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14.もう罪悪感だけじゃないって知ってる
しおりを挟む謁見の間として利用されている部屋でお父様と向かい合う。
「気持ちは変わったか」
「私の気持ちが変わることなどありませんよ、アイオルド以上の人なんていません」
何度繰り返しても答えが変わることはないのに。
「それはお前が他の男を知らないからだ!」
身分でも容姿でも財力でも釣り合う男はいると声を荒げる父に息を吐く。
一つ一つなら並び立つ人はいるでしょうけれど、その全てでアイオルドに比肩する人がいるとは思えない。
それ以上に、アイオルドが捧げてくれた心と同等のものを持ち合わせている男なんて存在しない。
アクアオーラがどれだけ助けられていたのか、お父様だって理解してくれていると思っていたのに。
「幼き頃から、アイオルドはたくさんのものを贈ってくれました。
外に出られない私のために領地でしか咲かない花を見せてくれたり、王都で新しい菓子が流行るたびに持ってきてくれ、それがどこの店で売られていてどんな人が買っているのかと話してくれる。
地理の勉強をしていた時には地図を指しながら実際にどんな景色だったのか、町で会った人々の話、各地に伝わる昔話など面白おかしく話してくれて。時には絵の得意な民に自分の住む町を描いてもらい、その者がその町のどこを愛しているかを語って聞かせてくれた」
それは今も変わらない。
領地に帰る度に他の町に立ち寄って旅の土産話をたくさん聞かせてくれる。
そしていない間の話を聞いてくれた。
だからアイオルドがいない時も無為に流されて過ごさないように一日一日を過ごすようにしていた。
「暑さに気分を悪くする私のために夕暮れの散歩に誘ってくれて、私が体調を崩して会えないときには部屋の前で子守歌を歌ってくれたことだってある」
領地に帰っている期間にはどこに行ったなどと短い手紙を送ってくれて、土産話を楽しみにしていてと添えてあった。
離れていても、側にいても、気にかけてくれることを伝えてくれる。
いつもいつも一人じゃないと寄り添ってくれた。
「……小さな頃に口にした、たった一度の願いを叶えるために舞を捧げる舞台すら作ってくれた!」
笑顔で、言葉で、行動で、大切にしてくれていた。
これ以上の想いを与えられる人なんているわけがない!
「それはお前に罪悪感を感じているせいで!」
否定ばかりをぶつけてくる父に首を振る。
罪悪感?
それは違う。
「罪悪感だけでこれだけのことができるとお思いですか?
幼い頃のただひとつの過ちのために、その後の十年、全て傾けて尽くすことができると?」
たとえアイオルドの初めの理由の一つに罪悪感があったのだとしても。
アイオルドの行動は全てアクアオーラの心に向いていた。
だからアイオルドの想いを疑ったことはない。
アイオルドが向けてくれた全てが真摯な愛情に溢れていたから。
「もう一度考えてください、アイオルドの献身がどれだけのものだったのか。
私にとって彼以上の人はいません。
他の誰にも嫁ぐつもりはありませんから」
譲れないとの意思を示し父を見据える。
これだけはっきりと否定しているのに父はまだ難しい顔をしていた。
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