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セレスタ 帰還編

双翼のお仕事 4

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「それで?」
 「中々規模の大きな組織でしたね」
  違うんだ、そういうことを聞いているんじゃないんだ、という目で王子が見てくる。
 「組織は領主の開発していた鉱山を奪っただけで、表層で取れる物だけを売り捌いていたみたいです」
  闇の流通経路で売られる高純度の魔石。
  国家にとっては恐ろしい火種だ。
  領地返納を言い出したのは自分が開発したと気づかれないようにするため。
  返納後に国の調査が入ったら自分は鉱山など知らなかった、組織が勝手にやったことだと言い繕うつもりだったのだろう。
 「あまりに高純度の魔石なので、領主は卸先に困ったようで…」
  一度言葉を切る。
  悲痛な目をしてマリナを見る王子はその言葉の先にも気が付いていた。
  言葉をぼかしても意味がない。
  どう言葉で包もうとも、領主のやったことを隠すことは不可能だ。
 「他国に売り込んだと、そういうことか」
  ヴォルフが台詞の先を言う。
 「ええ」
  一定以上の純度の魔石は国が流れを管理している。
  扱うことは犯罪ではないが、流通量を制限され必要以上に市場に出ないよう調整されていた。
  これには何通りかの意味がある。
  一つは価値が上がり過ぎたり、市場に溢れ値段が下がり過ぎたりするのを避けるため。
  または稀少性を保ち、必要な魔道具に優先的に使用させるため。
  簡単に言うと武器等に転用されないようにするためだ。
  平和な状態を保つための措置とも言う。
 (武器が潤沢にあると、他の国にちょっかいを掛けたくなる人や主家に取って代わりたい人が増えて困るからね)
  セレスタの歴史の中でも何度も危機があり、それを元に現在の法律ができ、魔石の流通制限がされている。
  それを壊すような真似をした領主の行為は、反逆罪とも取れるような危険な行為だった。
 「とはいえ、一昔前とは違いますからね。 極刑は免れると思いますよ?」
  敵国に売ったのならともかく、今のセレスタに明確な敵はいない。
  仮想敵国くらいならあるが。
  そこに販路を求めたのなら…。当事者のみならず親族郎党もまとめて処分されることになっただろう。
  そこまで愚かでなくて何よりだ。
  現状でも十分愚かだけれど。
 「中級か下級くらいの魔石を国内に流すくらいなら罰金で済んだでしょうにね」
  罰金と言っても通常払うはずだった税金の三倍以上になるけれど、再起しようと思えば出来る。
  何代か先になると思うけど。
 「当然領地は没収されますが、平民に落とされるか国外追放かは今後の調べで変わるでしょう」
  マリナの予測に王子がほっと息をつく。
  王子は甘いというか、優しい。
  これが敵国か反国家勢力に魔石を販売していたら領主の処刑は免れない。
  可能性だけで言うなら領主が国に反抗心を持っていて、混乱を招くために魔石をばらまいたとも見える。
  そういう可能性に気づいているのかいないのか領主らの命が保たれたことに安堵しているようだ。
  自信を脅かしたかもしれない人間を慮ることができる、君主としては良いとは言えないかもしれない甘さ優しさが、マリナは嫌いじゃない。
  可能性を元に厳罰を求めることは出来ない。
  証拠のみが罪と罰を決める。
  罪を軽くすることも、必要以上に重くすることも出来ない、それが正しい姿だ。
  主のような甘さが許される、平和なセレスタを守ることがマリナやヴォルフたちの誇りだ。内務卿や他の官僚たちもきっとそう思っているだろう。
 「そうか、ご苦労だったな」
  王子がマリナを労ってくれる。
 「こんなに早いとは思わなかったが…、ちゃんと休んだか?」
 「まあ、多少は」
  休んだと言ったら完全な嘘になるので少しは休んだと答えた。
 「嘘を吐け、お前が出て行ったの昨日の夜だろう。
  夜のうちに向こうに着かなければこんなに早く戻って来れるわけがない。
  ほとんど寝てないだろ!!」
  ヴォルフに怒鳴られた。
 「これくらい平気よ」
  少しは寝たのだから、大して疲れてはいない。
  言い返すと王子も困った子を見るような顔でマリナを諭しにかかった。
 「昨日の今日で解決したのはすごいと思うけれどね? 無理をしなくても出来ただろう?」
 「たまたまタイミングが良かったから一気に片付けただけです」
 「うん、だからね?」
 「休んでから報告に戻ってもよかっただろうが、王都と地方を一日で往復するなんて強行軍にも程がある!」
  二人に責められて顔を顰める。
  確認しなかった私が悪いんだけど、仕方ないじゃないの。
 「休めなかったんだから仕方ないです」
 「いや、向こうに行って宿屋等で休んでから調査を始める方法もあったのではないか?」
  だから、それが…。ああもう、言ってしまうしかないか。
 「私、宿屋の泊まり方知りませんでした」
 「……」
 「……は?」
  飛び出して行ってから気が付いたけれど、宿屋は閉まっている時間だったし、そもそもどうやって利用するのかも知らなかった。
 「向こうに着いたらいきなり怪しくて確信に迫った集団と会ったので、片づければ休む必要ないかと思ったんです」
  本当にとんとん拍子で組織にまで辿りつけたし、領主の方も少し話したらあっさり罪を認めてくれたのでここまで早く戻ってこれたのだ。
  流石にマリナも昨日の今日で解決するとは思っていなかった。
  運が良いとしか言い様がない。
 「……」
  沈黙が痛い。
  ちょっと自分でも迂闊だったと思っているのであんまり追求しないでほしい。
  言葉を待っているとヴォルフの口から息が漏れた。
 「ふ、ふはははっ! 馬鹿だな、お前!!」
 「マリナ、君でもそんなうっかりがあるんだね、ふふっ」
  ヴォルフは大笑いしてるし、王子も珍しく口を開けて笑っている。
  笑われても仕方ない。仕方ないんだけど…。
 「笑いすぎよ!!」
  笑いが止まらない二人に抗議の声を上げる。
  余計に笑いが大きくなって逆効果だった。
  マリナは顔を真っ赤にして怒るけれど、二人は楽しそうに声を上げて、呼吸困難になるまで笑っていた。 
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