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12 怪しげな青年
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正体を隠して潜入するのはそれなりに気の張る任務だ。
きらびやかなシャンデリアの光にも特に心が躍ることはない。
手にした盆に酒を乗せながら耳をそばだて、有益な情報が聞こえないか注意する。
視線を巡らせるとジェラールが目に入った。
女の子数人と一緒に何か話している。ダンスでも申し込まれているのだろうか。
こうしてジェラールと潜入する機会は多い。
他の隊員が場に合った社交を身に着けていないためなのだが、正直ジェラールがこうした任務に就くのはあまりよくないと思っていた。
顔を晒しての潜入は危険も多い。責任ある立場ならなおさらのこと。
もっと安全な場所にいてほしいのに…。
でも、お互い様かもしれない。
信頼している。先程言われた言葉はうれしかったけれど、心配しないなんて無理だ。
人数の少なさを出動回数で誤魔化して任務をこなしている。
激務なのは仕方がない。しかし、ジェラールのそれは度を越していた。
アーリアとて少なくない回数の出動をしているが、ジェラールは副長として指揮を執りながら、こうして自ら情報収集に当たってみせる。
本人に出来る能力と体力がある。だからこそ困っていた。
もっと楽に情報を得ることができればいいが、騎士団の協力者は中流以下の層にしかいない。貴族の情報を得ようと思えば自分たちで動くしかない。
それを変えようと思っていても、今のところ信頼できる協力者は見つけられていなかった。
同じ給仕の娘に片づけたグラスを渡し、新しいグラスを受け取る。
酒の入ったグラスを配りながら会場にいる人々を観察する。今回の夜会は年齢層が高いようだ。その中でジェラールは目立っていた。
若い来場者は大きく二つの組に分かれている。ジェラールを囲んだ女性中心のグループと、もう一つジェラールよりいくつか年上の青年を中心とした男性のグループ。
(ジェラール…睨まれてる)
会場の少女たちを独り占めしているように見えるのだろう。残された男性たちは穏やかでない瞳で少女たちとジェラールを見ていた。
と、その中の一人の青年の視線がこちらに向いた。偶然を装ってさりげなく目を逸らす。
青年は周りに一声を掛けてアーリアのいる方へ向かってきた。面倒な予感を感じつつ給仕として用を聞くため不動で待つ。
近づいてきた青年はとても整った顔をしている。
見惚れるほど美しい華やかな容姿と艶やかな笑顔の裏に、形容できない何かを感じた。
失礼にならない程度の笑みを顔に乗せる。
「飲み物を貰えるかな」
優しげに微笑んでアーリアに声を掛ける。
貴公子然とした物腰と笑顔で女性の視線を集めているのだろう。
今日に限ってはジェラールにその座を奪われているが。
差し出したグラスに手を伸ばし、意味ありげな瞳でアーリアを見つめる。
彼が抜けてきた輪に視線をやる。集団にいたのは名のある貴族たちの子弟だが、彼の顔に見覚えはなかった。
「違っていたら申し訳ないんだけど、前にも会ったよね?」
戸惑いの表情を顔に乗せながら青年を観察する。嘘を言う理由は何だろう。
首を振り困惑した瞳で青年を見返す。
「ああ、ごめん。 誘惑してると思われたかな。 そんなつもりじゃなかったんだけど」
笑いながらグラスを傾ける。まだ立ち去るつもりはないようだ。
「先月子爵邸で開かれたパーティでも見かけたような気がしてさ」
「恐れ入りますが記憶違いではないでしょうか」
柔らかな口調ではっきりと否定する。
青年は確かめるように顔を覗き込む。礼を失した行動ではあるが注意をするような立場ではない。黙って青年の気が済むのを待つ。
「そうか、失礼をしたね」
納得したのかグラスを戻し、ありがとうと一言残して輪に戻って行く。
後姿を見ながら唐突に青年が言い出した言葉の意味を考える。
確かに子爵家のパーティにもアーリアは行ったけれど今のような格好ではなかった。
何故彼は来てもいない夜会に出ていたような話をしたのだろうか。
ただからかっていただけならいいのだけれど。
きらびやかなシャンデリアの光にも特に心が躍ることはない。
手にした盆に酒を乗せながら耳をそばだて、有益な情報が聞こえないか注意する。
視線を巡らせるとジェラールが目に入った。
女の子数人と一緒に何か話している。ダンスでも申し込まれているのだろうか。
こうしてジェラールと潜入する機会は多い。
他の隊員が場に合った社交を身に着けていないためなのだが、正直ジェラールがこうした任務に就くのはあまりよくないと思っていた。
顔を晒しての潜入は危険も多い。責任ある立場ならなおさらのこと。
もっと安全な場所にいてほしいのに…。
でも、お互い様かもしれない。
信頼している。先程言われた言葉はうれしかったけれど、心配しないなんて無理だ。
人数の少なさを出動回数で誤魔化して任務をこなしている。
激務なのは仕方がない。しかし、ジェラールのそれは度を越していた。
アーリアとて少なくない回数の出動をしているが、ジェラールは副長として指揮を執りながら、こうして自ら情報収集に当たってみせる。
本人に出来る能力と体力がある。だからこそ困っていた。
もっと楽に情報を得ることができればいいが、騎士団の協力者は中流以下の層にしかいない。貴族の情報を得ようと思えば自分たちで動くしかない。
それを変えようと思っていても、今のところ信頼できる協力者は見つけられていなかった。
同じ給仕の娘に片づけたグラスを渡し、新しいグラスを受け取る。
酒の入ったグラスを配りながら会場にいる人々を観察する。今回の夜会は年齢層が高いようだ。その中でジェラールは目立っていた。
若い来場者は大きく二つの組に分かれている。ジェラールを囲んだ女性中心のグループと、もう一つジェラールよりいくつか年上の青年を中心とした男性のグループ。
(ジェラール…睨まれてる)
会場の少女たちを独り占めしているように見えるのだろう。残された男性たちは穏やかでない瞳で少女たちとジェラールを見ていた。
と、その中の一人の青年の視線がこちらに向いた。偶然を装ってさりげなく目を逸らす。
青年は周りに一声を掛けてアーリアのいる方へ向かってきた。面倒な予感を感じつつ給仕として用を聞くため不動で待つ。
近づいてきた青年はとても整った顔をしている。
見惚れるほど美しい華やかな容姿と艶やかな笑顔の裏に、形容できない何かを感じた。
失礼にならない程度の笑みを顔に乗せる。
「飲み物を貰えるかな」
優しげに微笑んでアーリアに声を掛ける。
貴公子然とした物腰と笑顔で女性の視線を集めているのだろう。
今日に限ってはジェラールにその座を奪われているが。
差し出したグラスに手を伸ばし、意味ありげな瞳でアーリアを見つめる。
彼が抜けてきた輪に視線をやる。集団にいたのは名のある貴族たちの子弟だが、彼の顔に見覚えはなかった。
「違っていたら申し訳ないんだけど、前にも会ったよね?」
戸惑いの表情を顔に乗せながら青年を観察する。嘘を言う理由は何だろう。
首を振り困惑した瞳で青年を見返す。
「ああ、ごめん。 誘惑してると思われたかな。 そんなつもりじゃなかったんだけど」
笑いながらグラスを傾ける。まだ立ち去るつもりはないようだ。
「先月子爵邸で開かれたパーティでも見かけたような気がしてさ」
「恐れ入りますが記憶違いではないでしょうか」
柔らかな口調ではっきりと否定する。
青年は確かめるように顔を覗き込む。礼を失した行動ではあるが注意をするような立場ではない。黙って青年の気が済むのを待つ。
「そうか、失礼をしたね」
納得したのかグラスを戻し、ありがとうと一言残して輪に戻って行く。
後姿を見ながら唐突に青年が言い出した言葉の意味を考える。
確かに子爵家のパーティにもアーリアは行ったけれど今のような格好ではなかった。
何故彼は来てもいない夜会に出ていたような話をしたのだろうか。
ただからかっていただけならいいのだけれど。
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