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セレスタ 帰還編
踊らされる人々 子爵令嬢の誇り
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私は幼い頃から蝶よ花よと育てられてきた。
頼りないけど優しいお父様と、世間知らずでのんびりしたお母様に愛されて、幸せじゃないと思ったことなんて一度もなかった。
お爺様やおばあ様は厳しいけれど、間違ったことは言わない。
いつも貴族として正しくあるようにと、道を示してくれた。
だから言いつけられたことには全力で応えようとしたわ。
双翼の騎士と近づきになれと言われた時も黙って頷いた。
吊り合っているとは言えない家柄だけど、自分の能力にも美貌にも自信がある。
きっと振り向かせることができると思っていた。
騎士団にいる従兄弟に会いに行くふりでヴォルフ様に会う機会を狙ったり。
ほぼ早朝にしか現れないというので効果はなかったけれど。
侍女として王宮に勤めて近づいた方が良いのかもしれないとも考えた。
それにはお父様とお母様が反対した。流石に一人娘を手元から離す気にはなれなかったみたい。
出来る限りのことは全部してきた。
なのに一向に目を留めてくださらない。
夜会に出てもヴォルフ様はいなかったり、いても王子の護衛として控えていらっしゃるばかり。
とてもお近づきになれなかったわ。
必要もないのに護衛の方に話しかけたりダンスを申し込んだりするのは非常識なことだもの。
いつもヴォルフ様の一番近くにいるのは双翼の魔術師であるマリナ様。
平民の親に捨てられた子供だという彼女がこの国で二番目に尊いお方の側にいる。
物語みたいね、と最初は気にも留めなかったけれど、段々無視できない存在になっていった。
決して仲が良かったわけではないけれど、彼女がいるだけでヴォルフ様に近づける回数が減ってしまう。
言いつけを果たせないことに焦りながらも打つ手が見つからないでいた頃、二人は突然姿を消した。
噂ではヴォルフ様に危害を加えた彼女が追放されたと言われていたけれど、俄かには信じられず、早朝騎士団を訪ねた。
騎士団の方が訓練をしているのを見てもヴォルフ様は現れなかった。いつも早朝だけは顔を出すと聞いたのに。
自邸や領地に帰って療養をしているのかとも思ったけれど、それらしい話も聞かない。
私はどうしたらいいのかわからなくなってしまって途方に暮れていた。
ただ突然訪ねるのを止めたらおかしく思われるだろうと騎士団通いだけは続けていた。
そんなとき、あの人と会ったの。
騎士らしくない穏やかな目をした人。
訪ねた時に差し入れたお菓子をおいしいと言ってお礼を言ってくれた。
ただそれだけ。
それだけのことに胸がときめいた。
それから騎士団に通う理由が私の中で変わったわ。
行くときには必ず自分で焼いたお菓子を持って、彼の手に渡るように少し多めに作った。
通う頻度が短くなり過ぎないように気を使って、彼が練習所にいる時間を狙って通ったわ。
ヴォルフ様が王宮に帰って来たと聞いてもどうでもよかった。
ただ彼に会うために騎士団に通っていたわ。
そのうち顔を合わせたときには挨拶をするようになった。
彼はお菓子が好きみたいで私が自ら作ったと言ったときには驚いて、今まで食べた中で一番おいしいと言ってくれた。
出会ってから恋に落ちるまで、そう時間はかからなかった。
気が付いたときには私は彼に恋をしていて、彼も私を意識してくれていた。
恋人になるには私にはお爺様に言いつけられた使命があったし、彼は自分に力がないことを気にしていたわ。
同じ子爵家でも家格が高く豊かな家の一人娘の私と、困窮している家の三男坊の自分では釣り合わないと泣いていた。
自分と同じ気持ちだったことがうれしくて、けれど感情のまま胸に飛び込むことが出来なくて私も一緒に泣いた。
好きな人ができたの―――。
フローラ…、フロレンティーナにだけ、そう打ち明けた。
物静かで優しい幼馴染は驚きに目を見張った後、花が綻ぶような笑顔で私を祝福してくれた。
喜んでくれる人なんて誰もいない恋だと思っていたのにフロレンティーナに打ち明けたのは、本当は誰かに良かったねと言ってほしかったから。
彼女なら、責めずに話を聞いてくれると思った。
祝福こそしなくても、恋が破れたときには一緒に泣いてくれるだろうと。
けれど、純粋に喜んでくれた。
うれしくて、子供の頃のように力一杯抱きしめてしまったくらい。
淑女らしくないと思ったけれど、どうしても感謝と喜びを伝えたくて。
たった一人だとしても肯定してくれた彼女がいたから、家族に話してみようと思えたの。
勇気を出して、みんなが揃う日に打ち明けようとしたのに、お爺様とお父様は中々帰っていらしゃらなかった。
夜更けに二人そろって帰ってきたと思ったら追放されたと噂があったマリナ様が戻っていらしたと言う。
双翼が揃ったことは喜ばしいと笑うお母様にお爺様はそんな簡単なことではないのだよと諭していた。
私もよろこばしい事だと思った。ヴォルフ様に近づけない口実が出来たと思って。
彼の事はまた時期をみて説明すればいいと考えた。
それが最大の過ちだったと、今になって思う。
突然流れてきた噂。
双翼の二人が親しい仲になったという噂はすぐに私にも流れてきた。
そしてお爺様にも。
噂を聞いたお爺様は事の真偽どうであれそんな噂が流れた相手と私を結びつけることを良しとはしなかった。
久々にお会いしたときも変わらず微笑んで労ってくださったわ。
そして言ったの、今度はもっと素晴らしい相手を見つけたと。
そのときの絶望はとても表せない。
これまでの言いつけには素直に従ってきた…、でも!
彼女が戻って来なければ、と見当違いの恨みを抱く。
噂が流れなければ、もう少し猶予があれば…!
後悔しても遅い。
フローラまで傷つけてしまった。
私が何も言わなければ…。
彼女も何も知らないままで、あんな悲しそうな瞳をさせることはなかったのに…!
優しいフローラに甘えて、王宮でもマリナ様の前であんな失態を犯してしまったわ。
彼女が寛大に許してくれなかったらフローラにまで迷惑をかけてしまうところだった。
アリッサにも同じ迷惑をかけてしまったわ。
何も悪くない彼女に乱暴を働いて、八つ当たりをした。
許してくれた彼女に感謝しなければいけないのに…!
理不尽な想いが消えない。
私が放った憎まれ口に笑った彼女。
その程度何の障害にもならないというように笑って見せた。
『箱入り』
彼女が言った言葉はまさに私を表していたわ。
望みを抱えながらも何も出来ない私を。
頼りないけど優しいお父様と、世間知らずでのんびりしたお母様に愛されて、幸せじゃないと思ったことなんて一度もなかった。
お爺様やおばあ様は厳しいけれど、間違ったことは言わない。
いつも貴族として正しくあるようにと、道を示してくれた。
だから言いつけられたことには全力で応えようとしたわ。
双翼の騎士と近づきになれと言われた時も黙って頷いた。
吊り合っているとは言えない家柄だけど、自分の能力にも美貌にも自信がある。
きっと振り向かせることができると思っていた。
騎士団にいる従兄弟に会いに行くふりでヴォルフ様に会う機会を狙ったり。
ほぼ早朝にしか現れないというので効果はなかったけれど。
侍女として王宮に勤めて近づいた方が良いのかもしれないとも考えた。
それにはお父様とお母様が反対した。流石に一人娘を手元から離す気にはなれなかったみたい。
出来る限りのことは全部してきた。
なのに一向に目を留めてくださらない。
夜会に出てもヴォルフ様はいなかったり、いても王子の護衛として控えていらっしゃるばかり。
とてもお近づきになれなかったわ。
必要もないのに護衛の方に話しかけたりダンスを申し込んだりするのは非常識なことだもの。
いつもヴォルフ様の一番近くにいるのは双翼の魔術師であるマリナ様。
平民の親に捨てられた子供だという彼女がこの国で二番目に尊いお方の側にいる。
物語みたいね、と最初は気にも留めなかったけれど、段々無視できない存在になっていった。
決して仲が良かったわけではないけれど、彼女がいるだけでヴォルフ様に近づける回数が減ってしまう。
言いつけを果たせないことに焦りながらも打つ手が見つからないでいた頃、二人は突然姿を消した。
噂ではヴォルフ様に危害を加えた彼女が追放されたと言われていたけれど、俄かには信じられず、早朝騎士団を訪ねた。
騎士団の方が訓練をしているのを見てもヴォルフ様は現れなかった。いつも早朝だけは顔を出すと聞いたのに。
自邸や領地に帰って療養をしているのかとも思ったけれど、それらしい話も聞かない。
私はどうしたらいいのかわからなくなってしまって途方に暮れていた。
ただ突然訪ねるのを止めたらおかしく思われるだろうと騎士団通いだけは続けていた。
そんなとき、あの人と会ったの。
騎士らしくない穏やかな目をした人。
訪ねた時に差し入れたお菓子をおいしいと言ってお礼を言ってくれた。
ただそれだけ。
それだけのことに胸がときめいた。
それから騎士団に通う理由が私の中で変わったわ。
行くときには必ず自分で焼いたお菓子を持って、彼の手に渡るように少し多めに作った。
通う頻度が短くなり過ぎないように気を使って、彼が練習所にいる時間を狙って通ったわ。
ヴォルフ様が王宮に帰って来たと聞いてもどうでもよかった。
ただ彼に会うために騎士団に通っていたわ。
そのうち顔を合わせたときには挨拶をするようになった。
彼はお菓子が好きみたいで私が自ら作ったと言ったときには驚いて、今まで食べた中で一番おいしいと言ってくれた。
出会ってから恋に落ちるまで、そう時間はかからなかった。
気が付いたときには私は彼に恋をしていて、彼も私を意識してくれていた。
恋人になるには私にはお爺様に言いつけられた使命があったし、彼は自分に力がないことを気にしていたわ。
同じ子爵家でも家格が高く豊かな家の一人娘の私と、困窮している家の三男坊の自分では釣り合わないと泣いていた。
自分と同じ気持ちだったことがうれしくて、けれど感情のまま胸に飛び込むことが出来なくて私も一緒に泣いた。
好きな人ができたの―――。
フローラ…、フロレンティーナにだけ、そう打ち明けた。
物静かで優しい幼馴染は驚きに目を見張った後、花が綻ぶような笑顔で私を祝福してくれた。
喜んでくれる人なんて誰もいない恋だと思っていたのにフロレンティーナに打ち明けたのは、本当は誰かに良かったねと言ってほしかったから。
彼女なら、責めずに話を聞いてくれると思った。
祝福こそしなくても、恋が破れたときには一緒に泣いてくれるだろうと。
けれど、純粋に喜んでくれた。
うれしくて、子供の頃のように力一杯抱きしめてしまったくらい。
淑女らしくないと思ったけれど、どうしても感謝と喜びを伝えたくて。
たった一人だとしても肯定してくれた彼女がいたから、家族に話してみようと思えたの。
勇気を出して、みんなが揃う日に打ち明けようとしたのに、お爺様とお父様は中々帰っていらしゃらなかった。
夜更けに二人そろって帰ってきたと思ったら追放されたと噂があったマリナ様が戻っていらしたと言う。
双翼が揃ったことは喜ばしいと笑うお母様にお爺様はそんな簡単なことではないのだよと諭していた。
私もよろこばしい事だと思った。ヴォルフ様に近づけない口実が出来たと思って。
彼の事はまた時期をみて説明すればいいと考えた。
それが最大の過ちだったと、今になって思う。
突然流れてきた噂。
双翼の二人が親しい仲になったという噂はすぐに私にも流れてきた。
そしてお爺様にも。
噂を聞いたお爺様は事の真偽どうであれそんな噂が流れた相手と私を結びつけることを良しとはしなかった。
久々にお会いしたときも変わらず微笑んで労ってくださったわ。
そして言ったの、今度はもっと素晴らしい相手を見つけたと。
そのときの絶望はとても表せない。
これまでの言いつけには素直に従ってきた…、でも!
彼女が戻って来なければ、と見当違いの恨みを抱く。
噂が流れなければ、もう少し猶予があれば…!
後悔しても遅い。
フローラまで傷つけてしまった。
私が何も言わなければ…。
彼女も何も知らないままで、あんな悲しそうな瞳をさせることはなかったのに…!
優しいフローラに甘えて、王宮でもマリナ様の前であんな失態を犯してしまったわ。
彼女が寛大に許してくれなかったらフローラにまで迷惑をかけてしまうところだった。
アリッサにも同じ迷惑をかけてしまったわ。
何も悪くない彼女に乱暴を働いて、八つ当たりをした。
許してくれた彼女に感謝しなければいけないのに…!
理不尽な想いが消えない。
私が放った憎まれ口に笑った彼女。
その程度何の障害にもならないというように笑って見せた。
『箱入り』
彼女が言った言葉はまさに私を表していたわ。
望みを抱えながらも何も出来ない私を。
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