90 / 97
四年目 ~春の訪れ 新婚の二人~
二人でいれば
しおりを挟む卒業後の俺たちは北侯と東侯の領地、それから王都の3点の間の、真ん中辺りに居を構えることになった。
それぞれの父の思惑と、王家の狙いが合致した結果だ。俺たちの希望とも一致している。
どちらかと言えば北よりの領地は北侯の持っていた領地の一つ。多分侯爵様は最初からこれを狙っていたのだと思う。
領地の管理を任されたのではなく、独立した家として与えられたのがその証拠だ。その際に北侯が持っていた爵位の一つも与えられている。
簡単にできることではないのだが、そこに新王の思惑が絡み早々に実現した。
『君の活躍の全ては明かせないから私から直接褒賞を贈ることはできないが、この先陞爵する口実ができるのを楽しみにしているよ』
爵位を継ぐ際に、新王からのそんな恐ろしい伝言をいただいた。
期待に応えられるかわからない、というか国王の目に留まるような活動をする予定もないのだが。
どうもたまたま城で捉まった時に受けた問いへの答えを気に入ったらしく、時折父たちを通して言葉をいただくことがあった。恐れ多くも目を掛けてもらえていることは嬉しい。
その信頼を裏切らぬよう一歩一歩目の前のことをやっていくだけだ。
クリスティーヌは研究を続け、定期的に学園に通っている。
俺は侯爵様の下で学びながら自領を治めるのに試行錯誤しているところだ。
学んだことで取り入れられそうなことは自分の領地で試したり、父たちに伝えてたりしている。
弟たちは父の領地で暮らし、働きながら自分にできることを模索している。
見習いとして様々な職業に触れることで自身の適性を把握してきている。彼らが道を決めるのもそう遠くはない日になるだろう。
すでに自分たちの中で答えは出ているかもしれない。
それを聞かせてくれる日が楽しみだ。
俺たちは、変わらず睦まじく過ごしている。
「アラン!」
「クリスティーヌ」
駆けてきたクリスティーヌの身を抱き止め、頬にキスをする。
「会いたかった」
会うのは2週間ぶりだ。
腕の中に彼女がいることがたまらなく嬉しい。
頬を擦り寄せるクリスティーヌをぎゅっと抱きしめてから抱擁を解く。
「お帰り、クリスティーヌ。
今回はどうだった?」
「希望者の中からかなり絞ったみたいで大きな混乱はなかったわ」
研究の一貫でクリスティーヌは学園で希望者に魔法の簡易発動方式を教えている。
とはいっても対象は学生ではなく国に仕える者で、魔法の技術や魔力が優れている人物よりも国に対する忠誠心が高い者や公正に職務を行える者から選抜されていた。
技術はいずれ広く知られていくものだが、最初に教える者は国を脅かす危険がなく、自己の目的のために領分を侵すことのない人物が望ましい。
そんな方針の下始まった勉強会は受講者たちにも好評で、選考基準から色々なサンプルが得られると教授も大喜びだという。
「そろそろアランにも来てほしいって教授が言ってたわよ?」
低魔力の者を対象に検証したいことがあるらしい。
予定を思い浮かべ大丈夫だと頷く。
「来月なら丁度王都に行く用事があるから時間が取れるよ。
終わったら、久々に二人で外に食事にでも行こうか」
「いいわね」
すぐに返ってくる賛同の声に目を細める。
幸せだ。
先の予定の話はほどほどに、週末の予定へと話は移り変わる。
「予定より早く戻って来れたから、明日には出発してしまおうか?」
微笑みを浮かべキスをすると蕩けるような目を向けられた。
「ゆっくり時間が取れそうで良かったわ」
忙しくなるんじゃないかと予想してたと口元を緩める。
「何がなんでも空けるよ」
初めてのことも多く忙しいのは確かだけど、何よりも優先したいものがある。
数日後に訪れるクリスティーヌの誕生日。
最愛の人が生まれた祝うべき日であり、初めての結婚記念日。
学生だった俺たちはまとまった休みを取れなかったため、世間でいう蜜月は過ごしていない。
学園の友人などは十分砂を吐きそうな甘さだったと言うかもしれないが。
それはともかくそのために予定を調節していた。
これが全く初めての経験だったら予定を空けるのに酷く苦労しただろう。父や侯爵様に助けを求めないと難しかったかもしれない。
ここで男爵家での経験が生きている。
色々な体験をさせてもらったことは俺の宝だ。
クリスティーヌの腕を取り、屋敷に向かって歩き出す。
甘えるように肩を寄せるクリスティーヌの髪に口づける。
友人の言うこともあながち間違いじゃない。
彼女といればいつでも甘い気持ちが胸の奥から湧いてくる。
終わりのない蜜月をこれからも二人で。
寄り添い、想い合いながら歩いていく。
出会えた幸運とお互いに手を伸ばし掴んだ幸せを胸に。
一瞬一瞬が代えがたい愛おしい日々を重ねていくと改めて誓った。
Fin.
.
.
.
こちらで完結となります。
最後までお読みいただいてありがとうございます。
読んでいただいた方、応援してくださった方、感想を送ってくださった方、皆様ありがとうございました!
おかげ様で完結することができました!
こちらで本編は終了となります。
後いくつか番外編を書いていこうかなと思っていますので、「こんな話が見たい」や「あの人どうなったの?」、「作中のここの部分を掘り下げてほしい」などありましたら感想でお寄せくださると嬉しいです。できるだけ形にしていきたいなと思います。
途中設定間違ってるところやこうした方が良かったかもと思うところなどもあったのですが、完結することを優先にして走り抜けることにしました。
ですのでこれから読み返しておかしな部分や気になる部分を修正していきます。
(途中、最初に贋金をばら撒いた女性が逃げた当主の婚外子であるという記載は、当主の父の婚外子の記載に直してあります。 誤記載申し訳ありません)
大筋は変えませんが一つだけ、『レイチェルの罪』だけ本編から抜いて番外編に入れ、それに合わせてレイチェルと牢で会った時期を少し後ろに倒します。修正中は非表示にさせていただきます、申し訳ありません。
※タイトルは同じままです。もう読まなくていいよ!という方はタイトルで避けていただけるようお願い致します。
それでは最後までお読みいただきありがとうございました!
番外編はいくつか書けたら順次投稿していきます!
2023.6.11追記
『レイチェルの罪』は時系列を婚約届を出した後に変え、番外編最後に移動しました。
0
お気に入りに追加
647
あなたにおすすめの小説
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
愛されたくて、飲んだ毒
細木あすか(休止中)
恋愛
私の前世は、毒で死んだ令嬢。……いえ、世間的には、悪役令嬢と呼ばれていたらしいわ。
領民を虐げるグロスター伯爵家に生まれ、死に物狂いになって伯爵のお仕事をしたのだけれど。結局、私は死んでからもずっと悪役令嬢と呼ばれていたみたい。
必死になって説得を繰り返し、領主の仕事を全うするよう言っても聞き入れなかった家族たち。金遣いが荒く、見栄っ張りな、でも、私にとっては愛する家族。
なのに、私はその家族に毒を飲まされて死ぬの。笑えるでしょう?
そこで全て終わりだったら良かったのに。
私は、目覚めてしまった。……爵位を剥奪されそうな、とある子爵家の娘に。
自殺を試みたその娘に、私は生まれ変わったみたい。目が覚めると、ベッドの上に居たの。
聞けば、私が死んだ年から5年後だって言うじゃない。
窓を覗くと、見慣れた街、そして、見慣れたグロスター伯爵家の城が見えた。
私は、なぜ目覚めたの?
これからどうすれば良いの?
これは、前世での行いが今世で報われる物語。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※保険でR15をつけています。
※この物語は、幻想交響曲を土台に進行を作成しています。そのため、進みが遅いです。
※Copyright 2021 しゅんせ竣瀬(@SHUNSEIRASUTO)
悪役令息、拾いました~捨てられた公爵令嬢の薬屋経営~
山夜みい
恋愛
「僕が病気で苦しんでいる時に君は呑気に魔法薬の研究か。良いご身分だな、ラピス。ここに居るシルルは僕のために毎日聖水を浴びて神に祈りを捧げてくれたというのに、君にはがっかりだ。もう別れよう」
婚約者のために薬を作っていたラピスはようやく完治した婚約者に毒を盛っていた濡れ衣を着せられ、婚約破棄を告げられる。公爵家の力でどうにか断罪を回避したラピスは男に愛想を尽かし、家を出ることにした。
「もううんざり! 私、自由にさせてもらうわ」
ラピスはかねてからの夢だった薬屋を開くが、毒を盛った噂が広まったラピスの薬など誰も買おうとしない。
そんな時、彼女は店の前で倒れていた男を拾う。
それは『毒花の君』と呼ばれる、凶暴で女好きと噂のジャック・バランだった。
バラン家はラピスの生家であるツァーリ家とは犬猿の仲。
治療だけして出て行ってもらおうと思っていたのだが、ジャックはなぜか店の前に居着いてしまって……。
「お前、私の犬になりなさいよ」
「誰がなるかボケェ……おい、風呂入ったのか。服を脱ぎ散らかすな馬鹿!」
「お腹空いた。ご飯作って」
これは、私生活ダメダメだけど気が強い公爵令嬢と、
凶暴で不良の世話焼きなヤンデレ令息が二人で幸せになる話。
【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。
西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。
路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。
実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく―――
※※
皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。
本当にありがとうございました。
悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる