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番外編 ~それぞれの未来~

これから先の幸せも <クリスティーヌ視点>

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 屋敷には明るく弾んだ空気が漂っていた。
 忙しく準備をする使用人たちが行き交い、その表情には楽しみに逸る心と誇らしさが見える。

 準備の進捗を確認にきた私へ料理長がつつがなく進んでいることを報告する。
 会場の準備も問題ないと伝えにきた執事へ頷いて今日の主役たちの様子を見に行くことにした。

 廊下を進み、柔らかな茶色の扉の前で足を止める。

 合図をして扉を開けると二対の瞳がこちらに向けられた。
 淡く明るい茶色と鮮やかな紫色。
 どちらも両親から受け継いだものだった。

 二対の目が丸くなり、ぱっと喜色に弾ける。

「「お母様!!」」

 座っていた敷物から立ち上がり駆け寄る子供たちを受け止める。
 茶色の瞳を持つ息子は私と同じ金の髪を短くした活発な子だ。
 私と同じ紫色の瞳をし艶やかに波打つ茶色の髪を下ろした娘はいつも活発な兄を見てはにこにこと微笑んでいる。
 3つだけ年の離れた子供たちは性格は違うもののとても仲が良くいつも一緒にいる。

「セドリック、セレスティーヌ」

 抱き着いてきた子供たちの頭を撫でてから身を離す。

「二人とも何をしていたの?」

「誕生日プレゼント!」

「ふたりで見てたの」

 手を引く二人が示すのは今日誕生日を迎えるこの子たちのために贈られてきたプレゼント。
 広げていたのは珍しい装丁をした本。

「これ、すっごくおもしろいんだよ!」

「リリたちがくれたの」

 セドリックが指差した本をセレスティーヌが手に取って見せてくれる。
 ほら、と開かれた本は重ねられた厚めの紙に美しい刺繍を施した布が貼られており、中には丁寧な文字で物語が書いてあった。
 アランの弟妹にあたるダニエル、ミシェル、リリーナから贈られたプレゼントを嬉しそうに見せる子供たちに微笑む。
 彼らから贈られてきたカードには各地に伝わる小話をまとめた本だと記されていた。
 各地を旅するダニエルが集めてきた話をリリーナが文字にしてまとめ、本の装丁はミシェルが担当したという。
 セレスティーヌが物語を好んでいるという話を聞いて作ってくれたのだろう、売り物顔負けの出来に感心する。

 嬉しそうにそれぞれ良いところを語り出す子供たちの話を聞きながら相槌を打つ。
 この贈り物を用意してくれたアランの弟さん妹さんも今ではみんな立派に独り立ちをした。
 リリーナは学園卒業を経て王宮の文官に、ミシェルは続けていた刺繍の仕事で認められ今では多くの注文を受ける職人になっている。ダニエルは妹さんたちがそれぞれ自分たちの生きる場所を作ったのを見届けて少し離れた町に移り住んで行った。
 仕事の関係上交通の便が良いところに住むことを以前から考えていたらしく、リリーナが文官になり王都に住み、ミシェルに将来を考える相手ができたのをきっかけに自分の生活を変えることにしたようだった。
 まだ彼自身の幸せを考えている様子はないと聞くけれど、周囲からは頼りにされ好ましい視線を向けられているという。いつか彼も自分だけの幸せを掴めることでしょう。
 紆余曲折のあった彼らが幸せになるのはとても喜ばしいこと。
 彼らを誰よりも心配していた夫の嬉しそうな顔を思い出し口元を綻ばせる。
 こうして子供たちの誕生日を祝ってくれるような繋がりが残せてよかったと心から思う。
 夫の穏やかな笑みを思い浮かべていると、扉が叩かれ思い描いていた通りの表情を浮かべたアランが子供部屋に入ってくる。

「みんな、ここにいたのか」

「「お父様!!」」

 部屋の中にゆっくりと歩み入ってくるアランへセドリックが走り寄る。
 本を持っていて出遅れたセレスティーヌがトコトコとアランの下へ歩み寄り本を掲げた。

「ああ、みんなからの本を読んでいたのか」

 優しい笑顔で装丁を撫でるアランを愛しさを持って見つめる。

「さあ、そろそろ準備をしようか。
 今日は二人の誕生日だ、一つ大きくなって立派になった姿をお爺様や皆に見せてあげてくれ」

 大好きなお爺様も来ていると聞いて二人がはしゃいだ声を上げる。
 偶然にも同じ日に生まれた子供たちの誕生日を祝うために私の父母もアランの義父母も毎年予定をあけて滞在してくれていた。
 おかげでセドリックもセレスティーヌも祖父母が大好きだ。
 セドリックなどは武で名を馳せた東のお爺様に憧れているようで、お爺様から剣を習いたいと言い出している。
 それを聞けば嬉々として教えてくれるだろう。東のお義兄様たちには身体が心配だから大人しくしてくれと言われているようだけれど、じっとしているのは性に合わないと言っていた。
 子供への指導ならそれほど体には障らないだろうからお義父様さえよければお願いしてみようと思っている。
 長男のセドリックは私に似て魔力が多いため心身を鍛え能力を正しく使えるようにするのは必須だ。
 いずれせねばならないことであれば本人のやる気が芽生えた時が良い。
 セレスティーヌはまだ幼いのでまだはっきりとはわからないが魔力は多くはないように感じられる。
 どちらかと言えばアランに似たようで本を読んだり話をしていると時折はっとするようなことを言う。
 何にでも興味を示し楽しそうに物事を吸収していく子供たちの成長が楽しみだった。

 二人を抱き上げたアランが部屋を出て衣裳を用意してある部屋に向かう。
 無邪気に今日会える人たちの話をして笑い合っている子供たちを使用人に任せアランと二人自分たちの部屋に戻る。

「ふふっ、セドリックもセレスティーヌもとても楽しみにしてるわね。
 お爺様たちに会えるがうれしくて仕方ないって感じだったわ」

 さっきの二人の様子を伝えると微笑ましそうに目を細める。

「そっか、今年はレオンも婚約者を連れてくるし二人が新しく家族になる人と仲良くなれるといいな」

 お兄様は昨年ようやく婚約を結んだ。
 問題が噴出していた西方の貴族の中でも堅実な領地経営をしていた家の令嬢で、お兄様はこれで四方の家の結びつきがやっとまともに戻ると政略のようなことを言っていたけれど、彼女自身を気に入っているのが妹の私にはわかる。
 お兄様の様子にアランも苦笑していたけれど、お相手のご令嬢もお兄様が素直じゃないことはわかっていると微笑んでいた。本当に良い人を見つけたと思うわ。

 着替えを終え衣裳部屋から出ると先に着替え終わっていたアランが立ち上がって腕を広げた。

「綺麗だクリスティーヌ」

 崩さないようにそっと髪に口づけるアランの胸に頬を寄せる。ぎゅっと抱きしめたいけれど化粧が付いたらいけない。
 代わりに手を取り指を絡めると頬を緩めたアランが肩を抱き寄せる。
 優しげな面差しは変わらないけれど経験に裏打ちされた自信が彼を堂々と見せていた。
 私を見つめる淡い茶色の瞳に愛おしさがこみ上げてくる。

「キスしたいわ」

 溢れる想いのままにキスをしたいと思ってしまう。
 わずかに目を見開いたアランがほんのりと目元を赤く染める。

「クリスティーヌ……」

 化粧が崩れてしまうから我慢するしかないのよね。
 残念だと思っていると肩を抱いていたアランの手が離れる。

「……」

 離れた手が頬に当てられ見上げる茶色の瞳が近づいてくる。
 目を細めると柔らかな唇が軽く頬に触れた。

「これで我慢して?」

 ね?と囁く声は余裕に聞こえるのに、はにかむ表情の差異に胸が高鳴った。
 頷いて手を解くと腕を差し出される。
 手を乗せてアランのエスコートで歩き出す。
 変わらず惜しみない愛情を捧げてくれる夫にこの先も深い感謝と愛情を返していきたいと思う。
 触れ合う場所から伝わる温かさに微笑み合う。
 これまでも色々あったけれど、ここからも支え合っていけると信じている。

「クリスティーヌ」

「なぁに、アラン?」

 私を向いたアランに目を合わせる。

「ありがとう。
 俺の今の幸せはクリスティーヌあってのことだ」

 柔らかな眼差しで感謝と愛情を示すアランに私も同じだと笑みを返す。

「私も同じよ。
 アランがいたからこそ私も子供たちもみんな今の幸せがあるの」

 微笑み合い感謝を伝えているとおめかしをした子供たちが手を振っているのが目に入った。
 側に行き手を繋ぐとにぱっと満面の笑みで笑う。
 愛らしい子供たちに夫婦で目を見合わせて微笑む。
 この子たちと出会えてよかった。アランと出会えてよかった。
 小さな手を包んで皆の待つ庭園へ向かう。
 こうして少しずつ世界を広げていつか自分たちの幸せを見つけてほしい。
 早くと先に立って手を引く子供たちの後を追いながらそう願うのだった。






 Fin.
















 こちらで番外編も完結となります。
 本当はあと一話用意していたんですが(ダニエルと父親の話)保存していた物が消えてしまい、どうやっても復元できず……。
 もう同じものは書けないのでここで完結とさせていただきます。
 あと『レイチェルの罪』に関しましては番外編の最後に入れており、時系列を侯爵が婚約届を出した後に変更しています。

 ここまで好きなように書いてきましたが、改めて読んでくださった皆様、応援してくださった方、感想を送ってくださった皆様に感謝申し上げます。
 皆様のおかげでここまで書いてこれました、本当にありがとうございました!!




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