21 / 41
21 暴かれた秘密
しおりを挟む
「まあ、彼の言っていたことを要約すると、あなたは隣国の国王の血を引く姫君で、彼はその従兄弟らしいということですね」
端的な説明だったけれど理解はできない。
「そう言われても…」
「ええ、隣国は国王不在の内乱状態。 国王の血を引いていたところでもう姫とは言えません」
「そうではなくて、私がそんな血筋だなんて…。 恐ろしい妄想ですね」
「そうですか?」
信じられないと言う言葉を問いで否定する。
「彼の国の王は淡い金髪と青い瞳をしていたらしいですよ。
丁度あなたみたいに、ね」
レイドの言う通りアーリアの髪は薄い、白金のような色をしていた。瞳も青い。
「彼ともよく似ていたじゃないですか。
王族だと言い張っても通用しますよ、きっと」
他人事だからなのかレイドの声は淡々と聞こえるほどに穏やかで、現実味がなく聞こえる。
「色だけ、は似ていましたけれど…。 彼の言っていることは荒唐無稽です。 意味がわかりません」
「まあ、そうでしょうね。 あんな話を頭から信じるようでは、まともとは言えない」
そう言うのならレイドは彼の考えに賛同しているわけではないのだろう。
だとすれば協力している理由が不明だ。金銭だけではリスクに見合わない。
「何故あの人はそんなことを言うのでしょうか」
アーリアを姫君に仕立てたところでメリットがあるとは思えないのだけれど。
「あなたが隣国の情勢についてどこまでご存じか知りませんが、あの国の内乱は国王が亡くなったところに端を発しています。
亡くなった国王に子供がなく、すんなり後を継げる人間がいなかったのは国民にとって不幸でしたね。
国王不在の隙をついて反乱を起こした国軍派と、王を支えて政治を取っていた貴族派に分かれて争いが始まった」
アーリアは黙って頷く。騎士団が巻き込まれたのもその争いが元になっている。
「ずいぶん長引いてますが、両派には矛を収めるきっかけがない」
意味ありげにレイドの瞳がアーリアの上を滑って行く。
一瞬見えた光に肌が粟立った。
「あなたを後継者として祭り上げれば内乱が治まるかもしれない。
そう考えた人間がいても、おかしくないのではないですか」
巻き込まれたものの大きさに寒気が全身に広がっていく。
「ちなみにあなたに乱暴をしていた彼には王位継承権がありません」
動揺しているアーリアを置いてレイドは説明を続けていく。ゆっくりと、ひとつひとつ反論を封じていく様は楽しそうにすら見える。
「王位継承権があるのは直系の子のみ。 他家に嫁いだ王家の姫君を母に持つ彼は王にはなれない…」
「でも…」
アーリアを姫だとでっちあげるくらいなら、血の繋がった誰かから選んだ方が手っ取り早いし、問題が少ない。
この国なら直系に拘らず血統の良さや能力で誰かしら引っ張り出してくるだろう。
「争いを続けるくらいなら血統に拘るのを止めればいい。 他国ならそう考えるところでしょうが…。
残念なことにそういった話し合いができる人間がいないようですね」
意味ありげな瞳が鋭く光った。
「だから、あなたなのですよ、アルクディーリア。
…いえ、アーリアとお呼びするべきでしょうか」
今度こそ息が止まった。
「名を変え、国を変え、戦乱から逃れた亡き国王ただ一人の御子。
あなたを必要としている場所があるのですよ。 私はその声に応えてあなたをお連れする役目を頂いただけ」
「何を、言っているんですか…?」
青年が口にした名前だけでなくアーリアの呼称まで知っているなんて…。
「もう演技は不要ですよ。 彼の名も聞いています」
否定しようとしたアーリアの言葉を遮り、突きつける。
「野蛮な騎士たちに交じっての生活にはご苦労も多かったのではないですか?
安全のためとはいえ、本来ならばそのような場所とは無縁なご身分でしょうに」
アーリアが騎士団に身を隠していたことまで調べている。
「ちょっと待ってください! あなたは何を言っているんですか?!」
「この期に及んで誤魔化しなどは不要ですよ。
戦後の混乱期にあなたを攫い自国民として育てた騎士団の思惑にも想像はついています。
内乱状態のままの方が、都合がいいのでしょうね」
レイドの声は確信に満ちていた。アーリアの素性を調べ上げ、疑いの余地なしと判断したと言うのだろうか。
「私についてきてください。 あのような不自由な暮らしはさせません。
名を偽る必要もない、隠れて生きなくてもいい。 あなたに相応しい場所を作ってみせますから」
自信に満ちた声で語る彼は何者なのだろう。先程の青年などよりよっぽど事情に通じている。
「王の血を引くあなたならば内乱を収めることができる」
レイドの言葉がどこか遠くに聞こえた。
いつ、どこで、なぜ。
頭の中をそんな言葉がぐるぐると回る。
「無理に答えを出さなくてもかまいません。 あなたは黙って私について来ればいい」
不遜な物言いだったがレイドは至極当然のような顔をしていた。
「あなたがあるべき場所に戻ることを彼も望んでいますよ」
「…!」
その言葉に全身が震えた。衝撃に言葉を発することも出来ない。
誰が、望んでると言った?
言葉を失って震えだしたアーリアに満足げに笑むとレイドは部屋を出ていった。
最後にアーリアの胸を抉って。
端的な説明だったけれど理解はできない。
「そう言われても…」
「ええ、隣国は国王不在の内乱状態。 国王の血を引いていたところでもう姫とは言えません」
「そうではなくて、私がそんな血筋だなんて…。 恐ろしい妄想ですね」
「そうですか?」
信じられないと言う言葉を問いで否定する。
「彼の国の王は淡い金髪と青い瞳をしていたらしいですよ。
丁度あなたみたいに、ね」
レイドの言う通りアーリアの髪は薄い、白金のような色をしていた。瞳も青い。
「彼ともよく似ていたじゃないですか。
王族だと言い張っても通用しますよ、きっと」
他人事だからなのかレイドの声は淡々と聞こえるほどに穏やかで、現実味がなく聞こえる。
「色だけ、は似ていましたけれど…。 彼の言っていることは荒唐無稽です。 意味がわかりません」
「まあ、そうでしょうね。 あんな話を頭から信じるようでは、まともとは言えない」
そう言うのならレイドは彼の考えに賛同しているわけではないのだろう。
だとすれば協力している理由が不明だ。金銭だけではリスクに見合わない。
「何故あの人はそんなことを言うのでしょうか」
アーリアを姫君に仕立てたところでメリットがあるとは思えないのだけれど。
「あなたが隣国の情勢についてどこまでご存じか知りませんが、あの国の内乱は国王が亡くなったところに端を発しています。
亡くなった国王に子供がなく、すんなり後を継げる人間がいなかったのは国民にとって不幸でしたね。
国王不在の隙をついて反乱を起こした国軍派と、王を支えて政治を取っていた貴族派に分かれて争いが始まった」
アーリアは黙って頷く。騎士団が巻き込まれたのもその争いが元になっている。
「ずいぶん長引いてますが、両派には矛を収めるきっかけがない」
意味ありげにレイドの瞳がアーリアの上を滑って行く。
一瞬見えた光に肌が粟立った。
「あなたを後継者として祭り上げれば内乱が治まるかもしれない。
そう考えた人間がいても、おかしくないのではないですか」
巻き込まれたものの大きさに寒気が全身に広がっていく。
「ちなみにあなたに乱暴をしていた彼には王位継承権がありません」
動揺しているアーリアを置いてレイドは説明を続けていく。ゆっくりと、ひとつひとつ反論を封じていく様は楽しそうにすら見える。
「王位継承権があるのは直系の子のみ。 他家に嫁いだ王家の姫君を母に持つ彼は王にはなれない…」
「でも…」
アーリアを姫だとでっちあげるくらいなら、血の繋がった誰かから選んだ方が手っ取り早いし、問題が少ない。
この国なら直系に拘らず血統の良さや能力で誰かしら引っ張り出してくるだろう。
「争いを続けるくらいなら血統に拘るのを止めればいい。 他国ならそう考えるところでしょうが…。
残念なことにそういった話し合いができる人間がいないようですね」
意味ありげな瞳が鋭く光った。
「だから、あなたなのですよ、アルクディーリア。
…いえ、アーリアとお呼びするべきでしょうか」
今度こそ息が止まった。
「名を変え、国を変え、戦乱から逃れた亡き国王ただ一人の御子。
あなたを必要としている場所があるのですよ。 私はその声に応えてあなたをお連れする役目を頂いただけ」
「何を、言っているんですか…?」
青年が口にした名前だけでなくアーリアの呼称まで知っているなんて…。
「もう演技は不要ですよ。 彼の名も聞いています」
否定しようとしたアーリアの言葉を遮り、突きつける。
「野蛮な騎士たちに交じっての生活にはご苦労も多かったのではないですか?
安全のためとはいえ、本来ならばそのような場所とは無縁なご身分でしょうに」
アーリアが騎士団に身を隠していたことまで調べている。
「ちょっと待ってください! あなたは何を言っているんですか?!」
「この期に及んで誤魔化しなどは不要ですよ。
戦後の混乱期にあなたを攫い自国民として育てた騎士団の思惑にも想像はついています。
内乱状態のままの方が、都合がいいのでしょうね」
レイドの声は確信に満ちていた。アーリアの素性を調べ上げ、疑いの余地なしと判断したと言うのだろうか。
「私についてきてください。 あのような不自由な暮らしはさせません。
名を偽る必要もない、隠れて生きなくてもいい。 あなたに相応しい場所を作ってみせますから」
自信に満ちた声で語る彼は何者なのだろう。先程の青年などよりよっぽど事情に通じている。
「王の血を引くあなたならば内乱を収めることができる」
レイドの言葉がどこか遠くに聞こえた。
いつ、どこで、なぜ。
頭の中をそんな言葉がぐるぐると回る。
「無理に答えを出さなくてもかまいません。 あなたは黙って私について来ればいい」
不遜な物言いだったがレイドは至極当然のような顔をしていた。
「あなたがあるべき場所に戻ることを彼も望んでいますよ」
「…!」
その言葉に全身が震えた。衝撃に言葉を発することも出来ない。
誰が、望んでると言った?
言葉を失って震えだしたアーリアに満足げに笑むとレイドは部屋を出ていった。
最後にアーリアの胸を抉って。
5
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
秘密の姫は男装王子になりたくない
青峰輝楽
恋愛
捨て子と言われて苛められながらも強く育った小間使いの少女リエラは、赤ん坊の時に死んだと思われていた王女だった。
リエラを迎えに来た騎士は彼女に、彼女の兄の王太子の身代わりになって欲しいと願うけれど――。
男装の姫と恋愛に不器用な騎士。国を二分する内乱。シリアス多めのラブラブエンドです。
「小説家になろう」からの転載です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる