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1 久しぶりの再会
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爽やかな風が太陽の熱をほどよく感じさせる。秋になったとはいえ寒くなるのはまだまだ先で、日の高い時間、市場を歩く人はのんびりとしている。
そのなかで若い女性を選んで声をかけていく。
何人かの女性には振られたが豊かな黒髪の女性が足を止めた。
「あなたが案内してくれるの?」
いい感触に心の中で「よし!」と叫ぶ。
「もちろん。お姉さんを見てこの人しかいない!って思ったんだ」
気が変わらない内に、と甘い言葉をかけながら肩に手を置く。
そのとき、通りの奥に知った顔が見えた。
「あれ? ソフィア? ソフィアじゃないか!」
藍色の髪をショートにし、身軽な旅装で歩くのは顔なじみの女の子。旅をしている彼女と会うのは半年ぶりくらいになる。
「アルフレッド、久しぶり!」
満面の笑みで再会を喜ぶ彼女に気を取られていたら、傍らの女性がいなくなっていた。
「しまった。 逃げられたか」
せっかく良さそうな客を見つけたと思ったのに。
「まあいいか」
一人逃したくらい彼女が来たことに比べたら大したことじゃない。
しばらくぶりにあった彼女は髪を切ったばかりみたいで以前より10センチほど短く、肩につかないくらいの長さになっていた。
「半年ぶりだね。 髪切ったんだ」
次来たとき髪が伸びていたら髪飾りを送ろうかと思ってたのに、残念だ。
このスタイルならピアスの方が似合いそうだな。
「ちょっとね。 焦がされちゃって」
大したことないというように笑う。今回は結構危ない旅だったようだ。
「それなら身入りも良かったんだろう?」
「まあね」
話しながら路地へ入っていく。
「さっそくこれ見てよ」
人通りが少なくなったところでソフィアが懐から石を取り出す。
「うわ、これはすごいな…」
思わず感嘆の溜息がでる。手のひらほどもある石は濃い青色をしていてその価値を示すかのような輝きを放っていた。
「青光石か。 大きいのもそうだけど…、この艶はなかなかお目にかかれないな」
感嘆に気をよくしたのかソフィアの口元が緩んでいる。
「そうよ、この石なら2千レアルはくだらないわ」
2千レアルなら一般家庭が半年楽に暮らせる金額だ。加工すればさらに値段は跳ねあがるだろう。
「どお? 買わない?」
石の魅力とソフィアの笑顔に心は躍るが肩を落とすポーズで答えを表す。
「魅力は十分に理解してるけど、ウチじゃ手の出ない逸品だな。 これを買うなら貴石が十倍買える」
「やっぱり?」
諦めるのがわかっていたからかソフィアはさっさと青光石をしまった。
「なら、こっちはどう?」
ソフィアが出したのは黄色いゴツゴツした石。見たことのないものだ。
「見たことないな。 面白い質感だ」
ところどころ淡いオレンジ色をしていて緩やかな模様を作っている。
「キレイだな…」
派手さはないが見ていると落ち着く色だ。
「気に入った?」
ソフィアが覗き込みながら聞く。
「ああ…。 とっても気に入った」
「よかった! じゃあ、これでまた街の案内よろしくね!」
値段の予想がつかない石だったからその言葉にほっとした。
「いいのか?」
「もちろん。 そんなに珍しいってわけじゃないし。 それ加工が難しいんだよね。 崩れやすいの」
だから人を選ぶ代物だと言われて石を手に入れたうれしさとは別のうれしさが湧いてくる。
自分なら扱えると言われて喜ばない職人はいない。
傷付けないように布で包みしまう。どんな形が一番この石を輝かせるかと考えるだけでときめきが止まらなかった。
そのなかで若い女性を選んで声をかけていく。
何人かの女性には振られたが豊かな黒髪の女性が足を止めた。
「あなたが案内してくれるの?」
いい感触に心の中で「よし!」と叫ぶ。
「もちろん。お姉さんを見てこの人しかいない!って思ったんだ」
気が変わらない内に、と甘い言葉をかけながら肩に手を置く。
そのとき、通りの奥に知った顔が見えた。
「あれ? ソフィア? ソフィアじゃないか!」
藍色の髪をショートにし、身軽な旅装で歩くのは顔なじみの女の子。旅をしている彼女と会うのは半年ぶりくらいになる。
「アルフレッド、久しぶり!」
満面の笑みで再会を喜ぶ彼女に気を取られていたら、傍らの女性がいなくなっていた。
「しまった。 逃げられたか」
せっかく良さそうな客を見つけたと思ったのに。
「まあいいか」
一人逃したくらい彼女が来たことに比べたら大したことじゃない。
しばらくぶりにあった彼女は髪を切ったばかりみたいで以前より10センチほど短く、肩につかないくらいの長さになっていた。
「半年ぶりだね。 髪切ったんだ」
次来たとき髪が伸びていたら髪飾りを送ろうかと思ってたのに、残念だ。
このスタイルならピアスの方が似合いそうだな。
「ちょっとね。 焦がされちゃって」
大したことないというように笑う。今回は結構危ない旅だったようだ。
「それなら身入りも良かったんだろう?」
「まあね」
話しながら路地へ入っていく。
「さっそくこれ見てよ」
人通りが少なくなったところでソフィアが懐から石を取り出す。
「うわ、これはすごいな…」
思わず感嘆の溜息がでる。手のひらほどもある石は濃い青色をしていてその価値を示すかのような輝きを放っていた。
「青光石か。 大きいのもそうだけど…、この艶はなかなかお目にかかれないな」
感嘆に気をよくしたのかソフィアの口元が緩んでいる。
「そうよ、この石なら2千レアルはくだらないわ」
2千レアルなら一般家庭が半年楽に暮らせる金額だ。加工すればさらに値段は跳ねあがるだろう。
「どお? 買わない?」
石の魅力とソフィアの笑顔に心は躍るが肩を落とすポーズで答えを表す。
「魅力は十分に理解してるけど、ウチじゃ手の出ない逸品だな。 これを買うなら貴石が十倍買える」
「やっぱり?」
諦めるのがわかっていたからかソフィアはさっさと青光石をしまった。
「なら、こっちはどう?」
ソフィアが出したのは黄色いゴツゴツした石。見たことのないものだ。
「見たことないな。 面白い質感だ」
ところどころ淡いオレンジ色をしていて緩やかな模様を作っている。
「キレイだな…」
派手さはないが見ていると落ち着く色だ。
「気に入った?」
ソフィアが覗き込みながら聞く。
「ああ…。 とっても気に入った」
「よかった! じゃあ、これでまた街の案内よろしくね!」
値段の予想がつかない石だったからその言葉にほっとした。
「いいのか?」
「もちろん。 そんなに珍しいってわけじゃないし。 それ加工が難しいんだよね。 崩れやすいの」
だから人を選ぶ代物だと言われて石を手に入れたうれしさとは別のうれしさが湧いてくる。
自分なら扱えると言われて喜ばない職人はいない。
傷付けないように布で包みしまう。どんな形が一番この石を輝かせるかと考えるだけでときめきが止まらなかった。
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