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10 奥方との縁
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宿に行く前に食事をしようと目についた食堂に入る。
出てきた食事を見てアルフレッドがぽかんと口を開けた。
「え、何これ?! これも食べるの?」
運ばれた皿には挽いた肉を丸めて煮込んだものが乗っている。
肉のうまみが溢れる逸品はとてもおいしい。
アルフレッドが驚いたのはそちらではなく、皿の隅に乗っている花だった。
「そうよ、食べられる花なの」
この街の名物料理と言っていいのかよくわからないけれど、他のテーブルを見渡しても運ばれたどの皿にも花が乗っかっている。
その他にも付け合せとして出された葉物の皿にも花が、こちらには毟った花びらを散らして彩り鮮やかだ。
「へえ…」
「さっき会った奥様がね、この街には何も名物がないからって各家庭で花を育てることを考えられて、それを元にあちこちの商店で花を使った商品を考えるようになったのよ」
だからこの街の土産物も花を使った物が多い。
この街で仕入れた品物は地域を問わず好む人が大勢いる。
魅力的な品物があれば人も集まってくる。そうしてこの街は商人や旅人の中継地としても発展してきていた。
恐る恐るアルフレッドが花にフォークを近づける。
味わって一言。
「おいしい、というか味があまりしないね」
「うん。 でもそっちの花はもう少し味が強いよ」
肉と一緒に出てきた花は口の中をさっぱりさせる爽やかな風味がある。
「…うん、おもしろいね!」
楽しそうに次々と料理を口にするアルフレッド。
この前と逆だな、と思った。
人に紹介するのって楽しい。
美味しいと料理を平らげていくアルフレッドにソフィアも負けじと料理を口に運んだ。
「ふう、ちょっと食べすぎちゃったかな」
人と話しながらの食事は楽しくて、アルフレッドが感激して食べてくれたので追加注文までしてしまった。
水を飲みながら向かいを見るとアルフレッドも同じように満腹な様子で水の入ったコップに手を伸ばす。
「おいしかった。 花にも驚いたけど煮込み料理もおいしかったよ!」
良かった、と笑う。
「今日はこの街で一泊して明日出発するつもりだけれど、良い?」
「ああ、ソフィアの方が旅慣れているだろうし、任せるよ」
意識していなくてもきっと疲れている。
昨日はあまり眠れていないはずだし、その後もずっと馬車に揺られていた。
今日は早めに休んだ方がいい。
「それにしてもやっぱりアルフレッドの新作は奥様に気に入られたみたいね。
奥様なら絶対に欲しがると思ったの!
あの方が身に着けたら注目度が違うから、きっと他にも求めたいという方が出るでしょうね」
「そんなにすごい方なのか…」
「ええ、影響力という点ではこの地方随一じゃないかしら。
ファッションに関することは特にね」
おしゃれが好きで、新しい物好きな方なので先端を行く彼女はいつも注目を集めている。
「ソフィアはそんなすごい方とどうやって知り合ったんだ?」
一瞬だけ答えに迷ったけれどありのままを話すことにした。
「実家の商会で働いていた頃にお目通りする機会があったの。
その縁で家を離れてからもおつきあいさせていただいているわ」
実家を出ることになったソフィアが領主の奥方と付き合いを続けるなんて本来なら無いと思う。
でも奥様はソフィアに目を掛けていてくれたのか「国中を回る行商人になるならおもしろい物を見つけたら持って来てね」と言って付き合いを許してくれた。
家を出ると決めたのは自分だったけれど、不安が全くなかったわけじゃない。
その言葉に救われて、そう言ってくれたからこそ生半可な物は見せられないと思った。
適当に生きたら顔向けできないと一種の強迫観念も生まれたけれど、それで良かったのだと思う。
こうして自分で見つけ、認めたものを引き合わせられるようになったのだから。
「そっか、ソフィアの家も商売をしていたんだ」
そういえばアルフレッドと会って数年になるけれど家族の話なんかはしたことがなかった。
「うん、両親と妹が一緒に店を切り盛りしてるわ」
「そうなんだ、家族の話とか初めて聞いた」
4つ下の妹は両親の後を継ぐと言って張り切っている。
離れて暮らしていても大切な家族だ。
そのうち紹介することになるだろう。
家族の話をしていると自然とアルフレッドの弟さんの話になった。
「ソフィアには迷惑をかけてすまないな」
アルフレッドが何度目かの謝罪を口にする。
気持ちはわかるけれど、アルフレッドに謝ってもらってもしょうがない。
「もう謝らないの。 まずは弟さんを見つけることに集中しましょう」
まだ何か言いたそうだったので宿に場所を移すことにした。
出てきた食事を見てアルフレッドがぽかんと口を開けた。
「え、何これ?! これも食べるの?」
運ばれた皿には挽いた肉を丸めて煮込んだものが乗っている。
肉のうまみが溢れる逸品はとてもおいしい。
アルフレッドが驚いたのはそちらではなく、皿の隅に乗っている花だった。
「そうよ、食べられる花なの」
この街の名物料理と言っていいのかよくわからないけれど、他のテーブルを見渡しても運ばれたどの皿にも花が乗っかっている。
その他にも付け合せとして出された葉物の皿にも花が、こちらには毟った花びらを散らして彩り鮮やかだ。
「へえ…」
「さっき会った奥様がね、この街には何も名物がないからって各家庭で花を育てることを考えられて、それを元にあちこちの商店で花を使った商品を考えるようになったのよ」
だからこの街の土産物も花を使った物が多い。
この街で仕入れた品物は地域を問わず好む人が大勢いる。
魅力的な品物があれば人も集まってくる。そうしてこの街は商人や旅人の中継地としても発展してきていた。
恐る恐るアルフレッドが花にフォークを近づける。
味わって一言。
「おいしい、というか味があまりしないね」
「うん。 でもそっちの花はもう少し味が強いよ」
肉と一緒に出てきた花は口の中をさっぱりさせる爽やかな風味がある。
「…うん、おもしろいね!」
楽しそうに次々と料理を口にするアルフレッド。
この前と逆だな、と思った。
人に紹介するのって楽しい。
美味しいと料理を平らげていくアルフレッドにソフィアも負けじと料理を口に運んだ。
「ふう、ちょっと食べすぎちゃったかな」
人と話しながらの食事は楽しくて、アルフレッドが感激して食べてくれたので追加注文までしてしまった。
水を飲みながら向かいを見るとアルフレッドも同じように満腹な様子で水の入ったコップに手を伸ばす。
「おいしかった。 花にも驚いたけど煮込み料理もおいしかったよ!」
良かった、と笑う。
「今日はこの街で一泊して明日出発するつもりだけれど、良い?」
「ああ、ソフィアの方が旅慣れているだろうし、任せるよ」
意識していなくてもきっと疲れている。
昨日はあまり眠れていないはずだし、その後もずっと馬車に揺られていた。
今日は早めに休んだ方がいい。
「それにしてもやっぱりアルフレッドの新作は奥様に気に入られたみたいね。
奥様なら絶対に欲しがると思ったの!
あの方が身に着けたら注目度が違うから、きっと他にも求めたいという方が出るでしょうね」
「そんなにすごい方なのか…」
「ええ、影響力という点ではこの地方随一じゃないかしら。
ファッションに関することは特にね」
おしゃれが好きで、新しい物好きな方なので先端を行く彼女はいつも注目を集めている。
「ソフィアはそんなすごい方とどうやって知り合ったんだ?」
一瞬だけ答えに迷ったけれどありのままを話すことにした。
「実家の商会で働いていた頃にお目通りする機会があったの。
その縁で家を離れてからもおつきあいさせていただいているわ」
実家を出ることになったソフィアが領主の奥方と付き合いを続けるなんて本来なら無いと思う。
でも奥様はソフィアに目を掛けていてくれたのか「国中を回る行商人になるならおもしろい物を見つけたら持って来てね」と言って付き合いを許してくれた。
家を出ると決めたのは自分だったけれど、不安が全くなかったわけじゃない。
その言葉に救われて、そう言ってくれたからこそ生半可な物は見せられないと思った。
適当に生きたら顔向けできないと一種の強迫観念も生まれたけれど、それで良かったのだと思う。
こうして自分で見つけ、認めたものを引き合わせられるようになったのだから。
「そっか、ソフィアの家も商売をしていたんだ」
そういえばアルフレッドと会って数年になるけれど家族の話なんかはしたことがなかった。
「うん、両親と妹が一緒に店を切り盛りしてるわ」
「そうなんだ、家族の話とか初めて聞いた」
4つ下の妹は両親の後を継ぐと言って張り切っている。
離れて暮らしていても大切な家族だ。
そのうち紹介することになるだろう。
家族の話をしていると自然とアルフレッドの弟さんの話になった。
「ソフィアには迷惑をかけてすまないな」
アルフレッドが何度目かの謝罪を口にする。
気持ちはわかるけれど、アルフレッドに謝ってもらってもしょうがない。
「もう謝らないの。 まずは弟さんを見つけることに集中しましょう」
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