青の姫と海の女神

桧山 紗綺

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プロローグ

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 波の音が聞こえる。
  自由にならない身体。
  指すら動かないのに意識だけがある。
  抱えられた身体は人の体温を感じているはずなのに、何の温度も感じない。
  恐ろしいことが身に起きている、そう思うのと同時に諦めが浮かんだ。
  許される訳がなかったのだと……。
  生まれたときから聞こえていた波音はこんなときでも穏やかで、包むように優しい。
  ぼんやりとした意識が身体に加えられた力を知覚する。
  海に投げ込まれると気づいても抗う術はない。
  飲まされた薬の影響か、抵抗すら考えなかった。

  ――――――。

  一瞬の浮遊感と衝撃。
  続く水音が他人事のように聞こえた。
 (冷たい…)
  感じたのはそれだけ。
  動かない手は水を掻くこともできず沈んでいく。
  目を開けると、水面の向こうに月が見えた。
  零れる涙は海水と混じり、どこにも残らない。
  ゆっくりと月が小さくなり、水面が遠ざかっていく。
  瞳に映る月はゆらゆらと波に形を崩しながらも光を振り撒いていた。
 (きれい……)
  蒼と碧、月の光。
  きらきらと揺れる波の美しさをただ、受け入れる。
  不思議と穏やかな気持ちだった。
  そう。悲しむことじゃない、きっと……。
  海は私を迎えてくれる。
  まぶたを閉じると意識もゆっくりと海に溶けていった。
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