青の光跡

桧山 紗綺

文字の大きさ
上 下
3 / 28

3 今日の予定

しおりを挟む
 朝日の昇る街を見ながら今日の予定について考える。
 改装中で泊まれる部屋が少ないと聞いていたけれど運よく空き室があった。
 この宿は規模こそ大きくないけれど、綺麗で落ち着いた室内と宿を営んでいる夫妻の気配りで人気の宿だ。ソフィアもこの街に来るときはここを拠点にすると決めている。
「さって、今日は市から行ってみようかな」
 昨日は市を見る前にアルフレッドに会ったので、市場には足を踏み入れただけだった。
 住人が百人程度の村でもないのに到着したその日に偶然会うなんて、驚く。
 そういえば、と袋から青光石を取り出す。
 光を反射する石は深い青をしている。我ながら良い品を手に入れたと思う。
 それだけに売る相手を選びたい品だ。
 更に輝かせてくれる人にしか渡したくない。そういったわがままを通せるのもあちこち渡り歩く行商のいいところだ。
 決まった取引先を相手にするとこういうことは出来ない。
 まあ、全部の品物にわがままを通していたら生活が成り立たないけれど。
 たまに見つける珠玉の品くらいは自由に取引をしたい。
 どうせ誰にでも買える品というわけではないし。
 そこまで考えて知らずに息が漏れる。
「アルフレッドならきれいにしてくれると思うんだけどな」
 この街で親しくしている細工師の青年をソフィアはとても買っていた。
 とはいえ本人も言っていた通り、彼がこれを買うことは少し厳しいのもわかっている。
 ソフィアも商売なので適正でない取引はしない。
「残念ね」
 彼ならこの石をどう輝かせてくれるのかとても胸が躍るけれど、それを見ることはないだろう。
 これは王都で売ることにしようか、などと考えながら部屋を出た。
 この街には一週間くらい滞在予定だ。
 滞在中は時々アルフレッドが案内をしてくれる。
 昨日は突然だったので見られなかったけれど、アルフレッドが作った作品も毎回見せてもらうことになっていた。
 彼が作る作品は美しいけれど、実用性があって、素晴らしい。
 貴族のご令嬢から商家の奥さんまで誰でも着けられる。
 洗練されているのに気取り過ぎているわけじゃない。
 いつも着飾っている人なら日常使いに、普段あまりおしゃれが出来ない人なら特別な日に。
 どのような場面にも合わせやすい。
 一昔前の結婚式やパーティなどでしか使えないような大仰な物とは違う。
 いうなれば時代に合ったアクセサリーだった。
 ソフィアは必ずアルフレッドが作った物を仕入れて他の街で販売する。
 手が出しやすい値段というのが理由の一つ。
 持ち運びしやすいのもある。
 何よりも、自分が素晴らしいと思った物を他の人にも知らしめたいというのが最大の理由だ。
(もう少し暮らし向きが良くなれば大物買ってくれるかもしれないし)
 こそっと自分の野望を織り交ぜつつ、行商の品の一部として彼の作品を買うのがいつもの決まりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...