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セレスタ 帰還編
執務室 2
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翌日、執務室にあった書類はかなり数を減らした。
王子に頼られた内務卿がその日のうちに人を寄越してくれたのだ。
昨日はその人も一緒にこの執務室で書類を処理していたのだけれど何故か居心地が悪かったらしく、書類を内務省に持って行って必要な物だけ王子の下へ返却する方法にすると言っていた。
彼には悪いけれど部外者がいない方が助かる。
あの日の約束どおりヴォルフには執務の仕方を少しずつ学んでもらう。ただあまりに知らないことが多いと外聞が悪いので出来るだけ内密に行うつもりだった。
そうは言ってもずっと王子の執務を見て来たので今のところ特に困ったことにはなっていない。
それほど難しい書類は渡していないのもあるけど。
朝の内は謁見室で王子の護衛をするのが一番重要な仕事なのでマリナもヴォルフも王子の側に控えていた。
久々の空気を懐かしみながら貴族たちから鋭い視線を受け流し敵意のありそうな人間を記憶する。
何人かは王子に双翼が戻ったことの祝いを述べながらマリナに強い視線を向けていた。
歓迎しているのか忌避しているのかどっちかはっきりしろと言いたくなるが、王子に面と向かって文句を言う人間はいないだろう。
意外にも純粋に喜んでいるように見える人間もそこそこの数いた。
思惑を予想しながら書類を捲る。
午後はひたすら溜まった書類を片す作業に追われる。合間にヴォルフに事務処理の基本を教えながら。
その両方をマリナは急いで進めていた。
何しろこれが落ち着かないと休みが取れない。
買い物に行こうとした約束も当分は叶えられなさそうなので仕方なしに仕事に没頭していた。
ヴォルフもそれがわかっていて文句は言わない。
「マリナ、少し休め」
ヴォルフの声に顔を上げると日が傾き始めていた。
執務室の中も暗くなりつつある。
上を向いてふっと息を吐くと強張った身体がわずかに疲れを訴えていた。
「ありがとう。 王子もお茶を入れますので休憩にしましょうか」
「ああ、ありがとうマリナ」
お茶を入れるとヴォルフがカップをテーブルに持って行ってくれる。
礼を言って茶器を片付けるマリナに王子がうれしそうに声をかけた。
「二人とも向こうで上手くやっていたようだな」
前よりも関係が良くなっているようで主としてうれしいと屈託のない顔で笑う。
「そうですね、こっちで過ごした6年間よりも多くのことを話した気がします」
「そうか、二人の関係が良いものになって行くことを願っているよ」
(ん…?)
王子の言葉にわずかな違和感を感じているとヴォルフが今思い出したみたいに告げた。
「そういえば王子、マリナと結婚することになりました」
「え!?」
「ちょっと!」
突然の報告に王子は口を開けたまま固まる。
「もっと言い方ってもんがあるでしょうが!」
「間違ったことは言っていないだろう」
「間違ってなきゃいいって訳じゃないのよ!」
王子が固まらない言い方があったと思う。
ヴォルフとマリナが言い合っていると王子が回復した。
「ちょ、ちょっと待った、二人とも」
「「はい」」
「もう一回、誤解のないようにはっきりと言ってくれるかな」
「はい、俺とマリナは将来結婚することを誓い合いました」
本当に誤解のしようのない、ついでに情緒もない言い方でヴォルフが答える。
王子の目が本当かとマリナを見た。
溜息を吐きたいのを堪えて口を開く。
「ヴォルフの言う通りです。 結婚を申し込まれ、それを了承しました」
「いつ?」
「ヴォルフが異世界まで迎えに来たときですね」
再度衝撃を受けたのか王子がまた止まった。
中々動かないのでとりあえず食べましょうと焼き菓子を差し出す。
無言でお茶を飲み、菓子を頬張る王子。
頭の中で得た情報を必死で処理しているようだ。
横に座ったヴォルフを見て溜息を吐く。
もっと驚かさない報告の仕方だってあったのになんでこうなるのか。
テーブルに目を落としたまま黙って手と口を動かしている王子を見ながらマリナも菓子を口に入れた。
日が落ち切ろうとしたころようやく王子が顔を上げた。
「すまない、衝撃が強すぎて反応が出来なかった」
「いえ、王子の衝撃は当然のことと思います」
素直に謝るしかないと思っていると王子がにっこりと笑う。
「驚いたけれど、良いことだと思う。 二人がより強く結ばれれば我らの関係も盤石だと多くの者が知るだろう」
食べながらそんなことを考えていたのかと感心するとまだ続きがあった。
「何よりも一番近しい二人が幸せになってくれるのがうれしいのだ」
心よりの笑みを見せられてマリナにも喜びが広がっていく。
「ありがとうございます」
祝福は与える人にも貰う者にも幸せを運ぶものだと初めて知った。
王子に頼られた内務卿がその日のうちに人を寄越してくれたのだ。
昨日はその人も一緒にこの執務室で書類を処理していたのだけれど何故か居心地が悪かったらしく、書類を内務省に持って行って必要な物だけ王子の下へ返却する方法にすると言っていた。
彼には悪いけれど部外者がいない方が助かる。
あの日の約束どおりヴォルフには執務の仕方を少しずつ学んでもらう。ただあまりに知らないことが多いと外聞が悪いので出来るだけ内密に行うつもりだった。
そうは言ってもずっと王子の執務を見て来たので今のところ特に困ったことにはなっていない。
それほど難しい書類は渡していないのもあるけど。
朝の内は謁見室で王子の護衛をするのが一番重要な仕事なのでマリナもヴォルフも王子の側に控えていた。
久々の空気を懐かしみながら貴族たちから鋭い視線を受け流し敵意のありそうな人間を記憶する。
何人かは王子に双翼が戻ったことの祝いを述べながらマリナに強い視線を向けていた。
歓迎しているのか忌避しているのかどっちかはっきりしろと言いたくなるが、王子に面と向かって文句を言う人間はいないだろう。
意外にも純粋に喜んでいるように見える人間もそこそこの数いた。
思惑を予想しながら書類を捲る。
午後はひたすら溜まった書類を片す作業に追われる。合間にヴォルフに事務処理の基本を教えながら。
その両方をマリナは急いで進めていた。
何しろこれが落ち着かないと休みが取れない。
買い物に行こうとした約束も当分は叶えられなさそうなので仕方なしに仕事に没頭していた。
ヴォルフもそれがわかっていて文句は言わない。
「マリナ、少し休め」
ヴォルフの声に顔を上げると日が傾き始めていた。
執務室の中も暗くなりつつある。
上を向いてふっと息を吐くと強張った身体がわずかに疲れを訴えていた。
「ありがとう。 王子もお茶を入れますので休憩にしましょうか」
「ああ、ありがとうマリナ」
お茶を入れるとヴォルフがカップをテーブルに持って行ってくれる。
礼を言って茶器を片付けるマリナに王子がうれしそうに声をかけた。
「二人とも向こうで上手くやっていたようだな」
前よりも関係が良くなっているようで主としてうれしいと屈託のない顔で笑う。
「そうですね、こっちで過ごした6年間よりも多くのことを話した気がします」
「そうか、二人の関係が良いものになって行くことを願っているよ」
(ん…?)
王子の言葉にわずかな違和感を感じているとヴォルフが今思い出したみたいに告げた。
「そういえば王子、マリナと結婚することになりました」
「え!?」
「ちょっと!」
突然の報告に王子は口を開けたまま固まる。
「もっと言い方ってもんがあるでしょうが!」
「間違ったことは言っていないだろう」
「間違ってなきゃいいって訳じゃないのよ!」
王子が固まらない言い方があったと思う。
ヴォルフとマリナが言い合っていると王子が回復した。
「ちょ、ちょっと待った、二人とも」
「「はい」」
「もう一回、誤解のないようにはっきりと言ってくれるかな」
「はい、俺とマリナは将来結婚することを誓い合いました」
本当に誤解のしようのない、ついでに情緒もない言い方でヴォルフが答える。
王子の目が本当かとマリナを見た。
溜息を吐きたいのを堪えて口を開く。
「ヴォルフの言う通りです。 結婚を申し込まれ、それを了承しました」
「いつ?」
「ヴォルフが異世界まで迎えに来たときですね」
再度衝撃を受けたのか王子がまた止まった。
中々動かないのでとりあえず食べましょうと焼き菓子を差し出す。
無言でお茶を飲み、菓子を頬張る王子。
頭の中で得た情報を必死で処理しているようだ。
横に座ったヴォルフを見て溜息を吐く。
もっと驚かさない報告の仕方だってあったのになんでこうなるのか。
テーブルに目を落としたまま黙って手と口を動かしている王子を見ながらマリナも菓子を口に入れた。
日が落ち切ろうとしたころようやく王子が顔を上げた。
「すまない、衝撃が強すぎて反応が出来なかった」
「いえ、王子の衝撃は当然のことと思います」
素直に謝るしかないと思っていると王子がにっこりと笑う。
「驚いたけれど、良いことだと思う。 二人がより強く結ばれれば我らの関係も盤石だと多くの者が知るだろう」
食べながらそんなことを考えていたのかと感心するとまだ続きがあった。
「何よりも一番近しい二人が幸せになってくれるのがうれしいのだ」
心よりの笑みを見せられてマリナにも喜びが広がっていく。
「ありがとうございます」
祝福は与える人にも貰う者にも幸せを運ぶものだと初めて知った。
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