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24 言葉の中の真実
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すっと深く息を吸う。
波立つ感情が治まると、少し冷静さが戻ってきた。
今回のことはジェラールの単独行動だ。
団長はああ見えて現実的な人で、騎士団の現状を無視してアーリアを手放すことはしない。
ジェラールの言っていたことを心配はしても、国に戻せばいいなんて極端な思考はしないだろう。
「失いたくない、ですか」
言葉の中から真実を探す。
「大切にされてますね。 私は」
何処まで何を考えているのかはわからないけれど、それだけはわかった。
アーリアが自身をあまり大切にしないからの言葉なんだと思う。
任務で危険に身を投じることもそうだけれど、最近は自分が貴族との橋渡しになれないかと可能性を探っていた。
ジェラールのことだからそれも気づいていたはずだ。
存在を知られていないからこそ密やかに貴族に近づくことができる。
自分だから役に立てることもあるのではないかと、方法を探していた。
ジェラールが心配するのも当然だった。アーリアだって、騎士団の誰かが顔繋ぎのために貴族の令嬢に近づくようなことをしたら止める。
個人の感情故なら止めないけれど、騎士団の為、と考えてのことならもっと別の方法があると言って反対した。
アーリアを育てたのは騎士団と、ジェラールだ。
馬鹿なことを考えている自分をずっと案じてくれていた。
そう気づくと羞恥に顔が染まる想いだった。ひとりでぐるぐる考えた挙句、一番大切な人に心配をかけるなんて。
「無理をしてるわけじゃなかったんだけどな」
アーリアは本気で自分に出来ることを探していただけで、嫌なことを無理してやってたわけじゃない。それを言ったらまた怒りそうなので言わないけれど。
「ジェラールは…」
何を考えてレイドに協力を申し出たんだろう。
ジェラールのことは一番近くで見てきた。
この夜までジェラールとレイドに接点はなかったはずだ。
突然の邂逅を契機として何かをしようとしている。それが何なのか見つけなければいけない。
コーラルが団長に連絡しているはずなので、それほど遠くない内にここの所在は知れる。その時に移動させられてなければいいのだけれど。
はっきり言えるのはアーリアに国に戻る気がないということ。
ジェラールが何を考えていようがそこは変わらない。
あの国を故郷だと思ったことなんて無いのに、戻りたいわけがなかった。
「どうしよう」
帰りたくない、ではあの青年やレイドは納得しない気がする。
特に青年の方は話が通じなそうな人間に見えた。
彼がアーリアを連れて行きたい理由。当然情緒的な理由ではなく利が絡んでいるはずだ。
レイドは彼に王位継承権がないと言った。そんな人間が荒れた国情の中、何を望んだのか。
アーリアが戻ったところで内乱は収まらない。戦を収めるのはそんなに簡単なことではない。
国軍派と貴族派。国軍派はかなり乱暴に争いを仕掛けた。不意を突かれ、国政の中心人物がかなりの数亡くなった。
軍事力を背景に国を掌握しようとしている国軍派と自分たちの手に権力を取り戻そうとしている貴族派の関係はこの5年変わっていない。
元々評判の悪かった貴族派だったが、国軍派の暴挙に巻き込まれた市民も多く、貴族派に付く者もいる。市民が加わったことで戦乱は大きくなるばかりだ。
市民の中にまとめ役がいればまだ話も違っただろうに。
考えてみれば、確かにアーリアが貴族派に付いて国軍派に勝利すれば丸く収まるかもしれない。元は国王に付き随って政務を執り行っていたのだ。混乱も最小限ですむ可能性はあった。嫌だけど。
青年の目的はアーリアが王になった時に傍で利権を得ることと見て間違いない。
王になれない彼が一番大きな権力を得る方法はアーリアの夫になることだから。
周りがどう見るか、貴族派に大きく反対する理由はない。国王の血を引いていたとしても幼い時から他国で育った娘を民が国主として認めるとは限らない。しかし前国王の甥が夫であれば、それも問題ない。
レイドは、どういうつもりなんだろう。連れ戻すみたいなことを言っていたけれど、本心かはわからない。国政に興味がありそうにも見えないし、目的は金銭なのかな。
レイドが女性を攫っていた証拠はない。けれど、アーリアを連れて来た手段が手馴れていたし、周りにいた男たちはレイドの部下だ。
青年に対する態度は丁寧であったものの、そこに尊敬の念は全く感じられなかった。寧ろ見下しているように見える。
精神的に繋がっていることはないだろう。
金銭目的なら、交渉の仕様もある。
取りあえずアーリアが目指すのはレイドの犯罪行為の内容を掴むことでいい。これからどうなるにしても、攫われた女性が他にいるのなら調べておきたい。
当初の目的を思い出してやるべきことが明確になった。
意識が定まると頭もはっきりとしてきた。まず必要なのは身体を休めること。
瞳を閉じてゆっくりと闇の中に意識を落としていった。
波立つ感情が治まると、少し冷静さが戻ってきた。
今回のことはジェラールの単独行動だ。
団長はああ見えて現実的な人で、騎士団の現状を無視してアーリアを手放すことはしない。
ジェラールの言っていたことを心配はしても、国に戻せばいいなんて極端な思考はしないだろう。
「失いたくない、ですか」
言葉の中から真実を探す。
「大切にされてますね。 私は」
何処まで何を考えているのかはわからないけれど、それだけはわかった。
アーリアが自身をあまり大切にしないからの言葉なんだと思う。
任務で危険に身を投じることもそうだけれど、最近は自分が貴族との橋渡しになれないかと可能性を探っていた。
ジェラールのことだからそれも気づいていたはずだ。
存在を知られていないからこそ密やかに貴族に近づくことができる。
自分だから役に立てることもあるのではないかと、方法を探していた。
ジェラールが心配するのも当然だった。アーリアだって、騎士団の誰かが顔繋ぎのために貴族の令嬢に近づくようなことをしたら止める。
個人の感情故なら止めないけれど、騎士団の為、と考えてのことならもっと別の方法があると言って反対した。
アーリアを育てたのは騎士団と、ジェラールだ。
馬鹿なことを考えている自分をずっと案じてくれていた。
そう気づくと羞恥に顔が染まる想いだった。ひとりでぐるぐる考えた挙句、一番大切な人に心配をかけるなんて。
「無理をしてるわけじゃなかったんだけどな」
アーリアは本気で自分に出来ることを探していただけで、嫌なことを無理してやってたわけじゃない。それを言ったらまた怒りそうなので言わないけれど。
「ジェラールは…」
何を考えてレイドに協力を申し出たんだろう。
ジェラールのことは一番近くで見てきた。
この夜までジェラールとレイドに接点はなかったはずだ。
突然の邂逅を契機として何かをしようとしている。それが何なのか見つけなければいけない。
コーラルが団長に連絡しているはずなので、それほど遠くない内にここの所在は知れる。その時に移動させられてなければいいのだけれど。
はっきり言えるのはアーリアに国に戻る気がないということ。
ジェラールが何を考えていようがそこは変わらない。
あの国を故郷だと思ったことなんて無いのに、戻りたいわけがなかった。
「どうしよう」
帰りたくない、ではあの青年やレイドは納得しない気がする。
特に青年の方は話が通じなそうな人間に見えた。
彼がアーリアを連れて行きたい理由。当然情緒的な理由ではなく利が絡んでいるはずだ。
レイドは彼に王位継承権がないと言った。そんな人間が荒れた国情の中、何を望んだのか。
アーリアが戻ったところで内乱は収まらない。戦を収めるのはそんなに簡単なことではない。
国軍派と貴族派。国軍派はかなり乱暴に争いを仕掛けた。不意を突かれ、国政の中心人物がかなりの数亡くなった。
軍事力を背景に国を掌握しようとしている国軍派と自分たちの手に権力を取り戻そうとしている貴族派の関係はこの5年変わっていない。
元々評判の悪かった貴族派だったが、国軍派の暴挙に巻き込まれた市民も多く、貴族派に付く者もいる。市民が加わったことで戦乱は大きくなるばかりだ。
市民の中にまとめ役がいればまだ話も違っただろうに。
考えてみれば、確かにアーリアが貴族派に付いて国軍派に勝利すれば丸く収まるかもしれない。元は国王に付き随って政務を執り行っていたのだ。混乱も最小限ですむ可能性はあった。嫌だけど。
青年の目的はアーリアが王になった時に傍で利権を得ることと見て間違いない。
王になれない彼が一番大きな権力を得る方法はアーリアの夫になることだから。
周りがどう見るか、貴族派に大きく反対する理由はない。国王の血を引いていたとしても幼い時から他国で育った娘を民が国主として認めるとは限らない。しかし前国王の甥が夫であれば、それも問題ない。
レイドは、どういうつもりなんだろう。連れ戻すみたいなことを言っていたけれど、本心かはわからない。国政に興味がありそうにも見えないし、目的は金銭なのかな。
レイドが女性を攫っていた証拠はない。けれど、アーリアを連れて来た手段が手馴れていたし、周りにいた男たちはレイドの部下だ。
青年に対する態度は丁寧であったものの、そこに尊敬の念は全く感じられなかった。寧ろ見下しているように見える。
精神的に繋がっていることはないだろう。
金銭目的なら、交渉の仕様もある。
取りあえずアーリアが目指すのはレイドの犯罪行為の内容を掴むことでいい。これからどうなるにしても、攫われた女性が他にいるのなら調べておきたい。
当初の目的を思い出してやるべきことが明確になった。
意識が定まると頭もはっきりとしてきた。まず必要なのは身体を休めること。
瞳を閉じてゆっくりと闇の中に意識を落としていった。
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