常夏の国の冬の姫

桧山 紗綺

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23.初めての目覚めの朝

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 目覚めてすぐアイオルドの顔が目に入った。
 驚きに目を瞬くとゆるりと琥珀色の瞳を細めて笑う。あまりに眩しい笑顔に直視するのがなんだか恥ずかしい。

「おはよう、アクアオーラ」

「お、はようアイオルド」

 寝乱れた衣からは鍛えられた身体が覗き、心臓に悪い。
 起き上がると日はすっかり昇っているようだった。

 アイオルドが一度部屋に戻っている間にアクアオーラも寝間着から着替える。
 寝顔を見られていたことは恥ずかしかったけれど夫婦になったのだからこれが当たり前になるのだ。
 戻ってきたアイオルドにひとつお願いをする。

「あの、お願いがあるのだけれど、手を繋いでいてもいい?」

 もちろんと差し出された手に指を絡める。
 一晩ですっかりこの温度に慣れてしまった気がした。
 近づいた距離もうれしくて幸せでふわふわする。

「手を繋ぐだけでいいの?」

 アイオルドの言葉の意味がわからなくて首を傾げる。

「キスはいいの?」

 甘やかに微笑みながら告げられた言葉に顔が熱くなる。

「それは……」

「うん?」

 返答を待つアイオルドが答えを誘うように繋いだ手を揺らす。

「それは、朝からしても良いことなの……?」

 ようやっと出た言葉には問いに隠せない期待が滲んでいた。

「……っっ!!」

 繋いだ手からアイオルドの動揺が伝わってくる。

「アイオルド?」

 俯いて隠すように顔を逸らすアイオルド。
 金の髪からほんのわずかに覗いた顔が真っ赤でアクアオーラまで顔が火照ってくる。
 繋いだ手はもっと熱くて、でも離したくない。

「俺がダメ……」

 囁くようなか細い返答に可愛いと胸が締め付けられた。
 ちょっと残念な気持ちもあるけれどアイオルドの嫌がることはしたくない。

「アクアオーラが可愛すぎてムリ……。
 今キスとかしたら今日何もできなくなる」

 俯いていた顔を上げこちらを見たアイオルドの琥珀の瞳が形容しがたい色に煌めいていて、息が止まる。
 どくどくと鳴る心臓が何かを訴えていた。
 緊迫、危険、期待、謎の高揚感に駆られて何かおかしなことを言ってしまいそう。

 ふーっと息を吐いたアイオルドが髪をかき上げ首を振る。
 気を取り直したように微笑みを浮かべると朝食にしようと誘う。

「キスはこれだけなら大丈夫だから」

 そう言ってすばやくアクアオーラの頬にキスを落とす。
 幸せそうに笑ったアイオルドにうれしくなってアクアオーラも引き寄せたアイオルドの頬にキスをする。

『勘弁して……』

 その瞬間真っ赤になったアイオルドが小さく何事かを呟いた。
 座り込んでベッドに寄りかかるアイオルドに慌てる。
 医者を呼んだ方がいいのかと焦るアクアオーラに、側にいて手を握っていてくれれば大丈夫だからとアイオルドが苦笑混じりに微笑んだ。
 隣に腰かけて繋いだのと反対の手でアイオルドの頭を撫でる。
 朝食の準備をとうに終え焦れた使用人が呼びに来るのと、アイオルドが落ち着いたのはほぼ同時だった。


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