双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 帰還編

踊らされた人々 小さな一歩

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 シャルロッテが屋敷に戻ると、お爺様が使っている馬車が止まっているのが見えた。
「お爺様がいらっしゃってるの?」
 急なことだ。こんなことならマリナの所になんて行かなければよかった。
 マリナはシャルロッテのことを変だと言うけれど、マリナも十分マイペースで変わっていると思う。
 シャルロッテの新しい友人(?)は今までにはいない人だった。
 フローラにだけはマリナのことを話したけれど、彼女も驚いていた。
 そのうち二人を会わせてみたい。
 ただ、この間のシャルロッテとマリナの行動のせいで少し怖がっている。
 フローラは少し魔術を学んだことがあると言っていた。そのせいで余計にマリナのことを畏怖しているのかもしれない。
 実際は人をからかって遊んだり、軽口を叩くこともある。
 少女めいた容姿を裏切って大人びた目をしている時もあり、そんなときは声を掛けづらい。
 マリナ自身も言っていた。シャルロッテとマリナでは見えているものが違うと。
 望まれる役割が違うのだから必要以上に比べようとしないでと言っていた。
 そうはいっても人が持っている物を羨ましく感じてしまうのは仕方のないこと。
 努力で得られたものなら自分にも得られるかもしれないと思ってしまう。
 お爺様がいらっしゃっている部屋の前で息を整える。
 お爺様に会うのにこんなに緊張するのは初めてだわ。
 自分が言おうとしていることを考えると恥ずかしいし怖い。
 けれど、望みがあるのなら黙っていては駄目だとシャルロッテはもう知っている。
 勇気を出して扉の取っ手を掴んだ。
 扉を開けるとお爺様とお父様お母様が揃って談笑していた。
「ただ今戻りましたわ」
「お帰りなさい、シャルロッテ」
 お母様がにっこり笑って立ち上がる。
「今日は遅かったわね、お爺様が待っていたのよ?」
 お父様もお母様の横で肯く。シャルロッテも知っていたらもっと早く帰ってきた。
「遅くなってごめんなさい。 お爺様が来ていると知っていたらもう少し早く帰ってきたのに…」
「気にすることはない。 突然来てしまったからな」
 謝罪するとお爺様は厳しそうな顔に柔らかい笑みを浮かべる。
 たった一人の孫娘だからか、お爺様はシャルロッテに優しい。
 従兄弟にはもう少し厳しく接していたはず。
 お爺様が近くに座るように招く。
 姿勢を正してお爺様に向き直る。緊張に舌を噛まないように、ゆっくりと言葉を発した。
「お爺様」
「ん? どうした、シャルロッテ」
 優しく微笑まれて緊張が高まる。これからシャルロッテが話すことを聞いたらその笑みが見られなくなってしまうのではないかと、わずかな迷いが胸を過る。
 迷いを振り切って、微笑みを意識しながら口を開いた。
「お爺様に会っていただきたい方がいるのです。 お父様、お母様にも」
 のんびりしたお母様には伝わらなかったようだけれど、お爺様とお父様にはすぐに意図が伝わったみたい。
「シャルロッテ、それは…」
 お父様が少しだけ目を見開いてシャルロッテの言葉を確かめようとする。
 それを遮ったのはお爺様の声だった。
「それは、私が勧めた者ではないな?」
「はい」
 お爺様に勧められた相手には近づいてすらいない。
 それもお爺様は知っていらしゃるのかもしれなかった。
 緊張に握った手が汗をかいている。
「騎士団に差し入れをしに行ったときに出会ったのです。
 お爺様が勧めてくださった方のように特別に秀でた方ではありませんが、優しく、誠実な方ですわ」
 お爺様が名前を上げた方は双翼のヴォルフ様に匹敵する、とはいかないものの力のある家の方で、ご本人も優秀だと伺った。
「まあ、シャルロッテ。 恋人が出来たの?」
 優しく誠実な方、という文脈でお母様が反応した。まあ!と少女のように顔を輝かせている。
 そんなお母様の横でお父様が何かを考えるような顔をしていた。
「本当なのだな? 騎士団の者と特別懇意になった、と」
 確かめるようにお爺様が繰り返す。
「はい」
 お腹に力を入れてはっきりと告げる。
「勝手な願いだとはわかっていますが、どうか認めていただけませんか」
 お爺様がシャルロッテに力のある家との結びつきを作ってほしいと思っているのもわかっている。
 それでも諦めきれないのです、身勝手だと思っても願わずにいられない。
 許さないとも言われていないうちから諦めるなんて出来なかった。
「父上、いいではないですか」
 じっとお爺様の瞳を見つめていると横からお父様の声が聞こえた。
「まだ相手に会っていないので認めるとも口に出来ないけれど、反対する理由はないと思いますよ」
 お父様の言葉にお爺様が苦々しい表情を浮かべる。
「お前は本当に野心というものがないな…。 どうして弟に比べてこうものんびりした性格になったのか…」
 叔父様の顔を思い浮かべて心の中で肯く。
 マリナに従兄弟との縁談を持ち込むくらいだもの、野心家なのは間違いないとシャルロッテも思う。
「必要以上の野心は周りとの軋轢を生むだけですから。
 それに、父上の推す青年は有力過ぎるのでシャルロッテが嫁いでいくことになるでしょう?
 どうせならシャルロッテが家から出なくてもいい相手の方が望ましいですよ」
 確かにヴォルフ様をはじめお爺様が上げた名前はシャルロッテが嫁ぐことを前提とした相手だった。
 ヴォルフ様なんて侯爵家嫡男なので、シャルロッテが嫁ぐ以外考えられない。
 一人娘が嫁いでいくことよりも有力貴族との結びつきの方が価値が高いと考えたお爺様と、一人娘が嫁ぐより婿を貰って家を安定させた方がいいと考えるお父様。
 どちらの言うことも間違ってはいない。
「しかしな…」
「シャルロッテが望んだ相手だというなら一度会ってみてもいいでしょう。 話はそれからで」
 悩みに唸るお爺様にお父様が簡単に言う。
「ではシャルロッテ、今度連れておいで。 会ってみないことには何の判断も下せないからね」
「っ、ありがとうございます…!!」
 まだ認めた訳じゃないよ、と釘を刺すお父様に笑みを返す。
 それくらい私だってわかっているわ。
 それでも喜んでいいでしょう?
 お爺様も、だったら一緒に会うから決まったら連絡するように、と言ってくれる。
 こんな簡単なことだったなんて…!
 もちろんまだ安心なんて出来ないけれど。
 一方的に否定されることなく話を聞いてくれた。
 自分がどれだけ恵まれているのか、改めて感じる。
「お爺様、ありがとうございます…!」
 うれしさに涙の滲んだ瞳でお爺様を見つめ、感謝を告げる。
 少し気まずそうに、それでも照れながら笑みを返してくれるお爺様にもう一度感謝を言葉にして贈った。
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