青の光跡

桧山 紗綺

文字の大きさ
上 下
1 / 28

1 久しぶりの再会

しおりを挟む
 爽やかな風が太陽の熱をほどよく感じさせる。秋になったとはいえ寒くなるのはまだまだ先で、日の高い時間、市場を歩く人はのんびりとしている。
 そのなかで若い女性を選んで声をかけていく。
 何人かの女性には振られたが豊かな黒髪の女性が足を止めた。
「あなたが案内してくれるの?」
 いい感触に心の中で「よし!」と叫ぶ。
「もちろん。お姉さんを見てこの人しかいない!って思ったんだ」
 気が変わらない内に、と甘い言葉をかけながら肩に手を置く。
 そのとき、通りの奥に知った顔が見えた。
「あれ? ソフィア? ソフィアじゃないか!」
 藍色の髪をショートにし、身軽な旅装で歩くのは顔なじみの女の子。旅をしている彼女と会うのは半年ぶりくらいになる。
「アルフレッド、久しぶり!」
 満面の笑みで再会を喜ぶ彼女に気を取られていたら、傍らの女性がいなくなっていた。
「しまった。 逃げられたか」
 せっかく良さそうな客を見つけたと思ったのに。
「まあいいか」
 一人逃したくらい彼女が来たことに比べたら大したことじゃない。
 しばらくぶりにあった彼女は髪を切ったばかりみたいで以前より10センチほど短く、肩につかないくらいの長さになっていた。
「半年ぶりだね。 髪切ったんだ」
 次来たとき髪が伸びていたら髪飾りを送ろうかと思ってたのに、残念だ。
 このスタイルならピアスの方が似合いそうだな。
「ちょっとね。 焦がされちゃって」
 大したことないというように笑う。今回は結構危ない旅だったようだ。
「それなら身入りも良かったんだろう?」
「まあね」
 話しながら路地へ入っていく。
「さっそくこれ見てよ」
 人通りが少なくなったところでソフィアが懐から石を取り出す。
「うわ、これはすごいな…」
 思わず感嘆の溜息がでる。手のひらほどもある石は濃い青色をしていてその価値を示すかのような輝きを放っていた。
「青光石か。 大きいのもそうだけど…、この艶はなかなかお目にかかれないな」
 感嘆に気をよくしたのかソフィアの口元が緩んでいる。
「そうよ、この石なら2千レアルはくだらないわ」
 2千レアルなら一般家庭が半年楽に暮らせる金額だ。加工すればさらに値段は跳ねあがるだろう。
「どお? 買わない?」
 石の魅力とソフィアの笑顔に心は躍るが肩を落とすポーズで答えを表す。
「魅力は十分に理解してるけど、ウチじゃ手の出ない逸品だな。 これを買うなら貴石が十倍買える」
「やっぱり?」
 諦めるのがわかっていたからかソフィアはさっさと青光石をしまった。
「なら、こっちはどう?」
 ソフィアが出したのは黄色いゴツゴツした石。見たことのないものだ。
「見たことないな。 面白い質感だ」
 ところどころ淡いオレンジ色をしていて緩やかな模様を作っている。
「キレイだな…」
 派手さはないが見ていると落ち着く色だ。
「気に入った?」
 ソフィアが覗き込みながら聞く。
「ああ…。 とっても気に入った」
「よかった! じゃあ、これでまた街の案内よろしくね!」
 値段の予想がつかない石だったからその言葉にほっとした。
「いいのか?」
「もちろん。 そんなに珍しいってわけじゃないし。 それ加工が難しいんだよね。 崩れやすいの」
 だから人を選ぶ代物だと言われて石を手に入れたうれしさとは別のうれしさが湧いてくる。
 自分なら扱えると言われて喜ばない職人はいない。
 傷付けないように布で包みしまう。どんな形が一番この石を輝かせるかと考えるだけでときめきが止まらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

来世にご期待下さい!〜前世の許嫁が今世ではエリート社長になっていて私に対して冷たい……と思っていたのに、実は溺愛されていました!?〜

百崎千鶴
恋愛
「結婚してください……」 「……はい?」 「……あっ!?」  主人公の小日向恋幸(こひなたこゆき)は、23歳でプロデビューを果たした恋愛小説家である。  そんな彼女はある日、行きつけの喫茶店で偶然出会った32歳の男性・裕一郎(ゆういちろう)を一眼見た瞬間、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。  ――……その裕一郎こそが、前世で結婚を誓った許嫁の生まれ変わりだったのだ。  初対面逆プロポーズから始まる2人の関係。  前世の記憶を持つ恋幸とは対照的に、裕一郎は前世について何も覚えておらず更には彼女に塩対応で、熱い想いは恋幸の一方通行……かと思いきや。  なんと裕一郎は、冷たい態度とは裏腹に恋幸を溺愛していた。その理由は、 「……貴女に夢の中で出会って、一目惚れしました。と、言ったら……気持ち悪いと、思いますか?」  そして、裕一郎がなかなか恋幸に手を出そうとしなかった驚きの『とある要因』とは――……?  これは、ハイスペックなスパダリの裕一郎と共に、少しずれた思考の恋幸が前世の『願望』を叶えるため奮闘するお話である。 (🌸だいたい1〜3日おきに1話更新中です) (🌸『※』マーク=年齢制限表現があります) ※2人の関係性・信頼の深め方重視のため、R-15〜18表現が入るまで話数と時間がかかります。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...