25 / 41
25 傷つける覚悟
しおりを挟む
瞳を開けて伸びをする。
窓がないので時間はわからないが、体感からするともう夜は明けているはずだ。
与えられた部屋で仮眠を取ったジェラールはぼんやりとアーリアのことを考えていた。
昨夜のことを思い出す。アーリアの涙が頭から離れない。
わざと傷つく言葉を選んでぶつけた。なのに、常日頃見ることのないアーリアの涙に少なからず動揺した。
「何をやってるんだ俺は…」
自分で選んだことなのに後悔している。
やったことそのものは後悔していないが、あんな顔を見ると胸が痛む。別の方法もあったんじゃないかと自問してしまう自分が滑稽だ。
何度も考えた上で決めたことだ。傷つけなければ意味がない。
アーリアを一番傷つけられるのは自分だろう。
団長でも他の誰でもない、ジェラールがやるべきことだ。
だからと言って喜びが浮かぶような歪んだ愛情は持ち合わせていないので、ジェラール自身も痛い。
馬鹿なことをしているだろうか。
フレッドやアンネムは怒るだろうな。エリクやジェイドはきっと悲しむ。
団長は…、どうだろうな。怒るかもしれない、呆れるかもしれない。
一人一人の顔を思い浮かべ覚悟を新たにする。
これは必要なことなんだ。彼女と、自分のために。
部屋を出ると待ち構えていたようにレイドが姿を現した。
「昨日はお騒がせして申し訳ありませんでした」
「俺に謝罪は不要だ」
レイドが謝っているのはあのアーリアの従兄弟だと言う男が騒いだことを言っているのだろう。あまり冷静に話の出来るタイプではないようだ。
ジェラールも交渉の相手には選ばない。
「レイド、いつごろ移動するつもりだ?」
「まずは姫に納得いただいてから、と思っていましたが、それも難しそうですね」
「あの馬鹿を排除して話をすれば考えはするだろう」
理を諭せば聞く耳は持っている。頷くかはわからないが。
「全く、あの方にも困ったものです。 あれで姫にすっかり警戒されてしまった」
アーリアの性格からしてあの男を好意的に受け入れることはないな。
レイフィールドの貴族派からは好意を得ることを求められて派遣されたんだろうが、逆効果だ。
「黙っていれば女性が放ってはおかない見た目だというのに、もう少し有効利用してほしいですね」
「お前は最大限に利用しつくしているからな」
単なる感想だが、レイドは皮肉に受け取ったらしい。口の端を持ち上げ暗い瞳で笑う。
「そうしないと生きていけないんですよ。 私のような弱者はね」
「弱者に甘んじている人間の言い訳だな」
何の力もない子供ならそれも通用するが、こいつはすでに自分に合った武器を見つけて戦うことができる。好きこのんで後ろ暗い道を歩く人間の心理など想像する気もなかった。
「言ってくれますね、騎士殿は」
「御託はいい。 あいつを説得するなら早くしろ、この場所はすぐに知れる」
コーラルが報告すれば騎士団が動く。猶予は無い。
「わかっていますよ。 ご協力感謝します」
心にもない言葉を薄い笑みで述べ、レイドは立ち去った。
その背を見送って足を階下に向ける。
一階の廊下は侵入や逃亡を防ぐため、かなり狭い。レイドの部下たちは一人通るのがやっとだろう。アーリアやジェラールのような小さい人間には左程問題にはならないが、騎士団の人間なら多少の足止めにはなるだろう。
フレッドやエリクもまだ身体は小さいが、団長は彼らを先頭に立たせるような馬鹿な真似はしない。ある程度一人でも戦える人間を突入させるはずだ。
腕が立ち、狭い場所でも問題にしない人物であればジェイドも可能性はある。
彼は医療班の指揮をとる必要もあるが、今回のように治療を必要とする人間が多くないときには部下に任せて前線に出ることもあった。
部下たちの顔を浮かべながら誰が来るか予想を立てる。
ジェラールの役割はレイドらがアーリアを連れて逃げるまでの時間稼ぎだ。
実力も戦い方もよくわかっている相手を迎え撃つのは、簡単そうに見えて骨が折れる。
(さて、俺が誘拐犯に協力していると気づくヤツはいるかな)
試すような気持ちで迎え撃つ算段を始める。
妨害はありふれた方法なので気づかれることはないだろうが、警戒するに越したことはなかった。
ここで露見しては水の泡なのだから。
窓がないので時間はわからないが、体感からするともう夜は明けているはずだ。
与えられた部屋で仮眠を取ったジェラールはぼんやりとアーリアのことを考えていた。
昨夜のことを思い出す。アーリアの涙が頭から離れない。
わざと傷つく言葉を選んでぶつけた。なのに、常日頃見ることのないアーリアの涙に少なからず動揺した。
「何をやってるんだ俺は…」
自分で選んだことなのに後悔している。
やったことそのものは後悔していないが、あんな顔を見ると胸が痛む。別の方法もあったんじゃないかと自問してしまう自分が滑稽だ。
何度も考えた上で決めたことだ。傷つけなければ意味がない。
アーリアを一番傷つけられるのは自分だろう。
団長でも他の誰でもない、ジェラールがやるべきことだ。
だからと言って喜びが浮かぶような歪んだ愛情は持ち合わせていないので、ジェラール自身も痛い。
馬鹿なことをしているだろうか。
フレッドやアンネムは怒るだろうな。エリクやジェイドはきっと悲しむ。
団長は…、どうだろうな。怒るかもしれない、呆れるかもしれない。
一人一人の顔を思い浮かべ覚悟を新たにする。
これは必要なことなんだ。彼女と、自分のために。
部屋を出ると待ち構えていたようにレイドが姿を現した。
「昨日はお騒がせして申し訳ありませんでした」
「俺に謝罪は不要だ」
レイドが謝っているのはあのアーリアの従兄弟だと言う男が騒いだことを言っているのだろう。あまり冷静に話の出来るタイプではないようだ。
ジェラールも交渉の相手には選ばない。
「レイド、いつごろ移動するつもりだ?」
「まずは姫に納得いただいてから、と思っていましたが、それも難しそうですね」
「あの馬鹿を排除して話をすれば考えはするだろう」
理を諭せば聞く耳は持っている。頷くかはわからないが。
「全く、あの方にも困ったものです。 あれで姫にすっかり警戒されてしまった」
アーリアの性格からしてあの男を好意的に受け入れることはないな。
レイフィールドの貴族派からは好意を得ることを求められて派遣されたんだろうが、逆効果だ。
「黙っていれば女性が放ってはおかない見た目だというのに、もう少し有効利用してほしいですね」
「お前は最大限に利用しつくしているからな」
単なる感想だが、レイドは皮肉に受け取ったらしい。口の端を持ち上げ暗い瞳で笑う。
「そうしないと生きていけないんですよ。 私のような弱者はね」
「弱者に甘んじている人間の言い訳だな」
何の力もない子供ならそれも通用するが、こいつはすでに自分に合った武器を見つけて戦うことができる。好きこのんで後ろ暗い道を歩く人間の心理など想像する気もなかった。
「言ってくれますね、騎士殿は」
「御託はいい。 あいつを説得するなら早くしろ、この場所はすぐに知れる」
コーラルが報告すれば騎士団が動く。猶予は無い。
「わかっていますよ。 ご協力感謝します」
心にもない言葉を薄い笑みで述べ、レイドは立ち去った。
その背を見送って足を階下に向ける。
一階の廊下は侵入や逃亡を防ぐため、かなり狭い。レイドの部下たちは一人通るのがやっとだろう。アーリアやジェラールのような小さい人間には左程問題にはならないが、騎士団の人間なら多少の足止めにはなるだろう。
フレッドやエリクもまだ身体は小さいが、団長は彼らを先頭に立たせるような馬鹿な真似はしない。ある程度一人でも戦える人間を突入させるはずだ。
腕が立ち、狭い場所でも問題にしない人物であればジェイドも可能性はある。
彼は医療班の指揮をとる必要もあるが、今回のように治療を必要とする人間が多くないときには部下に任せて前線に出ることもあった。
部下たちの顔を浮かべながら誰が来るか予想を立てる。
ジェラールの役割はレイドらがアーリアを連れて逃げるまでの時間稼ぎだ。
実力も戦い方もよくわかっている相手を迎え撃つのは、簡単そうに見えて骨が折れる。
(さて、俺が誘拐犯に協力していると気づくヤツはいるかな)
試すような気持ちで迎え撃つ算段を始める。
妨害はありふれた方法なので気づかれることはないだろうが、警戒するに越したことはなかった。
ここで露見しては水の泡なのだから。
3
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
秘密の姫は男装王子になりたくない
青峰輝楽
恋愛
捨て子と言われて苛められながらも強く育った小間使いの少女リエラは、赤ん坊の時に死んだと思われていた王女だった。
リエラを迎えに来た騎士は彼女に、彼女の兄の王太子の身代わりになって欲しいと願うけれど――。
男装の姫と恋愛に不器用な騎士。国を二分する内乱。シリアス多めのラブラブエンドです。
「小説家になろう」からの転載です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる