん、今度ぜひ我が家に遊びに来てください!
アレクとクリスにも紹介せねばなりませんからな!!」
因みにアレクというのはヴォルフの弟で、クリスというのはその婚約者のクリスティーナ様のことだ。
「いやー、良かった。 弟の結婚式に兄が婚約者すらいないでは面目が立ちませんからな!」
一人でどんどん話を進めていく。誰も、相槌すら打っていなかった。
「では私はこれで! 王子、お邪魔をいたしました」
「あ、ああ」
王子が辛うじて返事をする。
侯爵は来た時と同じく、嵐のように去っていった。
「…」
「…」
「…」
三人分の沈黙が落ちる。
ややあって口を開いたのは傍観者だった王子。
「まあ、認めてもらってよかったのではないか?」
「そうですか?」
良し悪しで言ったらいいのかもしれないけれど…。
「何か疲れたわ」
「俺もだ、少し休憩するか」
このまま執務に戻っても絶対に集中できない。
そうしてマリナたちは長い休憩に入ったのだった。
王子から見て左のソファに侯爵が、右のソファにマリナとヴォルフが座る。
お茶を一口飲んだところでマリナは口を開いた。
「まず侯爵、ヴォルフの婚約者とは私のことです」
誤解のしようがないようにはっきりと告げる。
突然の告白に侯爵は口を開けて驚いていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。 君は…」
そういえば名乗っていなかったと思い直して自己紹介をする。
「双翼の名を賜っております、マリナと申します」
それだけでマリナが何者かは知れる。侯爵はどうしてか驚愕の顔でマリナを見ていた。
侯爵の驚愕が収まるまでマリナたちは無言でお茶を飲む。
王子は諦めの顔でお茶菓子を口に運んでいた。
「本当なのか…、ヴォルフ?」
「ああ」
信じられないのか侯爵がヴォルフに確かめる。
返ってきた答えに侯爵が頭を抱えた。
「信じられない…」
小さな呟きが聞こえて部屋の空気が重くなる。
ヴォルフが口を開こうとした瞬間、侯爵が勢いよく頭を上げた。
「双翼の魔術師といったら、王子の政務の補佐や相談も受けるという才媛じゃないか!
そんな子がお前と婚約なんて…、嘘だろう!?」
予想外の方向に驚きが向かっている。
(王子の執務に口を出す小賢しい娘とかは言われたことあるけど)
言い方が変わるとここまで印象が違うものなんだな、と何故か感心した。
(まあ、表現が変わってもやってることは一緒なんだけど)
侯爵は目を丸くしてマリナを見ている。ヴォルフとよく似た顔で表情がくるくる変わる。
なんで息子はこんなに無愛想になったんだろう。
別にヴォルフに不満があるわけじゃないけど。
純粋に不思議だった。
観察していると侯爵が険しい顔になる。
「まさかお前、不埒な手段で彼女が婚約を断れないようにしたんじゃ…」
「それは私への侮辱と受け取ってよろしいんでしょうか?」
微笑みというには物騒な笑顔を向ける。
笑顔で圧力をかけると侯爵が慌てて謝罪した。
「いや、申し訳ない! あまりのことに信じられなくてつい!」
つい、でとんでもない疑いをかけられたヴォルフも穏やかではない顔をしている。
「魔力を封じられでもしない限りヴォルフに後れをとることはありません」
実際訓練でも魔術を使ってならそれなりに相手が出来る。勝つことは容易ではないけれど。
そしてマリナの魔力を封じられる術者なんていない。
異世界に飛ばされたときは特殊な聖剣だったし、王子を攻撃して逃げる訳にもいかなかったからだ。
何重かの意味で不名誉な疑いは即座に潰した。
「なら、本当に自らの意思でヴォルフの妻になろうと?」
「ええ」
本来ならこれは照れる問いな気がするけれど、先程からの会話の流れのせいでとてもそんな雰囲気にはなれない。
「…!」
突然侯爵が席を立ってマリナの方へ歩いてくる。
そして。
「ありがとう!!」
力一杯握手された。
「良かった! これで不安が消えた!!」
全力で喜びを表す侯爵に誰もついて行けてない。
「ではマリナさん、今度ぜひ我が家に遊びに来てください!
アレクとクリスにも紹介せねばなりませんからな!!」
因みにアレクというのはヴォルフの弟で、クリスというのはその婚約者のクリスティーナ様のことだ。
「いやー、良かった。 弟の結婚式に兄が婚約者すらいないでは面目が立ちませんからな!」
一人でどんどん話を進めていく。誰も、相槌すら打っていなかった。
「では私はこれで! 王子、お邪魔をいたしました」
「あ、ああ」
王子が辛うじて返事をする。
侯爵は来た時と同じく、嵐のように去っていった。
「…」
「…」
「…」
三人分の沈黙が落ちる。
ややあって口を開いたのは傍観者だった王子。
「まあ、認めてもらってよかったのではないか?」
「そうですか?」
良し悪しで言ったらいいのかもしれないけれど…。
「何か疲れたわ」
「俺もだ、少し休憩するか」
このまま執務に戻っても絶対に集中できない。
そうしてマリナたちは長い休憩に入ったのだった。
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