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セレスタ 帰還編
ショッピング 2
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「しかしすごいな」
「そうねえ」
ショッピングモールの中を進むと照明が暗くなり夜の街のような雰囲気になった。
高い天井には空の絵、そこから続く壁には街灯や店舗の絵が描かれている。
さながら異空間にできた小さな町といった感じか。
建物の中に街を造るというのは変わった発想だ。
ヴォルフは何の為にこんなものを作ったのかと不思議そうだが、多分機能上の理由はないと思う。
「違う街に来たみたいで面白いんじゃないの?」
「なるほどな。 通りで写真を撮っている人間が多いことだ」
吹き抜けになった広場では巨大な噴水を携帯に付いたカメラで撮っている人が何人かいた。
3階部分に届こうかという噴水は本当に水が出ている。
その威容にマリナも感嘆の溜息を吐く。
「すごいわねえ」
王宮の噴水がこうなったらと想像する。
「王宮の噴水をこのくらいの大きさに変えるなら場所も変えないとだめよね」
想像をそのまま口にするとヴォルフが呆れた声で返す。
「なんでそういう発想になる」
「え、これが王宮の前にあったら格好いいと思う」
他国の使者が来たときに技術力の高さを見せるという意味ですばらしい。
実際に提言するかどうかはさておき。
「変えるより、新しく作った方がいいかな」
今の噴水がなくなったら残念がる人も多いだろうから。
騎士団の稽古場に近い噴水は王宮で働く者たちの憩いの場、兼出会いの場として人気があった。
騎士に憧れる侍女が涼を取るふりで立ち寄り、その侍女を目当てに若い官吏が集うなどと色々な交流が盛んな場所だ。
ヴォルフも一応そのことは知っていたみたいで恨まれるから止めておけと言う。
ただの思いつきなのでかまわないけれど。
それよりも作りたいものがあるし。
「お前何しに来たか忘れてないだろうな?」
「当たり前でしょ」
当然だ。いくらなんでも本題を忘れるわけがない。
マリナだって楽しみにしていたんだから。
「忘れてないけどこの世界はおもしろい物が多いんだもの」
つい目移りしてしまうのはしかたないと思う。
「それに地図見てもよくわからないし」
いたるところに地図があるけれど店の名前を見てもマリナたちにはどんなお店なのかわからない。
雑貨とかファッションとか書いてある情報だけで判断するしかないけれど、店が多すぎてあちこち歩き回ることになる。
どうせわからないなら適当に歩きながら気になった店に入ればいいと思ってマリナは歩いている。
ヴォルフはまっすぐ目的地に行きたいのかもしれない。案内所で聞くのは面倒なんだけど。
というか、ペアリングを買いたいからお店教えてくださいなんて言えるわけがない。恥ずかしすぎる。
そうしてふらふら歩いていると突然叫声が聞こえた。
「マリナちゃん!」
久しぶり!と駆け寄って来た美奈さんに抱きつかれた。
予期せぬ再会とスキンシップに慌てる。
「美菜さん、お久しぶりです!」
こんなところで会えるとは思わなかった。とてもうれしい。
「元気してた? なんて聞くまでもないね。 マリナちゃん良い顔してるもの!」
「そうですか?」
自分ではわからない。顔をむにむに触っていると美奈さんの顔が後ろにいたヴォルフに向いた。
「はっ! もしかして、噂の彼氏…!?」
「えっと、なんていうか…?」
彼氏?とは違う気がする。いや、間違ってはないんだけどそう言われると違和感がある。
ぴったり合う言葉を探しているとヴォルフが爆弾を落とした。
「婚約者だ」
「え?」
「ええーーー!?」
思わず聞き返したマリナの声を美菜さんの叫び声が掻き消す。
「美菜さん、声が大きいです!」
あまりの声の大きさに結構な人数がマリナたちを見ていた。
「え、だって驚くよ!」
口の前に指を立てて注意するマリナを驚きと興奮が合わさった顔で見返す。
「婚約者!? 恋人じゃなくて!?」
「婚約者…」
確かに結婚してくれと言われた。マリナもそれを了承した。間違っていない。
首を捻っているとヴォルフから不満そうな声が飛んでくる。
「考えるな、そうだろうが」
そうなんだけど、そう紹介されるとなんか違和感があるというか。
通常紹介されるときは双翼としてのみだったから、婚約者として紹介されるのは…、じわじわ恥ずかしい。
ふいっと横を向いて赤くなった顔を隠そうとする。
隠しきれなかった表情を見たヴォルフが嬉しそうに笑う。
そんな顔しないでほしい。どうしていいのかわからなくなる。
「うわあ、歳の差だよね」
確かに子供と大人というくらいには開いている。
マリナには自分が幼く見える自覚があった。
別に気にはしていないけれど。
曖昧に笑う。美菜さんの顔には好奇心が隠すことなく現れている。
「え、どこで出会ったの!?」
どこで…?
「子供の頃、連れられて行った保護者の仕事場で出会って…」
「幼馴染フラグ?!」
「いえ、幼馴染とは言わないと思います。 昔からの知り合いではありますけれど」
幼馴染というには歳が開き過ぎていると思う。…旗?
「その内仕事を手伝うようになって…?」
こちらの世界で違和感がないように言い替えて話す。
「オフィスラブまで…!?」
美菜さんが悲鳴のような声を上げる。
お願いだからもう少し声を抑えてほしい。
『マリナちゃん、属性が多すぎるわ』と謎の呟きが聞こえてきた。
美菜さんが何に興奮しているのかわからない。
困ってヴォルフを見上げるとヴォルフも何を言っていいのかわからないような顔をしていた。
「そうねえ」
ショッピングモールの中を進むと照明が暗くなり夜の街のような雰囲気になった。
高い天井には空の絵、そこから続く壁には街灯や店舗の絵が描かれている。
さながら異空間にできた小さな町といった感じか。
建物の中に街を造るというのは変わった発想だ。
ヴォルフは何の為にこんなものを作ったのかと不思議そうだが、多分機能上の理由はないと思う。
「違う街に来たみたいで面白いんじゃないの?」
「なるほどな。 通りで写真を撮っている人間が多いことだ」
吹き抜けになった広場では巨大な噴水を携帯に付いたカメラで撮っている人が何人かいた。
3階部分に届こうかという噴水は本当に水が出ている。
その威容にマリナも感嘆の溜息を吐く。
「すごいわねえ」
王宮の噴水がこうなったらと想像する。
「王宮の噴水をこのくらいの大きさに変えるなら場所も変えないとだめよね」
想像をそのまま口にするとヴォルフが呆れた声で返す。
「なんでそういう発想になる」
「え、これが王宮の前にあったら格好いいと思う」
他国の使者が来たときに技術力の高さを見せるという意味ですばらしい。
実際に提言するかどうかはさておき。
「変えるより、新しく作った方がいいかな」
今の噴水がなくなったら残念がる人も多いだろうから。
騎士団の稽古場に近い噴水は王宮で働く者たちの憩いの場、兼出会いの場として人気があった。
騎士に憧れる侍女が涼を取るふりで立ち寄り、その侍女を目当てに若い官吏が集うなどと色々な交流が盛んな場所だ。
ヴォルフも一応そのことは知っていたみたいで恨まれるから止めておけと言う。
ただの思いつきなのでかまわないけれど。
それよりも作りたいものがあるし。
「お前何しに来たか忘れてないだろうな?」
「当たり前でしょ」
当然だ。いくらなんでも本題を忘れるわけがない。
マリナだって楽しみにしていたんだから。
「忘れてないけどこの世界はおもしろい物が多いんだもの」
つい目移りしてしまうのはしかたないと思う。
「それに地図見てもよくわからないし」
いたるところに地図があるけれど店の名前を見てもマリナたちにはどんなお店なのかわからない。
雑貨とかファッションとか書いてある情報だけで判断するしかないけれど、店が多すぎてあちこち歩き回ることになる。
どうせわからないなら適当に歩きながら気になった店に入ればいいと思ってマリナは歩いている。
ヴォルフはまっすぐ目的地に行きたいのかもしれない。案内所で聞くのは面倒なんだけど。
というか、ペアリングを買いたいからお店教えてくださいなんて言えるわけがない。恥ずかしすぎる。
そうしてふらふら歩いていると突然叫声が聞こえた。
「マリナちゃん!」
久しぶり!と駆け寄って来た美奈さんに抱きつかれた。
予期せぬ再会とスキンシップに慌てる。
「美菜さん、お久しぶりです!」
こんなところで会えるとは思わなかった。とてもうれしい。
「元気してた? なんて聞くまでもないね。 マリナちゃん良い顔してるもの!」
「そうですか?」
自分ではわからない。顔をむにむに触っていると美奈さんの顔が後ろにいたヴォルフに向いた。
「はっ! もしかして、噂の彼氏…!?」
「えっと、なんていうか…?」
彼氏?とは違う気がする。いや、間違ってはないんだけどそう言われると違和感がある。
ぴったり合う言葉を探しているとヴォルフが爆弾を落とした。
「婚約者だ」
「え?」
「ええーーー!?」
思わず聞き返したマリナの声を美菜さんの叫び声が掻き消す。
「美菜さん、声が大きいです!」
あまりの声の大きさに結構な人数がマリナたちを見ていた。
「え、だって驚くよ!」
口の前に指を立てて注意するマリナを驚きと興奮が合わさった顔で見返す。
「婚約者!? 恋人じゃなくて!?」
「婚約者…」
確かに結婚してくれと言われた。マリナもそれを了承した。間違っていない。
首を捻っているとヴォルフから不満そうな声が飛んでくる。
「考えるな、そうだろうが」
そうなんだけど、そう紹介されるとなんか違和感があるというか。
通常紹介されるときは双翼としてのみだったから、婚約者として紹介されるのは…、じわじわ恥ずかしい。
ふいっと横を向いて赤くなった顔を隠そうとする。
隠しきれなかった表情を見たヴォルフが嬉しそうに笑う。
そんな顔しないでほしい。どうしていいのかわからなくなる。
「うわあ、歳の差だよね」
確かに子供と大人というくらいには開いている。
マリナには自分が幼く見える自覚があった。
別に気にはしていないけれど。
曖昧に笑う。美菜さんの顔には好奇心が隠すことなく現れている。
「え、どこで出会ったの!?」
どこで…?
「子供の頃、連れられて行った保護者の仕事場で出会って…」
「幼馴染フラグ?!」
「いえ、幼馴染とは言わないと思います。 昔からの知り合いではありますけれど」
幼馴染というには歳が開き過ぎていると思う。…旗?
「その内仕事を手伝うようになって…?」
こちらの世界で違和感がないように言い替えて話す。
「オフィスラブまで…!?」
美菜さんが悲鳴のような声を上げる。
お願いだからもう少し声を抑えてほしい。
『マリナちゃん、属性が多すぎるわ』と謎の呟きが聞こえてきた。
美菜さんが何に興奮しているのかわからない。
困ってヴォルフを見上げるとヴォルフも何を言っていいのかわからないような顔をしていた。
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