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二年目 ~領地編~
贋金の調査
しおりを挟むクレイルさんが作ったリストを持ち領内の高級店を回る。
発見した贋金は6枚、その多くが早目の避暑に来たという貴婦人が支払った物だった。
「まだそれほど数が多くありませんね」
件の女性は最初に贋金を発見した衣料品店で品物を購入した以降は宝飾品店でいくつか品物購入し、同じく半金貨2枚で支払った。
そして滞在中の食事や酒を用意してほしいと依頼したレストランで1枚を使用している。
どれも避暑に来た貴婦人が求めたという形で、どの店も珍しいと思いこそすれ怪しむことはなかったようだ。
それが発覚を遅らせる狙いなのかは不明だ。
一度に大量の半金貨を持ち込むのは不自然で人の口の端に上りやすくなる。
少しずつ流通させるつもりだったのか、あるいは試しなのかもしれない。
ここで気づかれないようなら他の大きな都市でも贋金を広げるつもりの。
そうなれば一早く贋金に気づきながら手をこまねき他都市へと蔓延を許したと侯爵家が謗られるのは避けられない。
今回早目に気づけたのは運が良かった。
なんとしても突き止め被害を食い止めなければ。
そうでなければレオンやクリスティーヌ様、大切な人たちに危害が及んでしまう。
それは耐えがたかった。
「しかし、アランはよく気づきましたね」
クレイルさんの言葉に男爵家にいた頃何度か見たことがあると答える。
「はい、男爵家で冬の備蓄品の手配は俺の仕事だったので。
その商会への支払いで何度か半金貨は見たことがありましたから」
いくつかの商会への支払いが丁度半金貨ほどの値段なので、毎回それで支払っていた。
ちなみに半金貨と言いながら金貨の半分の価値というわけではない。
昔はそうだったらしいが何代か前の王が即位の際、金貨を新しいデザインに変え、更に金貨の価値を釣り上げた。
俗説では自分の肖像が描かれた金貨は前の王よりも価値を高くすべしと通達したせいだと言われている。
ずいぶんと早く代替わりしたその次の王の時に貨幣の価値を変えるのは議会での承認を得ないとできないように法が改正された。
余程混乱したのだろう。
新王になって最初の決議がそれだったところに当時の苦労が偲ばれる。
今では半金貨の価値は金貨の四分の一だ。
本来なら四半金貨と呼ぶべきなのかもしれないが、名称が変わらなかったため今でも半金貨と呼ばれている。
「避暑に来ている貴婦人の方の調べはついたのですか?」
俺に調査を命じると共に女性の身元を調べていたクレイルさんへ聞くと、まだどこの誰かはわかっていないと教えてくれる。
「宿ではなく別荘を借りているようなのでそちらの貴族の縁でしょうが、どこの家かまではまだわかっておりません」
別荘を所有している家の者ではなく、また別の人間に貸しているようで誰が使用しているのかはっきりとしない。
出入りしている者も少なく調査を難しくしているようだった。
「そうですか……。
俺の方でも酒や食事を依頼された店に聞きましたが、使用人もどこの家か名乗らず、屋敷に止めてあった馬車などにも紋章がなかったと言っていましたね。
まるでお忍び旅行のようだと」
「その通りかもしれませんね」
1枚の半金貨を手にしてクレイルさんが呟く。
贋半金貨6枚の内5枚は避暑に来た貴婦人が使用した物。
残りの1枚は酒場で、ある男が使用していた。
これで望むだけ酒をくれと出された半金貨に店主は警戒を抱いたが、男の身元はその別荘の滞在者が保証すると言われ引き下がったようだ。
それなりの店だが貴族が出入りするような店ではない。それ以上踏み込めなかったことは想像に難くなかった。
たまたま宝飾品店の人が酒場の店主と知り合いで話を聞いていなかったらその男のことは掴めなかっただろう。
酒場の店主には男がいつも訪れる時間を聞いている。
毎日ではないがかなりの頻度で訪れているようなので男を掴まえることはできるだろう。
酔った男から屋敷の内情を聞ければ良いが。
男を調べたいから店に出入りする許可を求めると店主はかなり協力的だった。
見るからに怪しい男と長年この地を治めてきた侯爵家の使用人では後者に協力するのは当然かもしれないけど。
俺の依頼に安堵を見せた店主は何に巻き込まれたのかという不安より、侯爵家で調べているなら大丈夫だという安心が強く見えた。
それだけ侯爵家がこの地を良く治めていた証のようで。
彼らが領民に信頼されていることが誇らしかった。
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