青の姫と海の女神

桧山 紗綺

文字の大きさ
上 下
24 / 56

気づかい

しおりを挟む
 高いはずの馬の背も、見えていないせいかそれほど怖いとは感じなかった。
  イリアス様を信頼しているというのもある。
  珍しく強引な誘いはセシリアを気遣ってくれたのだろう。
  確かにセシリアには気分転換が必要だった。
  あのまま屋敷に戻ったらさっきのことばかり考えてしまったはずだ。
  何も言わなくてもイリアス様はいつも優しい。
  その気づかいがうれしくて、申し訳ない。何も返せないのに。
 (甘えてばかりね、私…)
  支える腕に身を預けていると、懐かしい薫りがした。
 「潮の匂いがします!」
  思わず袖を掴むとイリアス様が小さく笑う。
  揺れるたびに潮の香りが強くなり、波の音が大きくなっていく。
  期待に高鳴る胸はイリアス様の声で最高潮に達した。
 「着いたよ。 セシリア」
  イリアス様に馬から降ろしてもらうと、足の下には砂の感触。
  履物を脱いで直に足を下ろすと、さらさらと粒の細かい砂は少しひんやりしていた。
  小さく砂を蹴ると軽い粒は足の甲に跳ね上がり、舞い散った残りが風に煽られ脛にかかる。
  息を吸うと海の香りが胸いっぱいに入っていく。
  慣れ親しんだ海を感じて心が跳ねた。
 「砂浜、砂浜ですよね…!」
  久々に感じる海にうれしさを押さえきれなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

歌声は恋を隠せない

三島 至
恋愛
自分は特別な存在だと思い、我が儘に振る舞っていたリナリアは、呪いを受けて、言葉を失ってしまう。 唯一の加護持ちから一変、呪い持ちとして孤立する。しかし、リナリアを嫌っているはずのカーネリアンだけは、変わらず側に居てくれた。 改心したリナリアは、カーネリアンに甘える資格はないと思いながら、恋慕は募っていくばかりで…… 神様の恩恵を受ける街での物語。 〈本編六十五話〉 小説家になろうにも投稿しています。

引きこもり魔女と花の騎士

和島逆
恋愛
『宝玉の魔女』ロッティは魔石作りを生業とする魔法使い。 特製の美しい魔石は王都で大評判で、注文はいつだって引きも切らない。ひたすら自宅に引きこもっては、己の魔力をせっせと石に込める日々を送っていた。 そんなある日、ロッティは王立騎士団のフィルと知り合う。予約一年待ちのロッティの魔石が今すぐ欲しいと、美形の騎士は甘い囁きで誘惑してくるのだがーー? 人見知りなロッティは、端正な容姿を武器にぐいぐい迫ってくるフィルに半狂乱! 一方のフィルはフィルで、思い通りにならない彼女に不思議な感情を覚え始める。 逃げたり追ったり、翻弄したり振り回されたり。 引きこもり魔女と強引な騎士、ちぐはぐな二人の攻防戦。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

もう何も信じられない

ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。 ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。 その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。 「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」 あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。 【お詫び】読んで頂いて本当に有難うございます。短編予定だったのですが5万字を越えて長くなってしまいました。申し訳ありません長編に変更させて頂きました。2025/02/21

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

処理中です...