Faith

桧山 紗綺

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40 お互いの隣に

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 それからの日々は怒涛の勢いで過ぎた。
 騎士団のみならず、レイドも仕事で得た人脈を使っての根回しや関係者を引き合わせる手伝いなど多岐に亘り活動をしている。
 多忙を極め、休む間もほとんどない日々だったが、一言で表すと充実していた。
 甲板に一人出て、空を見上げる。月のない空には小さな星たちが輝いている。
「後少しだね」
 誰にともなく言った言葉だったが、返事はすぐ近くから返ってきた。
「疲れたか?」
 声の方を見ると想像したとおりジェラールが立っている。
 アーリアの隣に並ぶと同じように空を見上げる。
「どうでしょう。 身体は疲れてるかもしれないけれど、気力が充実してるから、あまり疲れた気がしないんです」
 いくら多忙だといってもちゃんと休息もしているし、不調という意味での疲れは感じていない。
 革命派が表に姿を現したことで、二分化されていた国は新たな選択肢を得て混乱を増した。
 貴族派最大の勢力だった侯爵が力を落としたこともあり、今や国軍派に迫る勢いで勢力を伸ばしている。
 それだけではなく、貴族の中で派閥に加わっていなかった者や、国軍派のやり方に異を唱え離反した者も加わろうとしていた。
 国民の支持を背に、近いうち革命派は最大勢力となるだろう。
 その最中に離れるのは心苦しいが、しなければならないことがあった。
「団長に怒られにいかないと」
「そうだな」
 コーラルの運んだ手紙でやり取りをしているとはいえ、半月ぶりだ。
 誘拐事件からレイフィールド内乱に飛び込んだのはほぼジェラールとアーリアの独断だったので、何らかのお咎めはあるだろう。
「手紙では何も言ってなかったけど、どうでしょうね?」
 事後承諾とはいえ、他国の内乱に首を突っ込む危険を許可した団長の本心は如何なるものか。
 それでも騎士団を動かしてアーリアたちを支援してくれたことに感謝は尽きない。
 レイドの部下たちを助けたのも実際には団長の動かした部隊だ。
 そのレイドと団長を引き合わせるのも、帰投の理由の一つではある。
「お前は怒られないだろ、なんだかんだ言って団長はお前に甘い。
 おまけに今回は、最終的に同意する形になったが俺が仕組んだようなものだしな」
「そういうことを言わないでください。 決めたのは同じでしょう」
 選択肢はどちらにもあって、同じ道を選んだのはそれぞれの意志なのに。
「リア」
 ジェラールが普段呼ばない愛称でアーリアを呼んだ。
「お前は俺のことをどれくらい信じていた?」
 彼を信じていなければアーリアは今ここにいなかった。
 少し考えて問いを返す。
「ジェラールは?」
 アーリアの心には嫌になるくらい単純な答えしかない。
 問いで返したアーリアにジェラールが眉を寄せる。
 仕方のない人だ。
「あなたが私を信じているのと同じくらい」
「はっきり言え」
 珍しく苛立っている。余裕のないジェラールというのも珍しい。
「ずるい人ですね。 私より十年以上多く生きているくせに人に言わせようとするんですか?」
「大人の男はずるいんだよ」
「そういう態度でいると大事なことを聞き逃しますよ?」
 言う気が失せる。
 ずるいのはお互い様だけど。お互い、相手に言ってほしいと思っている。
 アーリアの指摘にジェラールが困ったような顔で笑う。
「もうひとつ。 大人の男は臆病なんだ」
「今までの経験が臆病にさせると言いたいのかもしれませんが、あなたはそこまで広く交遊をもっていなかったでしょう」
 何年の付き合いだと思っているのか、それくらい知っている。
 アーリアが気づかなかった付き合いがあるとしても、アーリアが幼い頃の一時のことだ。
「違う。 子供が大人になっていくのを見て、いつまでも自分の知っている世界だけに留まってくれないと痛感するんだ」
 首を傾げる。寧ろ今までのアーリアは小さな世界の中しか見えていなかったと思う。
 ジェラールの言いたいことがわからずに見つめていると、ふいに真剣な光がアーリアの瞳を射抜いた。
「リア。 今、俺をどう思っている?」
「え?」
 どう、って…。
 大切な人、なんて曖昧な言葉で誤魔化すのを許さない瞳。
 アーリアが答えずにいると、ジェラールはさらにはっきりとした言葉で聞き直す。
「俺が好きか?」
「当たり前じゃないですか」
 その問いには即答した。嫌いなわけがない。
 すっ、と息を吸って次の問いがかけられる。それに答えるにはかなりの時間を要した。
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