双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

文字の大きさ
上 下
30 / 368
異世界<日本>編

別れの前に

しおりを挟む
 その日一日は殆ど上の空だった。
  決心が着いたというのに先延ばしするように外出したのは優柔不断なせいだろう。
  これが最後だからと自分に言い訳して、ずるずると別れを引き延ばしている。
  境内にある池の周囲には色取り取りの花が咲いている。前に来たときにつぼみだった花も、花びらの淵から枯れてきていて、時間の流れを感じさせた。
  今の盛りは池の上に組まれた木から下がる藤の花だ。蔓も花も面白い形をしている。
  手すりにもたれてぼんやりと紫の花弁を見ていると、すぐそばから声が掛けられた。
 「今日は元気がありませんね」
 「斎藤さん…」
  傍から見てもそう見えてしまうのか。
 「どうしました?」
  斎藤さんは少し離れたところでマリナと同じように池に視線をやる。
  視線を合わせないようにしたのは話しやすいようにとの配慮なのだろう。
  マリナはヴォルフの方をちらりと見て事情を話す。
 「実は、そろそろヴォルフを主の下に帰そうと思っているんです」
  驚いたようにマリナの方を向く。斎藤さんはヴォルフのことを気に入っていたから残念なのかもしれない。
 「最初から決まっていたんですけど、淋しくなってしまって…」
  境内を歩くヴォルフはいつもと変わらない。何も知らないのだから変わりようもないけれど。
 「そうですか、ヴォルフ君が…。 淋しくなりますねぇ」
  本当に残念そうだ。考えてみればヴォルフが交流していたこっちの世界の人間は斎藤さんだけだ。ここに来たのは気まぐれだったけど良かったのかもしれない。
 「マリナさんはヴォルフ君とは長い付き合いのようですから、特に淋しいでしょう?」
 「そうですね…。 仕方ないですけど」
  帰るのは決まっていることだから。
 「マリナさん、ヴォルフ君が帰ってもまた来てくださいね」
 「え?」
 「淋しいからって閉じこもっているのはあまりよくないことですよ? 気が向いたときに顔を見せに来てください」
  心配されてる、のかな?
  取りあえず大丈夫だと答えておいた。そこまで落ち込んだりはしないと思う。きっと。
  自分にも大丈夫だと言い聞かせる。
  ヴォルフがいなくても、大丈夫。一人でも、大丈夫だから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...