Faith

桧山 紗綺

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23 駒

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 レイドを呼びつけたシリルは苛立った様子でテーブルを叩いている。
「彼女にちゃんと説明はしたのか! なんで僕にあんな態度を取らせるんだ!」
 座っている足は落ち着かない心情そのままに小刻みに動いている。行儀の悪いことだ。
「全く彼女は何を考えているんだ。 僕がわざわざ迎えに来たのだから嬉しそうに笑顔の一つくらい見せてもいいだろう」
 驚くべきことに本気でそう思っているらしい。レイドですらあの行為に不快感を抱いたくらいだ。姫が喜ぶわけがない。
 騎士団で育った彼女はそこらの娘より肝が据わっている。夜会でレイドが近づいたときも警戒を全く見せずに給仕の娘を演じきっていた。
 彼女なら国王として望まれる役割すら演じて見せるだろう。
 彼には彼女の生い立ちなどを話したことはない。興味もないだろう。他国で育った憐れな娘くらいにしか考えていない。
 馬鹿馬鹿しい。彼女の価値は自分の保身しか考えていない人間にはわからないものだ。
 稀有な能力は持って生まれた才能か、騎士団で身に着けた技術か。
 いずれにせよ、得難い才だ。今回依頼されたのが彼らで残念なくらいだ。
 あの才に高い価値を見出す人間はレイフィールド以外にも多くいる。
 騎士団が手放す気でいることが信じられないくらいだ。
 ジェラールの存在がなければここまでスムーズに彼女を連れてくることは叶わなかっただろう。それだけに彼女との関係が気になった。
 捕らえた時はただの貴族令息だと思っていた。本当ならあの場でレイド達に抗って逃げる選択肢もあったはず。
 どういうつもりでレイドに協力をしているのか不明だが彼がそれを明かすときは協力関係が終わるときだろう。
 邪魔になったとき、彼のような人間を排除するのは危険を伴う。出来れば円満に関係を終わらせたいのだが、どうなることか。
 目の前ではシリルが姫への不満や現状への文句を繰り返している。
 親戚に甘い言葉で連れてくるように言われてその気になったようだが、この性格では無理だろう。
 適当に宥めて部屋を辞する。意味のない呼び出しも無視ができないのが辛い。
 いっそ自分一人の方が楽だった。
 これからのことを考えれば足手まといでしかないシリルも追い返せない。
 レイフィールドはレイドの仕事と深い関わりのある国だ。
 今いる国とは比べ物にならないほど多くの仕事が舞い込む。
 混乱期だからなのか金払いも良い者が多い。
 貴族派と呼ばれる連中は個人的な感情はともかく仕事を生み出すことに一役買っている。
 彼らのために、という意識は無いが、レイフィールドで商売をする以上避けられない取引もある。
 そんな打算の他に純粋に今回の商品に興味があった。
 普段扱っている品物とはまた違う。商品そのものの価値以外に見えない価値が付随する彼女は、扱い一つで周りにも影響を及ぼす。
 世界を動かす、と言っては大げさだが、確実に国を動かす品だ。
 普段は感じない高揚感に僅かながら危機感を抱く。冷静さを失えば自分のような人間は生きることが難しい。そう計算する頭が残っている事に安堵する。
 彼女もレイドも駒という点では大差なかった。
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