青の姫と海の女神

桧山 紗綺

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変化

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 あれほど泣きじゃくった夜が明けて、セシリアはすっきりした気持ちで朝を迎えた。
  全部話して心に抱えている物がなくなったおかげかもしれない。
  イリアス様に縋り付いたことを思うと恥ずかしくてしかたないけれど、黙って全部聞いて受け入れてくれた。
  どこまで優しい人なのだろう。
  イリアス様のことを思うと落ち着かなくなる。
 「おはよう、セシリア」
 「おはようございます。 イリアス様」
  あいさつを交わし、ふたりで庭園に降りていく。
  イリアス様はごく自然に手を取って導いてくれる。
  ずっとそうだった。ここに来てからずっと。
  イリアス様は私が困らないように、不安にならないように助けてくれた。
  なぜ今までこの手に何も感じずにいられたのか。
  今はもう手が触れ合うだけで、こんなにも胸が高鳴っているのに。
  イリアス様と庭園で別れた後いつものようにお茶をする。
  けれど思い浮かぶのはイリアス様のことばかり。
  私が上の空でいることに気がついた二人は、気を利かせて席を外してくれた。
  一人になるとますますイリアス様のことを考えてしまう。
  目が覚めた時、最初に声をかけてくれたのがイリアス様だ。
  落ち着いた声で、少し心配そうに…。その声で自分が生きていると知った。
  真っ暗になった世界に内心怯えていた私を元気づけて、ここに居ればいいと言ってくれて。
  本来なら、私のような素性の知れない娘がお側にいられる方ではないと思う。それでも、イリアス様は黙ってここに置いてくれた。
  私の歌が好きだと言って、いつも聞いてくれて……。
  あの時、突きつけられた事実に止まらなかった涙も、悲しみも、全て受け止めてくれて、一人じゃないと言ってくれた人。
  イリアス様のことを考えると胸が苦しい。
  側に居るときはうれしくて胸がどきどきして…、離れてしまうと胸に穴が開いたように苦しくなる。
  ずっと“好き”という気持ちは胸の中にあったのに、前と全然違う…!
  あたたかいものだけだった胸が熱くて仕方ない。
  頬に手をあてて、熱くなっていることを確認する。
  傍から見たらきっと真っ赤になっている。
  そう思うと、余計に頬が熱くなっていく気がした。
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