双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

文字の大きさ
上 下
34 / 368
異世界<日本>編

マリナの過去

しおりを挟む
 身体を休めるように言われてはいたが、じっとはしていられなかった。
  王子の言葉にも気になることがある。
 『無関心』
  マリナの言葉を思い出す。自分がまだ知らないマリナが、この世界にもいるはずだ。帰らない理由を知らないとアイツは戻ってこない気がした。
  まずはマリナを一番よく知っている人物に会うことにした。彼のいる場所へ向かっていると柱の陰に少女が二人隠れているのが見える。
  ヴォルフが来るのを待っていたのか、目が合うと顔を見合わせ柱の陰から出てきた。
 「あのっ! ヴォルフ様、お時間よろしいですか?」
  正直邪魔だったが無視するわけにもいかないので足を止めて少女たちを見下ろす。見たことがあるような気もするが、よく思い出せない。
 「お久しぶりです。 お体は大丈夫ですか?魔女に邪悪な術をかけられたと聞きましたの」
  邪悪だとは比喩表現なんだろう。実際に何て術を使ったんだとも思ったが、他人に言われると不快感が大きかった。もう一つの単語も引っかかる。
 「魔女?」
 「ええ、片翼を名乗っていたあの魔女ですわ。
  ヴォルフ様の件で王子の怒りに触れ、何処かに追放されたと伺いました」
  魔女、などという蔑称を聞いたことはなかった。…はずだ。いくら以前の自分が周りに無関心だったとはいえ、不快な話まで忘れはしないだろう。
 「今までが異常だったのです。 何処の馬の骨ともしれない女を双翼として召し抱えるなんて、前例もありませんし、英明な王子のただ一つの過ちと噂でしたのよ」
 「この度のことで王子も魔女の本性に気が付かれたようでよかったですわ。 もしかしたら聡明な王子のこと、本性を見抜き追い払う機会を狙っていたのかもしれませんわね」
 「全く。 ただの平民ごときが選ばれるだけでも起こりえないことなのに、学び舎すら通ったことのない娘ですもの。 王子の英断には私どもの父も感嘆していましたわ」
 「学び舎に通ったことがない? 初等科にも…?」
  そういえば学校に行ったことがないと言っていた。初等教育は義務だ。それすら受けられない環境にいたということか?
 「まあ! ヴォルフ様はご存じなかったのですか?」
 「そういえばヴォルフ様は魔女と慣れ合おうとはしなかったのですものね。
  王子を守るために魔女に心を許そうとしなかった高潔さは私たちの間でも話題になっています!」
  現状に合わない話に目が鋭くなっていく。
  信頼関係がないように思われていたのか。聞けば聞くほど不快になる内容に少女たちを睨みつける。ヴォルフの視線にびくりとして怯えたように体を縮こませる。
  憤りを理性で抑えて少女たちから離れる。詰問してしまいそうな状態で話を聞くには少女たちは向かない相手だ。
  通りがかる官僚や兵士を片っ端から呼び止めて話を聞く。
  聞ける話はどれも同じだった。『魔女』『平民』『捨てられた娘』など、腹立たしくて仕方がない。何故今までこれが耳に入らなかったのか。自分に腹が立つ。
  王子も言っていた。居心地が悪いのはわかっている、と。つまり今までもああいった言葉はヴォルフの周りで飛び交っていたはずだ。
 (俺は、今まで何をやっていたんだ…!)
  話を聞いた中にはマリナに同情的な者もいて、詳しい生い立ちを語ってくれた。
  父親が養育を放棄し、初等科にも通えず町から見捨てられていた子供を城の医務官が引き取って養育したこと。
  その才が認められ双翼候補に挙がったが、古い貴族を中心に今も存在を疎む者がいることなど。
  王宮にいる誰もがマリナの存在を意識していた、そう感じさせられるほどに誰もがマリナを知っている。
  少し耳を澄ましただけでこれだけの話が聞こえてくる。本当に知らなかったのは自分だけだ。
 (マリナが怒るのも当たり前だ)
  どれだけ詰られても足りない。どんな思いで『もういい』と言っていたのか。
  今まで自分が付けた傷も、周りに付けられた傷も、一度として見せたことがない。
  最も近しいはずの片翼に頼らずに、一人で耐えた。
  まだ十かそこらの子供にそんな決断をさせていた。不甲斐ない自分を心から呪う。
 「マリナ…」
  もう一度会いたい、会わなければならない。文句でも恨み言でも、何でもいいから聞かせてほしい。
  このまま分かたれたままにはしておけなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

人体実験サークル

狼姿の化猫ゆっと
恋愛
人間に対する興味や好奇心が強い人達、ようこそ。ここは『人体実験サークル』です。お互いに実験し合って自由に過ごしましょう。 《注意事項》 ・同意無しで相手の心身を傷つけてはならない ・散らかしたり汚したら片付けと掃除をする [SM要素満載となっております。閲覧にはご注意ください。SとMであり、男と女ではありません。TL・BL・GL関係なしです。 ストーリー編以外はM視点とS視点の両方を載せています。 プロローグ以外はほぼフィクションです。あとがきもお楽しみください。]

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...