31 / 41
31 一手
しおりを挟む
「何でクレストへ先に行くことになったんだ、おかしいだろう!」
船から降りていくらか顔色の良くなった青年が常よりは弱々しい声で抗議を入れる。
青年が何を言おうとこれは決定事項になる。
変えさせるつもりのないアーリアは青年を懐柔すべく笑顔を作った。
「申し訳ありません。 私が言い出したのですが…」
アーリアが言ったと聞いて青年の勢いが弱まる。レイドに対して怒ったつもりなので気まずそうだ。
「侯爵様にお会いする前に姿を整えたかったのです。 この服も潮に晒されてとてもお見せできる有様ではありませんもの」
心の中で馬鹿馬鹿しいと思いながら言葉だけは真剣な声音で紡ぐ。青年のような人間には通じる言い分だろう。
「確かに、父上の前に出るにはふさわしくない格好だな」
意を得たように青年が肯く。
アーリアが着ているのはシンプルなデザインだが、貴人の前に出るという観点からも十分に通用するドレスなので青年の考えは全く理解できない。
レイドが用意した、というだけでも気に入らないのかもしれない。
そう考えていると青年がレイドを見ながら嘲笑した。
「卑賤な人間の用意したものをいつまでも身に着けていると、君まで賤しく見えてしまうからな。 さっさと新しいものに着替えた方がいい」
納得した青年はすっきりした顔で馬車へ歩いていく。
その後ろ姿を見て口元が吊り上る。実に扱いやすい。
「姫は私よりシリル様の扱いがうまいですね」
レイドが感嘆なのか呆れなのか微妙な声で呟く。
肩をすくめて、嘆息する。あんなに単純で今までどうやって生きてきたのだろうか。
「それにしてもこれで相応しくないって、謁見用のドレスでも着せるつもりなんでしょうか?」
「さあ、あの人の趣味になんて興味ありませんから」
アーリアの問いにレイドが毒のある台詞で答える。馬車にいて聞こえないからってそんなことを言っていいのだろうか。最初のころと比べると彼の言葉も大分変化した。
「では、行きましょうか」
口に出して促すとレイドがアーリアの手を取る。
馬車までのエスコートは気取ったものでなく、自然な気づかいが感じられた。
船から降りていくらか顔色の良くなった青年が常よりは弱々しい声で抗議を入れる。
青年が何を言おうとこれは決定事項になる。
変えさせるつもりのないアーリアは青年を懐柔すべく笑顔を作った。
「申し訳ありません。 私が言い出したのですが…」
アーリアが言ったと聞いて青年の勢いが弱まる。レイドに対して怒ったつもりなので気まずそうだ。
「侯爵様にお会いする前に姿を整えたかったのです。 この服も潮に晒されてとてもお見せできる有様ではありませんもの」
心の中で馬鹿馬鹿しいと思いながら言葉だけは真剣な声音で紡ぐ。青年のような人間には通じる言い分だろう。
「確かに、父上の前に出るにはふさわしくない格好だな」
意を得たように青年が肯く。
アーリアが着ているのはシンプルなデザインだが、貴人の前に出るという観点からも十分に通用するドレスなので青年の考えは全く理解できない。
レイドが用意した、というだけでも気に入らないのかもしれない。
そう考えていると青年がレイドを見ながら嘲笑した。
「卑賤な人間の用意したものをいつまでも身に着けていると、君まで賤しく見えてしまうからな。 さっさと新しいものに着替えた方がいい」
納得した青年はすっきりした顔で馬車へ歩いていく。
その後ろ姿を見て口元が吊り上る。実に扱いやすい。
「姫は私よりシリル様の扱いがうまいですね」
レイドが感嘆なのか呆れなのか微妙な声で呟く。
肩をすくめて、嘆息する。あんなに単純で今までどうやって生きてきたのだろうか。
「それにしてもこれで相応しくないって、謁見用のドレスでも着せるつもりなんでしょうか?」
「さあ、あの人の趣味になんて興味ありませんから」
アーリアの問いにレイドが毒のある台詞で答える。馬車にいて聞こえないからってそんなことを言っていいのだろうか。最初のころと比べると彼の言葉も大分変化した。
「では、行きましょうか」
口に出して促すとレイドがアーリアの手を取る。
馬車までのエスコートは気取ったものでなく、自然な気づかいが感じられた。
5
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
秘密の姫は男装王子になりたくない
青峰輝楽
恋愛
捨て子と言われて苛められながらも強く育った小間使いの少女リエラは、赤ん坊の時に死んだと思われていた王女だった。
リエラを迎えに来た騎士は彼女に、彼女の兄の王太子の身代わりになって欲しいと願うけれど――。
男装の姫と恋愛に不器用な騎士。国を二分する内乱。シリアス多めのラブラブエンドです。
「小説家になろう」からの転載です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
影の弾正台と秘密の姫
月夜野 すみれ
恋愛
女性に興味がなくて和歌一筋だった貴晴が初めて惹かれたのは大納言(上級貴族)の姫だった。
だが貴晴は下級貴族だから彼女に相手にされそうにない。
そんな時、祖父が話を持ち掛けてきた。
それは弾正台になること。
上手くいけば大納言の姫に相応しい身分になれるかもしれない。
早くに両親を亡くした織子(しきこ)は叔母の家に引き取られた。叔母は大納言の北の方だ。
歌が得意な織子が義理の姉の匡(まさ)の歌を代わりに詠んでいた。
織子が代詠した歌が評判になり匡は若い歌人としてあちこちの歌会に引っ張りだこだった。
ある日、貴晴が出掛けた先で上の句を詠んだところ、見知らぬ女性が下の句を詠んだ。それは大納言の大姫だった。
平安時代初期と中期が混ざっていますが異世界ファンタジーです。
参考文献や和歌の解説などはnoteに書いてあります。
https://note.com/tsukiyonosumire/n/n7b9ffd476048
カクヨムと小説家になろうにも同じものを投稿しています。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
お嬢の番犬 ブルー
茜琉ぴーたん
恋愛
20××年、どこかの街の大きなお屋敷に住む少女とその番犬2人の、それぞれの愛と恋と秘密、そして血の話。
*同じ設定の独立した『ピンク』『ブルー』『ブラック』の3編です。
*キャラクター画像は、自作原画をAI出力し編集したものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています
柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。
領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。
しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。
幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。
「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」
「お、畏れ多いので結構です!」
「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」
「もっと重い提案がきた?!」
果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。
さくっとお読みいただけますと嬉しいです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる