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セレスタ 帰還編
ショッピング 4
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ヴォルフとふたりでふらふら歩く。
美菜さんはまだ戻ってこない。
ふと一軒の店が目に入る。
人波を縫って近づくとそこは時計とアクセサリーを売っているお店だった。
遠目から見た時は時計屋だと思ったんだけど、奥はアクセサリーの方が多く展示されている。
ヴォルフを伴って中に入る。店員はカウンターに控えているだけで近寄っては来ない。
店員と目が合うとにこりと微笑まれる。
ご自由にご覧くださいとだけ言って手元に視線を落としたのは、マリナたちが話しかけられるのをあまり好まないと気が付いているからだろう。
肩に入っていた力を抜いて店内をゆっくりと歩く。
「あ…」
目を引いたのは一組のリング。
シルバーに光る少し幅広のリングはとてもきれいだったけれど、気になったのはそこじゃない。
「これ…」
足を止めてヴォルフを見ると同じリングに目を奪われている。
「ああ」
リングの内側に施された装飾。
嵌めたら見えない位置に刻まれた意匠から目が離せなかった。
「不思議ね」
マリナたちが何よりも大切にしているもの。
その立場を表す紋章とそのリングの意匠はとてもよく似通っていた。
もちろん全く一緒なわけじゃない。
それでも連想させるくらいには似ている。
見つめていると胸の高鳴る音が聞こえた。
これ以外ない、そう言っていた。
「私はこれがいいわ」
マリナが口にするとヴォルフからも柔らかな声が降ってくる。
「ああ、俺もそう思ってる。 これ以外相応しい物がない」
同じ想いだったことがうれしい。
微笑み合って視線を向けると察した店員さんが来てくれる。
「ありがとうございます、こちら今日店頭に並べたばかりの物なんです」
今日…。本当、偶然ってすごい。
「よかった、こんなに理想通りの物を見つけられるなんて運がよかったです」
感情のままに笑みを浮かべると店員さんも同じような笑顔を返してくれる。
「着けて行かれますか?」
「はい!」
会計を済ませると店員さんが指輪を用意してくれる。近くで見るとより輝きがきれいで頬が緩んでしまう。
取ろうと手を伸ばすと、その手をヴォルフに取られる。
「な…」
何?と言おうとしたのに言葉が途中で止まった。
マリナの手を取ったのとは反対の手で小さい方のリングを取る。
マリナが言葉を継ぐより早くヴォルフの手がマリナの指にリングを嵌めた。
何か言おうとして、結局何も言えずに口を閉じる。
満足そうに頷くヴォルフを見て頬にじわじわと熱が溜まっていく。
嵌められたリングはひんやりしていて、自身の存在を教えている。
(自分で嵌めようと思ったのに何で!?)
ヴォルフの手が何か催促するようにマリナの手を引く。
これはマリナにも指輪を嵌めろと言っているんだよね。
マリナの物より一回り大きいリングを手に取る。
手を取れずに逡巡していると、ヴォルフは自分から手を差し出した。
(う…!)
避けられないと悟って指輪を近づけていく。
緊張からか指が震えた。
「…」
自分の指に嵌められた指輪を確かめて満足したように笑う。
一連のやり取りを見ていた店員さんは慣れているのか笑顔を崩さずにマリナたちを見ていた。
恥ずかしすぎる…!
二度と会うことがないから、と自分に言い聞かせて忘れようと努める。
空のケースを受け取って店を後にした。
美菜さんはまだ戻ってこない。
ふと一軒の店が目に入る。
人波を縫って近づくとそこは時計とアクセサリーを売っているお店だった。
遠目から見た時は時計屋だと思ったんだけど、奥はアクセサリーの方が多く展示されている。
ヴォルフを伴って中に入る。店員はカウンターに控えているだけで近寄っては来ない。
店員と目が合うとにこりと微笑まれる。
ご自由にご覧くださいとだけ言って手元に視線を落としたのは、マリナたちが話しかけられるのをあまり好まないと気が付いているからだろう。
肩に入っていた力を抜いて店内をゆっくりと歩く。
「あ…」
目を引いたのは一組のリング。
シルバーに光る少し幅広のリングはとてもきれいだったけれど、気になったのはそこじゃない。
「これ…」
足を止めてヴォルフを見ると同じリングに目を奪われている。
「ああ」
リングの内側に施された装飾。
嵌めたら見えない位置に刻まれた意匠から目が離せなかった。
「不思議ね」
マリナたちが何よりも大切にしているもの。
その立場を表す紋章とそのリングの意匠はとてもよく似通っていた。
もちろん全く一緒なわけじゃない。
それでも連想させるくらいには似ている。
見つめていると胸の高鳴る音が聞こえた。
これ以外ない、そう言っていた。
「私はこれがいいわ」
マリナが口にするとヴォルフからも柔らかな声が降ってくる。
「ああ、俺もそう思ってる。 これ以外相応しい物がない」
同じ想いだったことがうれしい。
微笑み合って視線を向けると察した店員さんが来てくれる。
「ありがとうございます、こちら今日店頭に並べたばかりの物なんです」
今日…。本当、偶然ってすごい。
「よかった、こんなに理想通りの物を見つけられるなんて運がよかったです」
感情のままに笑みを浮かべると店員さんも同じような笑顔を返してくれる。
「着けて行かれますか?」
「はい!」
会計を済ませると店員さんが指輪を用意してくれる。近くで見るとより輝きがきれいで頬が緩んでしまう。
取ろうと手を伸ばすと、その手をヴォルフに取られる。
「な…」
何?と言おうとしたのに言葉が途中で止まった。
マリナの手を取ったのとは反対の手で小さい方のリングを取る。
マリナが言葉を継ぐより早くヴォルフの手がマリナの指にリングを嵌めた。
何か言おうとして、結局何も言えずに口を閉じる。
満足そうに頷くヴォルフを見て頬にじわじわと熱が溜まっていく。
嵌められたリングはひんやりしていて、自身の存在を教えている。
(自分で嵌めようと思ったのに何で!?)
ヴォルフの手が何か催促するようにマリナの手を引く。
これはマリナにも指輪を嵌めろと言っているんだよね。
マリナの物より一回り大きいリングを手に取る。
手を取れずに逡巡していると、ヴォルフは自分から手を差し出した。
(う…!)
避けられないと悟って指輪を近づけていく。
緊張からか指が震えた。
「…」
自分の指に嵌められた指輪を確かめて満足したように笑う。
一連のやり取りを見ていた店員さんは慣れているのか笑顔を崩さずにマリナたちを見ていた。
恥ずかしすぎる…!
二度と会うことがないから、と自分に言い聞かせて忘れようと努める。
空のケースを受け取って店を後にした。
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