27 / 368
異世界<日本>編
焼き鳥
しおりを挟む
「マリナちゃん、これ持って行きな」
まかないを食べなくなったマリナにマスターが渡してくれたのはパックに入った焼き鳥だった。
「ありがとうございます! どうしたんですか、これ?」
この店は喫茶店なので焼き鳥はメニューにない。
「いやぁ、奥さんが買いすぎちゃってね」
話をよく聞くと久しぶりに実家に帰ると言っていた息子さんたちの為にいっぱい買ってきたのに急に予定が変わって帰れなくなったのだという。
「それは残念ですね」
渡されたパックは優に3パックはある。マリナに渡した分だけでこれほどあるのだから、余程奥さんは楽しみにして準備していたんだなというのが伝わる。
美菜さんも同じだけ貰ってたから相当な量だったはずだ。
(しかしこれそのままヴォルフに出したら喉につっかえないかな)
結構器用だから自分で串を抑えて食べるかもしれない。
ちょっと見てみたい気がしたけれど、食べづらそうなので串を外して皿で出そう。
もう一度お礼を言って店を出る。
歩いているとヴォルフが顔を見せた。近くで待っていたらしい。
マリナの下げた袋が気になるらしく鼻を寄せてにおいを確かめる。
「何だこれは?」
「焼き鳥もらった」
そう言って袋の中身を見せる。さらに強くなった香りに尻尾が激しく動く。
「うまそうだな」
焼き鳥は食べたことないらしいけれど名前だけで想像がつくのでヴォルフはとてもうれしそうだった。
「楽しみね」
お腹が空いたところにたれの匂いがしてお腹が鳴りそう。
焼き鳥だけってわけにもいかないのでスーパーで何か買っていかないと足りない。
サラダと、何にしようかな。悩む。
食材も惣菜も種類が多すぎるのだ。
小さな頃のマリナがここを見たら、まず間違いなく平民は入れない特別高級な店だと思うだろう。
「ヴォルフは何食べたい?」
焼き鳥のおかげで作る品数が少ないので珍しく希望を聞く。
「おにぎりというやつが食べたいな、中にから揚げが入ってるやつ」
それ、このスーパーじゃ売ってないな。コンビニに行くか。
ヴォルフの意見で行先を変更してコンビニへ向かう。
せっかくなのでサラダもコンビニで買うかな。
こうしているのが信じられないくらい平穏な日。
小さなことが幸せに感じられて胸が締め付けられる。
ちくりと胸を刺すのは隠した恋心か、それとも浅ましい願いか。
揺れそうになる心を秘め、目を閉じる。
(ごめん…)
一緒にいたいなんて願うのは間違っている。わかっているのに。
前を行くヴォルフを追いながらそっと息を吐いた。
まかないを食べなくなったマリナにマスターが渡してくれたのはパックに入った焼き鳥だった。
「ありがとうございます! どうしたんですか、これ?」
この店は喫茶店なので焼き鳥はメニューにない。
「いやぁ、奥さんが買いすぎちゃってね」
話をよく聞くと久しぶりに実家に帰ると言っていた息子さんたちの為にいっぱい買ってきたのに急に予定が変わって帰れなくなったのだという。
「それは残念ですね」
渡されたパックは優に3パックはある。マリナに渡した分だけでこれほどあるのだから、余程奥さんは楽しみにして準備していたんだなというのが伝わる。
美菜さんも同じだけ貰ってたから相当な量だったはずだ。
(しかしこれそのままヴォルフに出したら喉につっかえないかな)
結構器用だから自分で串を抑えて食べるかもしれない。
ちょっと見てみたい気がしたけれど、食べづらそうなので串を外して皿で出そう。
もう一度お礼を言って店を出る。
歩いているとヴォルフが顔を見せた。近くで待っていたらしい。
マリナの下げた袋が気になるらしく鼻を寄せてにおいを確かめる。
「何だこれは?」
「焼き鳥もらった」
そう言って袋の中身を見せる。さらに強くなった香りに尻尾が激しく動く。
「うまそうだな」
焼き鳥は食べたことないらしいけれど名前だけで想像がつくのでヴォルフはとてもうれしそうだった。
「楽しみね」
お腹が空いたところにたれの匂いがしてお腹が鳴りそう。
焼き鳥だけってわけにもいかないのでスーパーで何か買っていかないと足りない。
サラダと、何にしようかな。悩む。
食材も惣菜も種類が多すぎるのだ。
小さな頃のマリナがここを見たら、まず間違いなく平民は入れない特別高級な店だと思うだろう。
「ヴォルフは何食べたい?」
焼き鳥のおかげで作る品数が少ないので珍しく希望を聞く。
「おにぎりというやつが食べたいな、中にから揚げが入ってるやつ」
それ、このスーパーじゃ売ってないな。コンビニに行くか。
ヴォルフの意見で行先を変更してコンビニへ向かう。
せっかくなのでサラダもコンビニで買うかな。
こうしているのが信じられないくらい平穏な日。
小さなことが幸せに感じられて胸が締め付けられる。
ちくりと胸を刺すのは隠した恋心か、それとも浅ましい願いか。
揺れそうになる心を秘め、目を閉じる。
(ごめん…)
一緒にいたいなんて願うのは間違っている。わかっているのに。
前を行くヴォルフを追いながらそっと息を吐いた。
0
お気に入りに追加
247
あなたにおすすめの小説

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
人体実験サークル
狼姿の化猫ゆっと
恋愛
人間に対する興味や好奇心が強い人達、ようこそ。ここは『人体実験サークル』です。お互いに実験し合って自由に過ごしましょう。
《注意事項》
・同意無しで相手の心身を傷つけてはならない
・散らかしたり汚したら片付けと掃除をする
[SM要素満載となっております。閲覧にはご注意ください。SとMであり、男と女ではありません。TL・BL・GL関係なしです。
ストーリー編以外はM視点とS視点の両方を載せています。
プロローグ以外はほぼフィクションです。あとがきもお楽しみください。]

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる