Faith

桧山 紗綺

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21 暴かれた秘密

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「まあ、彼の言っていたことを要約すると、あなたは隣国の国王の血を引く姫君で、彼はその従兄弟らしいということですね」
 端的な説明だったけれど理解はできない。
「そう言われても…」
「ええ、隣国は国王不在の内乱状態。 国王の血を引いていたところでもう姫とは言えません」
「そうではなくて、私がそんな血筋だなんて…。 恐ろしい妄想ですね」
「そうですか?」
 信じられないと言う言葉を問いで否定する。
「彼の国の王は淡い金髪と青い瞳をしていたらしいですよ。
 丁度あなたみたいに、ね」
 レイドの言う通りアーリアの髪は薄い、白金のような色をしていた。瞳も青い。
「彼ともよく似ていたじゃないですか。
 王族だと言い張っても通用しますよ、きっと」
 他人事だからなのかレイドの声は淡々と聞こえるほどに穏やかで、現実味がなく聞こえる。
「色だけ、は似ていましたけれど…。 彼の言っていることは荒唐無稽です。 意味がわかりません」
「まあ、そうでしょうね。 あんな話を頭から信じるようでは、まともとは言えない」
 そう言うのならレイドは彼の考えに賛同しているわけではないのだろう。
 だとすれば協力している理由が不明だ。金銭だけではリスクに見合わない。
「何故あの人はそんなことを言うのでしょうか」
 アーリアを姫君に仕立てたところでメリットがあるとは思えないのだけれど。
「あなたが隣国の情勢についてどこまでご存じか知りませんが、あの国の内乱は国王が亡くなったところに端を発しています。
 亡くなった国王に子供がなく、すんなり後を継げる人間がいなかったのは国民にとって不幸でしたね。
 国王不在の隙をついて反乱を起こした国軍派と、王を支えて政治を取っていた貴族派に分かれて争いが始まった」
 アーリアは黙って頷く。騎士団が巻き込まれたのもその争いが元になっている。
「ずいぶん長引いてますが、両派には矛を収めるきっかけがない」
 意味ありげにレイドの瞳がアーリアの上を滑って行く。
 一瞬見えた光に肌が粟立った。
「あなたを後継者として祭り上げれば内乱が治まるかもしれない。
 そう考えた人間がいても、おかしくないのではないですか」
 巻き込まれたものの大きさに寒気が全身に広がっていく。
「ちなみにあなたに乱暴をしていた彼には王位継承権がありません」
 動揺しているアーリアを置いてレイドは説明を続けていく。ゆっくりと、ひとつひとつ反論を封じていく様は楽しそうにすら見える。
「王位継承権があるのは直系の子のみ。 他家に嫁いだ王家の姫君を母に持つ彼は王にはなれない…」
「でも…」
 アーリアを姫だとでっちあげるくらいなら、血の繋がった誰かから選んだ方が手っ取り早いし、問題が少ない。
 この国なら直系に拘らず血統の良さや能力で誰かしら引っ張り出してくるだろう。
「争いを続けるくらいなら血統に拘るのを止めればいい。 他国ならそう考えるところでしょうが…。
 残念なことにそういった話し合いができる人間がいないようですね」
 意味ありげな瞳が鋭く光った。
「だから、あなたなのですよ、アルクディーリア。
 …いえ、アーリアとお呼びするべきでしょうか」
 今度こそ息が止まった。
「名を変え、国を変え、戦乱から逃れた亡き国王ただ一人の御子。
 あなたを必要としている場所があるのですよ。 私はその声に応えてあなたをお連れする役目を頂いただけ」
「何を、言っているんですか…?」
 青年が口にした名前だけでなくアーリアの呼称まで知っているなんて…。
「もう演技は不要ですよ。 彼の名も聞いています」
 否定しようとしたアーリアの言葉を遮り、突きつける。
「野蛮な騎士たちに交じっての生活にはご苦労も多かったのではないですか?
 安全のためとはいえ、本来ならばそのような場所とは無縁なご身分でしょうに」
 アーリアが騎士団に身を隠していたことまで調べている。
「ちょっと待ってください! あなたは何を言っているんですか?!」
「この期に及んで誤魔化しなどは不要ですよ。
 戦後の混乱期にあなたを攫い自国民として育てた騎士団の思惑にも想像はついています。
 内乱状態のままの方が、都合がいいのでしょうね」
 レイドの声は確信に満ちていた。アーリアの素性を調べ上げ、疑いの余地なしと判断したと言うのだろうか。
「私についてきてください。 あのような不自由な暮らしはさせません。
 名を偽る必要もない、隠れて生きなくてもいい。 あなたに相応しい場所を作ってみせますから」
 自信に満ちた声で語る彼は何者なのだろう。先程の青年などよりよっぽど事情に通じている。
「王の血を引くあなたならば内乱を収めることができる」
 レイドの言葉がどこか遠くに聞こえた。
 いつ、どこで、なぜ。
 頭の中をそんな言葉がぐるぐると回る。
「無理に答えを出さなくてもかまいません。 あなたは黙って私について来ればいい」
 不遜な物言いだったがレイドは至極当然のような顔をしていた。
「あなたがあるべき場所に戻ることを彼も望んでいますよ」
「…!」
 その言葉に全身が震えた。衝撃に言葉を発することも出来ない。
 誰が、望んでると言った?
 言葉を失って震えだしたアーリアに満足げに笑むとレイドは部屋を出ていった。
 最後にアーリアの胸を抉って。
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