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セレスタ 帰還編
双翼(部下)のお仕事
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マリナは今頃何をしているだろうか。
そんなことを考えて執務の手が止まりがちになってしまう。
顔を上げるとヴォルフが私の承認済みの書類を各部署へ返却する手筈を済ませ戻ってきたところだった。
今日はヴォルフはあまり書類に触れていない。
普段ならヴォルフに任せられる書類をマリナが分類して振っているからだ。
私は自分のことで手いっぱいでヴォルフにどういう執務を任せられるかまでは把握していない。
主失格かもしれないが、元々双翼の仕事にこういった事務処理のようなものは入らない。
次期国王の護衛が主たる任務なのだ。
長い歴史の中ではマリナのように事務処理に長けた者もいたのでおかしくはないのだが。
ヴォルフなどはずっと護衛の立場を崩さなかったから、今の状況が不思議でしかたない。
一人で飛び出して行ったマリナが気にかかってしまう。
ヴォルフは何故平然とした顔をしているのだろうか。
「ヴォルフは心配にならないのか?」
「気にならないわけではありませんが、心配はしていません」
そうなのか?危険もあると言っていたのに。
「マリナだけで対処出来ないと判断したらすぐに帰ってくると思います」
つまらない意地を張る奴ではないので、と言う。
「そうかもしれないが不測の事態もあるだろう」
言い募る私にヴォルフが首を傾げる。
「それよりも俺はマリナが王子の側を離れると言ったことに驚いています」
「どういうことだ?」
「マリナがそう言ったわけではありませんが、自分で調べに行ったのは多少側を離れても大丈夫だと思ったからだと…」
「私はそこまで頼りなく見えるのだろうか…?」
今までの行いがあるので仕方がないとはいえ少々自分が情けない。
「いえ! 違います!!」
自虐的に笑ってみるとヴォルフが慌てて否定した。
「そういう意味ではなく、戻っても自分の居場所があると信じているから出かけたのだと思います」
意表を突いた台詞にヴォルフを見つめる。
「俺の想像に過ぎませんが…、今まではあんなこと言わなかったでしょう。
マリナも心境の変化があったんじゃないですか」
言われてみるとあんな軽い調子で出かけてくるなんて言ったことは無いな。
「よくわかったな」
感心するとヴォルフが顔を顰める。
「想像だと言ったでしょう?
何を考えているのかわからない奴が相手なんで、俺も色々と考えるようにしてるんです」
確かに、わかろうとしないとマリナは答えてくれないだろう。
今更だが、マリナはよく付いて来てくれたな。
「出かけると言うからにはここを帰る場所だと認識してくれていると思っていいんだろうな」
マリナは多分どこでもやっていける。
他国でも異世界でも。
そのどこでもなくこの国の私に仕えてくれている。その価値があると思っているから戻ってくれるのだろう。
「マリナが戻ってくるまでこれまで以上に執務を進めて行かないとな」
戻った時に呆れられるような仕事振りでは主人として示しがつかない。
張り切る私とは裏腹にヴォルフは平静な声で呟く。
多分すぐ戻って来ますよ、と。
勘からなのか信頼からなのか、確信している様子のヴォルフに安心した。
自分に最も近しい者たちがこうも信頼し合っているのは頼もしい。
二人に出会えたことが自分の一番の僥倖なのではないかと最近はつくづく思う。
日々が楽しいと思える自分は幸せなのだと改めて実感した。
そんなことを考えて執務の手が止まりがちになってしまう。
顔を上げるとヴォルフが私の承認済みの書類を各部署へ返却する手筈を済ませ戻ってきたところだった。
今日はヴォルフはあまり書類に触れていない。
普段ならヴォルフに任せられる書類をマリナが分類して振っているからだ。
私は自分のことで手いっぱいでヴォルフにどういう執務を任せられるかまでは把握していない。
主失格かもしれないが、元々双翼の仕事にこういった事務処理のようなものは入らない。
次期国王の護衛が主たる任務なのだ。
長い歴史の中ではマリナのように事務処理に長けた者もいたのでおかしくはないのだが。
ヴォルフなどはずっと護衛の立場を崩さなかったから、今の状況が不思議でしかたない。
一人で飛び出して行ったマリナが気にかかってしまう。
ヴォルフは何故平然とした顔をしているのだろうか。
「ヴォルフは心配にならないのか?」
「気にならないわけではありませんが、心配はしていません」
そうなのか?危険もあると言っていたのに。
「マリナだけで対処出来ないと判断したらすぐに帰ってくると思います」
つまらない意地を張る奴ではないので、と言う。
「そうかもしれないが不測の事態もあるだろう」
言い募る私にヴォルフが首を傾げる。
「それよりも俺はマリナが王子の側を離れると言ったことに驚いています」
「どういうことだ?」
「マリナがそう言ったわけではありませんが、自分で調べに行ったのは多少側を離れても大丈夫だと思ったからだと…」
「私はそこまで頼りなく見えるのだろうか…?」
今までの行いがあるので仕方がないとはいえ少々自分が情けない。
「いえ! 違います!!」
自虐的に笑ってみるとヴォルフが慌てて否定した。
「そういう意味ではなく、戻っても自分の居場所があると信じているから出かけたのだと思います」
意表を突いた台詞にヴォルフを見つめる。
「俺の想像に過ぎませんが…、今まではあんなこと言わなかったでしょう。
マリナも心境の変化があったんじゃないですか」
言われてみるとあんな軽い調子で出かけてくるなんて言ったことは無いな。
「よくわかったな」
感心するとヴォルフが顔を顰める。
「想像だと言ったでしょう?
何を考えているのかわからない奴が相手なんで、俺も色々と考えるようにしてるんです」
確かに、わかろうとしないとマリナは答えてくれないだろう。
今更だが、マリナはよく付いて来てくれたな。
「出かけると言うからにはここを帰る場所だと認識してくれていると思っていいんだろうな」
マリナは多分どこでもやっていける。
他国でも異世界でも。
そのどこでもなくこの国の私に仕えてくれている。その価値があると思っているから戻ってくれるのだろう。
「マリナが戻ってくるまでこれまで以上に執務を進めて行かないとな」
戻った時に呆れられるような仕事振りでは主人として示しがつかない。
張り切る私とは裏腹にヴォルフは平静な声で呟く。
多分すぐ戻って来ますよ、と。
勘からなのか信頼からなのか、確信している様子のヴォルフに安心した。
自分に最も近しい者たちがこうも信頼し合っているのは頼もしい。
二人に出会えたことが自分の一番の僥倖なのではないかと最近はつくづく思う。
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