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セレスタ 帰還編
ストレス発散 1
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城壁に腰掛けて足を揺らす。
暮れゆく空が赤く街を染めていた。
きれいだと思う余裕はマリナにはあまりない。
こうして城壁で空なんて見ているのは現実逃避だった。
執務室に戻ったのにどうしてここにいるのかというと…。
今日の仕事がなくなったからだ。
思ったより戻るのが遅くなったのもあるけれど、王子がほとんどの仕事を片付けていた。
やろうと思えばまだ仕事はあったけれど、残りは明日に回すとの王子の一言で今日の仕事はなくなった。
いつもより早い時間、何をするでもなくぼうっとする。
たまにはいいかな、と思う反面こんなことをしている場合じゃないとも考えてしまう。
(ヴォルフと話さないと)
謝らなくちゃ。謝ってもらわなくちゃ?
マリナが謝る要素はない気がする。
謝って…もらっても?
腹立たしいけれどヴォルフが取った行動が間違いだったとは思わない。
もう少し考えてほしかったとは思うけれど。
やっぱりヴォルフを見つけて話をしないといけない気がする。
執務室に戻ったら何故かヴォルフがいなかったので何も話せていない。
空は西から暗くなっていて、色が複雑に混ざり合っていた。
夕日もきれいだけれど、ここから見るなら朝日の方が美しい。
単純に好みの問題な気もするけど。
ぼーーっと暗くなっていく空を見つめる。
「よしっ」
現実逃避は止めてヴォルフを探しに行くことにした。
そろそろ巡回の騎士たちも来そうだし、ここにいてもしかたない。
ヴォルフがいそうなところから探し始めることにする。
ヴォルフとの付き合いは浅いけれど、長い。
普段行く所なら大体把握していた。
マリナもヴォルフも交友関係が広いわけではないし。
マリナよりは周りと交流していたヴォルフが一番に出入りしている所―――。
騎士団の詰所まで来ていた。
……とっても入りづらい。
日が暮れて人が減っているとはいえ、夜間警備の人間もいるし自主的に残って訓練をしたり、執務を行っている人もいる。
部外者のマリナが入っていくと目立つ。
入るのにいちいち許可などいらないので堂々と入ればいい。
わかっていてもちょっと足が鈍る。
人がいなくなる隙を狙おうかと思っても入口には常時二人が立っている。入口以外からこっそり入るのは、出来るけど見つかった時に問題が大きくなりそうなので出来ない。
本当はそっちを選択したかった…。
いつまでも躊躇っていても時間が無駄になるだけなので入口に向かって歩き出す。
立ち番をしている二人がマリナを見てわずかに目を見張る。
そうだよねー、驚くよねー、と自嘲しながら横を通り過ぎた。
視線から感じた好奇心。きっと彼らもマリナたちの噂を知っているのだろう。
羞恥心も今は押し込めてヴォルフの姿を探す。
いるとしたらきっと訓練場だろう。
そう予測したマリナの考えは当たっていた。
いくつかある訓練所の奥にヴォルフはいた。
ヴォルフは一人で剣を振っている。
いつからやっていたのか髪が肌に張り付き、剣を振るうたびに汗の玉が舞っていた。
きっちり着込んだ騎士服を乱すことなく剣を振るい続ける。
何度も幼い頃から繰り返してきた練磨された動きは綺麗だった。
見惚れている間にもヴォルフは黙々と鍛練を続ける。
こうしていても、埒が明かない
瞬きを一つして息を吸い込む。
「…!」
一瞬で練り上げた魔力をヴォルフに向かって放つ。
「!」
魔法に成りきらない魔力の塊はヴォルフの振るった剣に弾かれ訓練所の壁に当たり、弾けた。
咄嗟に反応した剣を下ろし、ヴォルフがマリナを見る。
「マリナ…? 何故ここに」
「ちょっと付き合ってもらおうと思って」
返事を返しながら短剣を取り出す。
といっても刃は潰してある。
指をすべらしても切れたりはしない。
まあ、力一杯突けばベッドのマットレスくらいは貫通する代物だけど。
マリナが短剣を構えたのを見て、ヴォルフも戸惑いながら剣を構える。
たまにこうして手合せをした。
異世界から帰ってからは時間が取れずに一度も機会がなかったけれど。
今は身体を動かしたい気分だった。
ヴォルフも同じような思いだったから汗だくになるまで鍛練を続けていたのだろう。
開始の合図はしない。
何も考えず、頭をからっぽにして走り出した。
暮れゆく空が赤く街を染めていた。
きれいだと思う余裕はマリナにはあまりない。
こうして城壁で空なんて見ているのは現実逃避だった。
執務室に戻ったのにどうしてここにいるのかというと…。
今日の仕事がなくなったからだ。
思ったより戻るのが遅くなったのもあるけれど、王子がほとんどの仕事を片付けていた。
やろうと思えばまだ仕事はあったけれど、残りは明日に回すとの王子の一言で今日の仕事はなくなった。
いつもより早い時間、何をするでもなくぼうっとする。
たまにはいいかな、と思う反面こんなことをしている場合じゃないとも考えてしまう。
(ヴォルフと話さないと)
謝らなくちゃ。謝ってもらわなくちゃ?
マリナが謝る要素はない気がする。
謝って…もらっても?
腹立たしいけれどヴォルフが取った行動が間違いだったとは思わない。
もう少し考えてほしかったとは思うけれど。
やっぱりヴォルフを見つけて話をしないといけない気がする。
執務室に戻ったら何故かヴォルフがいなかったので何も話せていない。
空は西から暗くなっていて、色が複雑に混ざり合っていた。
夕日もきれいだけれど、ここから見るなら朝日の方が美しい。
単純に好みの問題な気もするけど。
ぼーーっと暗くなっていく空を見つめる。
「よしっ」
現実逃避は止めてヴォルフを探しに行くことにした。
そろそろ巡回の騎士たちも来そうだし、ここにいてもしかたない。
ヴォルフがいそうなところから探し始めることにする。
ヴォルフとの付き合いは浅いけれど、長い。
普段行く所なら大体把握していた。
マリナもヴォルフも交友関係が広いわけではないし。
マリナよりは周りと交流していたヴォルフが一番に出入りしている所―――。
騎士団の詰所まで来ていた。
……とっても入りづらい。
日が暮れて人が減っているとはいえ、夜間警備の人間もいるし自主的に残って訓練をしたり、執務を行っている人もいる。
部外者のマリナが入っていくと目立つ。
入るのにいちいち許可などいらないので堂々と入ればいい。
わかっていてもちょっと足が鈍る。
人がいなくなる隙を狙おうかと思っても入口には常時二人が立っている。入口以外からこっそり入るのは、出来るけど見つかった時に問題が大きくなりそうなので出来ない。
本当はそっちを選択したかった…。
いつまでも躊躇っていても時間が無駄になるだけなので入口に向かって歩き出す。
立ち番をしている二人がマリナを見てわずかに目を見張る。
そうだよねー、驚くよねー、と自嘲しながら横を通り過ぎた。
視線から感じた好奇心。きっと彼らもマリナたちの噂を知っているのだろう。
羞恥心も今は押し込めてヴォルフの姿を探す。
いるとしたらきっと訓練場だろう。
そう予測したマリナの考えは当たっていた。
いくつかある訓練所の奥にヴォルフはいた。
ヴォルフは一人で剣を振っている。
いつからやっていたのか髪が肌に張り付き、剣を振るうたびに汗の玉が舞っていた。
きっちり着込んだ騎士服を乱すことなく剣を振るい続ける。
何度も幼い頃から繰り返してきた練磨された動きは綺麗だった。
見惚れている間にもヴォルフは黙々と鍛練を続ける。
こうしていても、埒が明かない
瞬きを一つして息を吸い込む。
「…!」
一瞬で練り上げた魔力をヴォルフに向かって放つ。
「!」
魔法に成りきらない魔力の塊はヴォルフの振るった剣に弾かれ訓練所の壁に当たり、弾けた。
咄嗟に反応した剣を下ろし、ヴォルフがマリナを見る。
「マリナ…? 何故ここに」
「ちょっと付き合ってもらおうと思って」
返事を返しながら短剣を取り出す。
といっても刃は潰してある。
指をすべらしても切れたりはしない。
まあ、力一杯突けばベッドのマットレスくらいは貫通する代物だけど。
マリナが短剣を構えたのを見て、ヴォルフも戸惑いながら剣を構える。
たまにこうして手合せをした。
異世界から帰ってからは時間が取れずに一度も機会がなかったけれど。
今は身体を動かしたい気分だった。
ヴォルフも同じような思いだったから汗だくになるまで鍛練を続けていたのだろう。
開始の合図はしない。
何も考えず、頭をからっぽにして走り出した。
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