【完結】幼い頃からの婚約を破棄されて退学の危機に瀕している。

二年目 ～領地編～

手紙

　

あれからクリスティーヌ様とは何度か手紙のやり取りをしている。



一通目の手紙にはレポートを提出した際の教授たちの反応について記されていた。
提出したレポートは教授たちにかなりの衝撃をもたらしたらしい。
それはそうだろう。俺も驚いたくらいだし、魔法に精通した教授たちであればより驚愕は大きかったはずだ。
教授たちも俺と同じ判断のようで、詳しく調べるまでクリスティーヌ様はあの発動方法の使用と他言を禁じられたという。

『せっかくアランに教わった記号も使用を禁じられてしまいました』

万が一見られないようにと記号自体も使用を差し控えるように言われてしまったらしい。
しょんぼりした気持ちが伝わってくるような筆致に笑みが零れる。

俺の復学のことにも触れてあった。

『お父様から復学のことを聞いたわ。　おめでとう、アラン。
レオンお兄様も当然だって顔をしながらとっても嬉しそうにしてたのよ』

一緒に学園に通えるかもしれない、その時は先輩として頼りにしていると書かれている。
クリスティーヌ様の手紙を見ていると学園に戻る時がより待ち遠しくなってくる。
準備や復習をすると共に、日々の仕事にもより身を入れた。


◇


二通目の手紙には魔法の新しい発動方法が簡略発動方式（仮）と名付けられたこと。
教授たちが研究を進めていて、今のところ誰が試しても同じ結果が得られていることが書かれていた。
複雑な魔法に対して有効かはまだわからないが、基礎魔法ではどれも成功を収めているとか。
嬉しそうな様子が目に浮かんでくる。
それから進捗の報告の他に講義内容についての相談が書かれていた。
一年前自分も同じようなところで悩んだことを思い出す。
疑問が解消できるよう丁寧に返事を書く。
学園の図書館に役立ちそうな本があったのを思い出し手紙の端に記載した。
手紙が着く頃には解決しているかもしれないけれど、それでもいい。
流麗な文字を見ながら返事を書くのは思いの外心を踊らせた。


◇


次に届いた三通目の手紙の端っこにはレオンの近況やクリスティーヌ様のお友達の話などが書いてあり、顔が綻ぶ。
レオンも元気にしているみたいだな。
簡略発動方式の方は上級魔法の一部で成功例があったと書かれていた。
上級魔法のような複雑な魔法でまで使用できるなんて、想像を超える驚きだ。
一部の教授たちが狂喜乱舞する姿が目に浮かぶ。
クリスティーヌ様に負担がかかってなければいいんだが。
結びの言葉を体調を気遣う文句に変え封筒に入れた。


◇


四通目の手紙は、なぜかレオンからの手紙も一緒に届いた。
届けてくれたクレイルさんの前で開くと、クリスティーヌ様の手紙の方には簡略発動方式の研究の進捗、それからその方式が正式に認められる見込みとなったことが書かれている。
クリスティーヌ様が認められたようで嬉しい。
今回は用件のみで端には何も書いていなかった。
少し残念な気持ちになりながら手紙を畳む。

続いてレオンからの手紙を開けると、できるだけ早く王都に戻ってくるようにと書かれていた。
理由には触れられていない。
驚きに目を見開く俺にすでに内容を聞いていたらしきクレイルさんから早めに準備をしてほしいと告げられた。
急ぎの旅立ちの理由は今は言えないと聞かされる。
雪が降る前に戻ってほしいというのがレオン、侯爵様からの指示だと。

そう言われれば何かあったのだとわかる。
すぐに荷物をまとめ翌日には旅立った。
馬車の中でレオンの手紙を読み返す。
悪い想像が頭をもたげそうになるが目を閉じて気持ちを落ち着かせる。
王都まで一週間ほど。
そんなことばかり考えていたら身体が持たない。
窓の外を眺めて出発の時のことを思い出す。
侯爵領に来た当初より少し増えた荷物と慌ただしい旅立ちを見送りに来てくれた人たちに嬉しい気持ちがこみ上げる。
自分が歩いて来た道が確かに形作られていったのを感じた。