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14 給仕の噂話
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「ねえ、聞いた?」
厨房に戻ったところで数人の女の子がアーリアに話しかけてきた。
「なあに?」
彼女たちは落ち着かない様子で目配せをし合っている。
「あのね。 さっき、あなたに声をかけていた人なんだけど…」
「ええ」
金髪の彼の話か。
貴公子という言葉がふさわしい外見に見合わない目をした人だった。
「女の子に声を掛けては攫っているっていう噂があるらしいわよ」
「え?」
「あの黒髪の方と周りのお嬢様たちが話してたの!」
黒髪というのはジェラールのことだろう。令嬢に囲まれていた黒髪の男はジェラールだけだ。
「えっと、私に声をかけていた人っていうのは金髪の少し若い男性のことかしら?」
「そうそう!」
「え、そうなの? ちょっとかっこいいなーと思って見てたのに、やだ、怖い!」
厨房の中に居たのが丁度年若い少女たちしかいなかったせいか一斉ににぎやかに喋りだした。
「あの人…、別のパーティでも見たんだけどそこでも私たちみたいな使用人に声をかけてたわ」
「そう! さっきの話でもハウスメイドとかキッチンメイドとかに声を掛けてたって言ってた!」
「本当? そうならどうしようもない男ね」
怯え半分憤り半分な声で少女たちが男を評する。
確かにわざわざメイドを選んで声を掛けているならとんでもなくろくでもない男だ。まともに付き合う気もないのに、その時限りの遊びに付き合わされた女性は将来に影響する傷を負わされることになる。
「最低ね」
アーリアの言葉に最初に話しかけてきた少女が怯えたように目を伏せた。
「それでね、あなたが声を掛けられてたから…」
言いづらそうに言葉を止める。
「お嬢様たちの話が本当なら私も攫われるかもしれない、ってことよね?」
騒いでいた少女たちもぴたっと静まった。
「え、えっと、その…」
不安そうな表情で少女たちがアーリアを見つめる。彼女たちが怖がるのは当然だ。自分も狙われるかもしれないのだから。
この中に狙われる子がいるかもしれない、そんな不安を吹き飛ばすように笑う。
「大丈夫よ。 噂かもしれないんだし」
内心の予想とは反対の言葉を口にする。少女たちも不安を肯定してほしいわけじゃなく、否定してほしいのだ。
少しほっとした顔で微かに笑みを浮かべる。そんな話があると聞いてしまったらこうした夜会に出なければならない子は不安で仕方ないはずだ。
主に命じられたら断れないので、なおさらに怖いのかもしれない。
「そう、よね」
アーリアの言葉に頷く。
「使用人を口説くのが本当だとしても、人さらいまではさすがに…、ねえ?」
いくらなんでも、と笑い飛ばせないのは実際にいなくなっている人がいる為なのか、否定する声も弱く響いた。
安心しきれない少女たちにもう一言安心できる材料を伝える。
「大丈夫よ。 みんな、一人で帰るわけじゃないんだから」
使用人たちは一緒に帰るわけではないけれど、港からそれぞれの屋敷までは馬車で送られるので一人きりになることはない。
同じ主人を持つ者は一緒の馬車だし、そうでなくても御者は一緒なので道中にそう危険はないだろう。
「そっか、そうよね!」
アーリアの言葉に少女たちは勇気づけられたように頷いた。
「大丈夫に決まってるわよ。 みんな一緒だものね!」
明るい声に思わず笑みがこぼれる。
笑顔を取り戻した少女たちはとても可愛い。日頃あまり縁のない光景に心が和んだ。
彼女たちを守るためなら多少の偽りなんて痛みを感じない。そんな自分を嫌だとも思わなかった。
厨房に戻ったところで数人の女の子がアーリアに話しかけてきた。
「なあに?」
彼女たちは落ち着かない様子で目配せをし合っている。
「あのね。 さっき、あなたに声をかけていた人なんだけど…」
「ええ」
金髪の彼の話か。
貴公子という言葉がふさわしい外見に見合わない目をした人だった。
「女の子に声を掛けては攫っているっていう噂があるらしいわよ」
「え?」
「あの黒髪の方と周りのお嬢様たちが話してたの!」
黒髪というのはジェラールのことだろう。令嬢に囲まれていた黒髪の男はジェラールだけだ。
「えっと、私に声をかけていた人っていうのは金髪の少し若い男性のことかしら?」
「そうそう!」
「え、そうなの? ちょっとかっこいいなーと思って見てたのに、やだ、怖い!」
厨房の中に居たのが丁度年若い少女たちしかいなかったせいか一斉ににぎやかに喋りだした。
「あの人…、別のパーティでも見たんだけどそこでも私たちみたいな使用人に声をかけてたわ」
「そう! さっきの話でもハウスメイドとかキッチンメイドとかに声を掛けてたって言ってた!」
「本当? そうならどうしようもない男ね」
怯え半分憤り半分な声で少女たちが男を評する。
確かにわざわざメイドを選んで声を掛けているならとんでもなくろくでもない男だ。まともに付き合う気もないのに、その時限りの遊びに付き合わされた女性は将来に影響する傷を負わされることになる。
「最低ね」
アーリアの言葉に最初に話しかけてきた少女が怯えたように目を伏せた。
「それでね、あなたが声を掛けられてたから…」
言いづらそうに言葉を止める。
「お嬢様たちの話が本当なら私も攫われるかもしれない、ってことよね?」
騒いでいた少女たちもぴたっと静まった。
「え、えっと、その…」
不安そうな表情で少女たちがアーリアを見つめる。彼女たちが怖がるのは当然だ。自分も狙われるかもしれないのだから。
この中に狙われる子がいるかもしれない、そんな不安を吹き飛ばすように笑う。
「大丈夫よ。 噂かもしれないんだし」
内心の予想とは反対の言葉を口にする。少女たちも不安を肯定してほしいわけじゃなく、否定してほしいのだ。
少しほっとした顔で微かに笑みを浮かべる。そんな話があると聞いてしまったらこうした夜会に出なければならない子は不安で仕方ないはずだ。
主に命じられたら断れないので、なおさらに怖いのかもしれない。
「そう、よね」
アーリアの言葉に頷く。
「使用人を口説くのが本当だとしても、人さらいまではさすがに…、ねえ?」
いくらなんでも、と笑い飛ばせないのは実際にいなくなっている人がいる為なのか、否定する声も弱く響いた。
安心しきれない少女たちにもう一言安心できる材料を伝える。
「大丈夫よ。 みんな、一人で帰るわけじゃないんだから」
使用人たちは一緒に帰るわけではないけれど、港からそれぞれの屋敷までは馬車で送られるので一人きりになることはない。
同じ主人を持つ者は一緒の馬車だし、そうでなくても御者は一緒なので道中にそう危険はないだろう。
「そっか、そうよね!」
アーリアの言葉に少女たちは勇気づけられたように頷いた。
「大丈夫に決まってるわよ。 みんな一緒だものね!」
明るい声に思わず笑みがこぼれる。
笑顔を取り戻した少女たちはとても可愛い。日頃あまり縁のない光景に心が和んだ。
彼女たちを守るためなら多少の偽りなんて痛みを感じない。そんな自分を嫌だとも思わなかった。
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