双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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セレスタ 帰還編

踊らされる人々 2

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  マリナも可愛いものやきれいなものは好きだ。
  異世界の服は軽くて動きやすいのに可愛くて最高だった。
  色が豊富なのも良い。
  手触りも心地よい物が多かった。
  寝間着として着ていたTシャツと短パンだけでもセレスタに持って来ようかと思ったくらいだ。
  諦めたけど。
  セレスタの衣装は少し重い。
  令嬢たちが着ているドレスもきれいだけど、動き辛そうなので見ているだけでいい。
  たま~にマリナも夜会にドレスで出ないといけないことがある。
  ドレスできれいな動きをするのは結構大変で、終わると気疲れでぐったりする。
  慣れない衣装はホント大変だ。
  今着ているローブも異世界ほど軽い造りではない。
  でも色々と工夫をして以前の物よりは軽くて着心地が良いものになっていた。
  基本的に足を出すような格好は認められていないので多少重いのは仕方がない。
  帰ってきて少し可愛い物不足になったのでローブの裏やシャツの裾など見えないところに刺繍を入れようかと悩んだくらいだ。
  そのうち刺繍をするなら魔法陣を入れたらどうなるかという考察に移ってしまったのがマリナの駄目なところかもしれない。
  三分の一くらいで飽きたし。
  気が向いたときにちょっとずつやればいいと思ってしまい込んだ。
  取り出す頃には新しい図案を試してみたくなる気がする。
  と、黙って考えていたら目の前の令嬢が金切り声をあげた。
 「何黙ってるのよ!」
  青いドレスの令嬢が扇を握りしめて叫び、他の二人もマリナを睨みつけている。
  不思議なことに先頭に立っているのは子爵家の令嬢だった。
  こういう場において先頭に立つのは力を持っている人、もしくは力を持った家の人というのが普通なのに。
 「生意気なのよ!」
  子爵令嬢が叫んで、マリナに向かって一歩踏み出した。
  扇を振り上げて。
 「あなたごときが王子やヴォルフ様の横に立つなんて…!!」
  振り下ろされた扇を躱して手を押さえる。
  こんな直情的なお嬢様も珍しい。
  後ろに控えていた伯爵令嬢と子爵令嬢その2は突然の暴力に顔を青褪めている。
  二人は本当に普通のご令嬢のようで、さっきまで敵意に満ちていた顔には驚きと恐怖だけを乗せている。
  そこまで乱暴なことをするとは思いもしなかったといった様子だ。
 「離しなさい! この無礼者!!」
  令嬢が暴れようとするので掴んでいる手に力を込める。
 「痛っ…!」
  掴まれた手の痛みに令嬢が扇を取り落す。
  床に落ちた扇を踏みつけて・・・・・令嬢の瞳を射抜く。
 「無礼者? 誰に向かって言っているのです」
  冷眼に射抜かれて令嬢が息を呑む。
 「無礼なのは貴女の方でしょう。 王子の双翼に牙を剥いた反逆者さん?」
 「なっ…! 反逆者ですって?!」
  思いもしなかったことを言われて令嬢が目を見開く。
 「ええ、そうですよ? 双翼に危害を加えることは、即ち王子に弓引くことになるのですから」
  わからなかった訳ないでしょう?というように令嬢を見据える。
  口だけなら問題にならなくても実際に手を出したら悪意の形が違ってくる。
  理解できていなかったことは可哀想だけど、黙ってやり過ごすなんてことはしない。
  後ろの二人を見ると蒼白な顔で首を振っている。
  これ以上脅すと攻撃してきた令嬢はともかく、二人は倒れてしまうかもしれない。
  この辺りで止めることにした。
 「失礼しました」
  令嬢の手を解放して軽く頭を下げる。
  手を掴まれていた令嬢は突然の謝罪に頭が付いていかないようで呆然とした顔をしていた。
  自分たちがどうなるかと思っていた令嬢たちも目をぱちくりさせている。
 「大切にしていた扇を踏まれて、少し感情的になってしまっただけですものね?」
  うっすら笑みを浮かべながら足に力を込めた。
  ぱき、という音がして令嬢が落とした扇が折れる。
  そういうことにしてやるから大人しく帰れ、と言外に告げる。
  目の前の子爵令嬢は悔しそうに、後ろの伯爵令嬢ともう一人の子爵令嬢はほっとした顔で一歩下がった。
  道が開いたので扇から足を除けて歩き出す。
  執務室に向かおうと令嬢の前を通り過ぎると、後ろから悔しそうな声が聞こえた。
 「あなたなんて…っ、親もいないくせにっ!」
  悔し紛れの一言に会心の笑みが浮かぶ。
 「それが何だというのです?
  私も、ヴォルフも、自らのことを決める能力がある。
  親に全てを決めてもらわないといけない『箱入り』ではないのですから」
  自分が得たからこそ意味がある。
  片親がいないなど些細なことでしかない。
  マリナは今ある姿に満足していた。
  跳ね返ってきた言葉にショックを受けたように令嬢がふらつく。
  それでも倒れたりせず自分の足で立ち、マリナを強い瞳で見ている。
  その瞳の色にきれいだな、と脈絡もなく思った。 
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