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セレスタ 帰還編

災い転じて 3

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 自分の発言の拙さに俯く。
 恥ずかしさに小さくなっているとマリナ様がおかしそうに笑う。
「シャルロッテ様は素直な方ですね」
 笑われてかっとなる。
「どうせあなたに比べたら社会経験もなく未熟な身ですわ!」
 言った直後に後悔が襲ってくる。
 何でこんなことを言ってしまうのでしょう。
 マリナ様が私より優れているのは当然なのに。
 目をぱちくりとさせマリナ様が私を見つめる。
「私もシャルロッテ様もそう変わらないと思いますけれど?」
「気休めはよしてください」
 すぐに感情的になってしまうシャルロッテと冷静に周りを見られるマリナ様とは大違いだ。
「すぐ感情的になる、ですか。 私も同じようなものですよ」
 シャルロッテを落ち着かせるためかそんなことを言ってくれる。
「そんなはずありませんでしょう、私の知る限りマリナ様はいつも冷静でしたわ」
 直接話をさせていただいたのはこの前が初めてでしたけれど。
「そうだったら良いんですけどね…」
 苦笑するマリナ様は先程よりくだけた口調で答える。
「この前シャルロッテ様に会った日はヴォルフと喧嘩してたんですよ。
 喧嘩というか私が一方的に怒ってたんですけどね」
 流れた噂の件で言い合いになったと言う。
 ヴォルフ様相手に言い合い。とても想像がつかない。
「私とヴォルフは育った環境も立場も違いますから。 シャルロッテ様たちのように貴族らしい教育を受けたわけでもありませんので、お互いの望みと立場をすり合わせるのは難しいですよ。
 歳も離れてますし」
 意外な暴露にまじまじとマリナ様を見つめる。
 マリナ様でもそんな風に思うことがあるなんて…。
 ふと疑問が胸に浮かんで思わず口を突く。
「失礼を承知でお聞きしてもよろしいですか?」
「どうぞ」
 間を置かず答えてくれる。
 マリナ様はとても大らかな人だと思う。
 こんな、個人的な質問を許してくれる優しさに甘えて気になったことを口にした。
「マリナ様は私たちのような人間を羨ましく思ったことがありますか?」
 とても失礼な質問にも関わらず、マリナ様はあっさりと答えを口に乗せる。
「ありますよ」
 自分で聞いておいて驚いた。
「あ、ありますの?」
「一度もないといったら嘘になりますからね」
 事も無げに言う。
 自信に満ちて自分に疑問を抱いているようには見えないマリナ様が…!?
「そうですねえ、小さい頃はこちらを見て自分の父親は誰々だ、自分はこれを持っていると自慢げに言ってくる方を見て妬ましく思ったこともありますよ。
 庇護されていることを当然と信じて他人の価値を貶める方々を恨めしく思っていました」
 自分の持っていない物を見せつけてくる人間に羨望を抱いたことがある。
 直接聞いてもまだ信じられなかった。
「…」
 自己嫌悪が激しくシャルロッテを襲う。
 マリナ様も自分と同じように他者を羨んだことがある。
 ただ、シャルロッテと違い自己を高める努力を惜しまなかっただけ。
 自分とは違うから、能力があるから、特別な人間だからと理由を付けて劣っていることを許した自分がなんて愚かなんだろう。
 後悔と恥ずかしさと悔しさと、それから何かわからない激しい感情がシャルロッテの中で渦巻く。
「…っ」
「泣かれると困るのですが…」
 マリナ様の声に自分が泣いていたのに気付く。
「申し訳ありません…」
「どうして謝るのですか」
 ますます困ったように笑うマリナ様に涙が溢れる。
 自分の弱さを今ほど厭ったことはない。
 あんな謝罪全然十分じゃなかった。
 心の伴わない謝罪に何の意味があったというのか。
「そんなことを言わないでください。 ちゃんと受け取りましたよ、私は」
「あんなの違います! 私のやったことは彼と同じ八つ当たりで、内容だって処分されないとおかしなことです」
 見当違いの八つ当たりでマリナ様を害そうとした従兄弟と同じ。
 いいえ、それよりも酷い。
 許されたことに甘んじておざなりな謝罪で自分を満足させてその意味を考えようともしなかった。
「困りましたねぇ、私はシャルロッテ様を処分なんてしたくないんですけど」
「だったらどうやって償えばいいのです!」
 悲鳴のような声で叫ぶ。
 罰してほしいと言うことも身勝手なことだとわかっていても抑えられなかった。
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