双翼の魔女は異世界で…!?

桧山 紗綺

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異世界<日本>編

迷い

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 店を出て辺りを見回す。これがからかわれる要因になるとは、考えなかったな。
  今日は、ヴォルフは来てないみたいだ。
  何処かに出かけてるのか、この世界に慣れて一人で出かけることも増えた。
  ヴォルフのことだから心配はいらないだろうけれど。
  嫌だろうがこれだけは着けてもらうと言って、首輪だけは着けさせている。何かあれば携帯に連絡がくるはずだ。
  明日の食材は冷蔵庫にあるから買って帰る必要はないかな、なんて考えている自分に気づいて苦笑する。
  なんのかんのと理由をつけてこの生活を楽しんでいるなんて、バカみたいだ。
  二人の時間が増えてお互いの話をするたびに好きな気持ちが育っていく。
  これ以上好きになりたくないのに、好きだと感じる度に幸せを感じている。
  今もヴォルフが迎えに来ていないのを淋しいと思ってしまった。
  向こうにいたときから感情に逆らうのはムリだとあきらめている。出来るのはそれを表に出さないことだけ。
  どうやっても叶わないのはわかっている。
  いつかこの感情がゆっくりと消えていくのを待つだけ。
  いつになるかわからなくても、マリナにはそれしかできなかった。
  車が横を通り過ぎていく。この世界の交通網は本当に興味深い。飛行機は理解の範疇を越えすぎているけれど、道路と鉄道は便利さを実感できる。
  今度は電車とかで遠くまで行ってみようか。乗ってみたい。
  ヴォルフが電車に乗れるかわからないけれど。
  ―――目的をすり替えてはいない、と思う。
  一緒にいるのが楽しいからって、いつまでもこのままでいられるなんて錯覚するほどおめでたくはない。
  ヴォルフは、帰らなければならない『必要とされている人』だ。マリナとは違う。
  マリナが消えたところで誰も困らない。マリナが才能に溢れた魔術師だとしても、代わりはいくらでもいる。
  それはただの事実だ。今更どうとも思わない。
  能力を必要とされることならできると思ったけれど、それも一時のことだった。
  六年。自分の力を傾けてきたことが無駄になったとは思わない。
  この世界でなら違う生き方を見つけられる。きっと。
  そうでなければ、何のために存在しているのかわからない。
  ヴォルフを帰したら、どう生きていくのか改めて考えてみるのもいいかもしれないな。
  向こうの世界でマリナが生きていく方法は限られていたけれど、ここでなら違う何かになれる気がした。
 (ヴォルフが言ってた「学校」に行ってみようかな)
  この世界の知識をもっと得て、ボロが出なくなったらそんな選択肢も有りかもしれない。
  今までとは違うことを沢山しよう。そうすればきっと、向こうのことを早く忘れられる。
  …ヴォルフのことを、忘れられる。
 「忘れたいな、早く」
  可能な限り、早く。
  こっちで出会わなければ、こんなに楽しい生活は送れなかった。
  でも、こんなに苦しむこともなかった。
 「時間制限付きの幸せ、か」
  自分らしい気もする。その方が良い。
  本当なら過ごせるはずのなかった日々を過ごしているんだから。
 「十分だよね」
  口に出した言葉は嘘だとわかるくらいに沈んでいた。
  以前ならそれで充分だと思えたのに、欲張りになっている。
  何度も今のままでいい、もっと一緒にいたい、それは不可能なことだ、と頭で繰り返す。
  自分が選ぶ未来は決まっているのに。
  いっそ今すぐにヴォルフが向こうに帰ればこんな堂々巡りをせずに済む。
  今なら、使えるかもしれない。そうよぎった思考を慌てて振り払う。
  そんなことをしたら、もう合わせる顔が無くなる。
  地道に魔力を溜めるしか帰る方法がないと偽ったことは許されることじゃないかもしれないけれど、マリナ自身を傷つけてまでわざわざすぐに帰す必要もない。そう判断したから言わなかったのだ。これは嘘じゃない。言い訳かもしれないけれど。
  帰るために必要な魔力を急速に得る手段、それは使いたくなかった。
  6年間ひた隠しにしてきた想いを自ら晒すことになる。
  ヴォルフには知られたくないのに。
 「あー、もう! くだらないことは考えない!」
  どうせ別れるならいいじゃないと囁く声を閉じ込めて無理矢理に意識を切り替える。
  やっぱり嫌だ。どうせ会えなくなるなら、私のことなんて忘れてほしかった。
  マリナの想いもマリナ自身の存在も、全て忘れてなかったことになってしまえばいい。
  それは強がりだけど、本音だった。
  気分を変えるためにコンビニに寄りお茶を買う。
  公園で少し気分を落ち着かせてから帰ることにした。
  この公園は帰宅する人や犬の散歩をする人たちで多くの人通りがあった。
  だから油断していたんだろう。この国が平和だとしても犯罪が皆無なわけではなかったのに。 
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