70 / 368
セレスタ 帰還編
波乱の行方 3
しおりを挟む
マリナが飛び出して行った後の部屋で王子が長い溜息を吐いた。
「ヴォルフ、とりあえず座ろうか」
ソファを示されたがヴォルフは断ろうとする。
「いえ、俺はマリナを追いかけようと…」
「今行っても冷静に話など出来ないだろう。 少し頭を冷やす時間をあげなさい」
王子の言うとおり、今は話なんてしてくれないだろう。
涙の滲んだ瞳が頭を過る。
今すぐ追いかけて釈明したい気持ちはあるが、時間を置くべきだという王子の言葉に従った。
「ヴォルフ、何が悪かったかわかっているかい?」
「黙っていたことでしょうか」
王子が手ずから淹れてくれたお茶に口を付ける。
同じ茶葉を使っていても味が違うのは不思議だった。
「それもそうだけどね、君が真実とは違う噂を流したからだよ」
釈然としなくて首を傾げる。
「ヴォルフ…、今更だけどね。
マリナはまだ子供なんだよ?」
もしかして君はわかってないんじゃないかと思って、と王子が言葉を続ける。
「確かに君がした行動は間違ってはいない。
二人の関係を印象付けるには十分な衝撃があっただろう。
君から口付けようとしていたなら、マリナが誘ったと悪意ある噂は流しづらい。
ただね…?」
王子が言葉を切った。
「君たちは他人から見たら恋人でも婚約者でもないからね。
私は内々に聞いているけれど、知らない人間からしたら特別な関係でもない二人が夜に私室で会っていたという中々衝撃の事件だよ。
ましてこれまでの君たちにお互いの部屋に遊びに行くなんて親密さは無かったのだし」
恋人、婚約者なら特別に親密な関係を持ったところでそれほど咎められはしない。
国によっては結婚前のそれを禁忌としているところもあるが、セレスタでは問題にならない。
これはセレスタが特別に魔術に秀でていることが理由の一つだろう。
家の血脈を正確に繋ぐということからすると褒められたことではなさそうに思えるが、そうではない。
真実二人の子供かどうかは調べればわかるからだ。
そういった魔術があるからこそ、婚前交渉もタブーとはされないのだ。もちろん結婚する予定の無い相手との行為は批難されるが。
「私が二人の関係を認めていると言っても、それまでに好き勝手な噂が流れるだろうね。
もちろんそれもマリナはわかっているだろうけれど。
まだ関係の定まっていない相手との噂が流れる、すでに深い仲だとされるような内容で。
それをマリナが恥じないと思うのかい?」
「…」
「本当に関係があったのなら案外平気な顔をしてそうだけどね、あの子は」
王子の言葉が耳に痛い。
「君たちはまだそんな関係ではないでしょう。
それを事実のように噂にされたら恥ずかしいに決まってるじゃないか」
説明されると自分の短慮が身に染みる。
効率の良い方法が正しい方法でないことは知っていたはずなのに。
「じゃあ、マリナは…」
「全部わかっていて怒ってるんだよ」
無神経な君に、と言われてぐうの音も出ない。
「君はもう少しマリナと歳が開いてるんだということを意識したほうがいいよ」
王城の雑多な噂に慣れてるとはいえ、まだ少女の域を出ない子供なんだと強く念押しされる。
「子供だと意識させないように振る舞っているし、実際仕事では子供なんて言えない働きだけどね?」
マリナが何でも出来るから勘違いしてると王子は言う。
「対等に扱うのは仕事の時だけで十分なんじゃないかな?」
諭すような王子の声にうなだれる。
ヴォルフを一通り叱った後、王子は一人で執務を始める。
自分も手伝わなければと思うものの、まだしばらく立ち上がれそうになかった。
「ヴォルフ、とりあえず座ろうか」
ソファを示されたがヴォルフは断ろうとする。
「いえ、俺はマリナを追いかけようと…」
「今行っても冷静に話など出来ないだろう。 少し頭を冷やす時間をあげなさい」
王子の言うとおり、今は話なんてしてくれないだろう。
涙の滲んだ瞳が頭を過る。
今すぐ追いかけて釈明したい気持ちはあるが、時間を置くべきだという王子の言葉に従った。
「ヴォルフ、何が悪かったかわかっているかい?」
「黙っていたことでしょうか」
王子が手ずから淹れてくれたお茶に口を付ける。
同じ茶葉を使っていても味が違うのは不思議だった。
「それもそうだけどね、君が真実とは違う噂を流したからだよ」
釈然としなくて首を傾げる。
「ヴォルフ…、今更だけどね。
マリナはまだ子供なんだよ?」
もしかして君はわかってないんじゃないかと思って、と王子が言葉を続ける。
「確かに君がした行動は間違ってはいない。
二人の関係を印象付けるには十分な衝撃があっただろう。
君から口付けようとしていたなら、マリナが誘ったと悪意ある噂は流しづらい。
ただね…?」
王子が言葉を切った。
「君たちは他人から見たら恋人でも婚約者でもないからね。
私は内々に聞いているけれど、知らない人間からしたら特別な関係でもない二人が夜に私室で会っていたという中々衝撃の事件だよ。
ましてこれまでの君たちにお互いの部屋に遊びに行くなんて親密さは無かったのだし」
恋人、婚約者なら特別に親密な関係を持ったところでそれほど咎められはしない。
国によっては結婚前のそれを禁忌としているところもあるが、セレスタでは問題にならない。
これはセレスタが特別に魔術に秀でていることが理由の一つだろう。
家の血脈を正確に繋ぐということからすると褒められたことではなさそうに思えるが、そうではない。
真実二人の子供かどうかは調べればわかるからだ。
そういった魔術があるからこそ、婚前交渉もタブーとはされないのだ。もちろん結婚する予定の無い相手との行為は批難されるが。
「私が二人の関係を認めていると言っても、それまでに好き勝手な噂が流れるだろうね。
もちろんそれもマリナはわかっているだろうけれど。
まだ関係の定まっていない相手との噂が流れる、すでに深い仲だとされるような内容で。
それをマリナが恥じないと思うのかい?」
「…」
「本当に関係があったのなら案外平気な顔をしてそうだけどね、あの子は」
王子の言葉が耳に痛い。
「君たちはまだそんな関係ではないでしょう。
それを事実のように噂にされたら恥ずかしいに決まってるじゃないか」
説明されると自分の短慮が身に染みる。
効率の良い方法が正しい方法でないことは知っていたはずなのに。
「じゃあ、マリナは…」
「全部わかっていて怒ってるんだよ」
無神経な君に、と言われてぐうの音も出ない。
「君はもう少しマリナと歳が開いてるんだということを意識したほうがいいよ」
王城の雑多な噂に慣れてるとはいえ、まだ少女の域を出ない子供なんだと強く念押しされる。
「子供だと意識させないように振る舞っているし、実際仕事では子供なんて言えない働きだけどね?」
マリナが何でも出来るから勘違いしてると王子は言う。
「対等に扱うのは仕事の時だけで十分なんじゃないかな?」
諭すような王子の声にうなだれる。
ヴォルフを一通り叱った後、王子は一人で執務を始める。
自分も手伝わなければと思うものの、まだしばらく立ち上がれそうになかった。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜で忘れる。
豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」
そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。
黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。
今はお互いに別の方と婚約しています。
「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」
なろう様でも公開中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる