Faith

桧山 紗綺

文字の大きさ
上 下
19 / 41

19 情報の単片

しおりを挟む
 身体を休めていると鍵の開く音がした。
 入ってきたのは金髪碧眼の優男。
「申し訳ありませんね、このようなところに押し込めて」
 アーリアとジェラールをここまで連れてきた男がそう謝罪する。
 間違いなく夜会で噂になっていた男だ。
 優し気に微笑む姿はとても誘拐犯には見えない。
 ジェラールがただの貴族子弟だったら何か事情があったのだと考えてしまいそうだ。
「彼女はどうしているんだ?」
「静かにしていますよ。 もしかしたら疲れて眠っていらっしゃるかもしれませんね」
 薬で眠らせたということだろうか。男の表情からは真実が読みづらい。
 まさか情報を得たその日に狙われることになるとは、運がいいのか悪いのか。
「私たちはこれからどうなる」
 正直に答えるかどうかは相手の気分しだいだろうが聞いてみる。
 男はあっさりと答えた。
「貴方はどこか適当なところでお帰しします」
 意外な返答に演技でなく目を瞠る。
 帰す?わざわざ?
 殺すと言われるより意味の分からない返答だった。
「リーナは」
 さらりと出る偽りの名。
 ジェラールもアーリアも慣れ過ぎている。
 胸にわだかまる感情は無視した。
「彼女は私たちとともに来ていただきます」
「何故…」
「彼女を必要としている場所があるのですよ」
 諭すように穏やかに語りかける男。
 ジェラールの知る誘拐組織とはかなり様相が違う。
 普通なら殴られて終わりだが、男からは暴力的な気配はしない。
「私も共に行きたいと言ったら?」
「ご家族を悲しませるようなことは言わない方がよろしいですよ」
 至極真面に聞こえることを言う。おかしな事だ。
 その台詞には返事をせず、別のことを問う。
「これからどこに向かうんだ」
「今は申し上げられません」
 さすがに核心に迫るような情報は与えない。
「一つだけ聞かせてくれ」
 出て行こうとしていた男が振り返ってジェラールを見下ろす。
「どうぞ」
 自分が優位に立っていることをわかっているから、男は価値のないだろうジェラールの問いに答える余裕がある。
「貴方たちはレイフィールドの人間か?」
 仇敵である国の名を上げると男の表情が一変した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

秘密の姫は男装王子になりたくない

青峰輝楽
恋愛
捨て子と言われて苛められながらも強く育った小間使いの少女リエラは、赤ん坊の時に死んだと思われていた王女だった。 リエラを迎えに来た騎士は彼女に、彼女の兄の王太子の身代わりになって欲しいと願うけれど――。 男装の姫と恋愛に不器用な騎士。国を二分する内乱。シリアス多めのラブラブエンドです。 「小説家になろう」からの転載です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

処理中です...